【ルポ】AIを支えるローテク労働「ラベリング」のシビアな現場

2019/8/29

見えざる「人の手」

ここはインド・ベンガル湾から西に約40マイル入ったブバネーシュワルの町。ナミタ・プラダン(24)はオフィスのデスクに向かい、世界の反対側の病院で撮影された映像をにらんでいる。
コンピュータモニタが映し出すのは、誰かの大腸の内壁。そこにポリープはないかとプラダンは目を凝らす。時折、赤く腫れたニキビのような小さい突起を発見するたび、マウスとキーボードを使ってそれをぐるっと丸で囲む。
プラダンに医師の資格はない。それでも、いずれ医師の仕事を肩代わりするかもしれない人工知能(AI)に、彼女はポリープの見分け方を教えている。
プラダンをはじめ数十人の若者が、小さなオフィスビルの4階に机を並べて作業に励む。歩行者、一時停止の標識、工場に石油タンカーまで、写真や動画に写ったあらゆる物体に注釈を付ける「ラベリング」が彼らの仕事だ。
AIはテック業界の未来だ──業界の人間は、口を揃えてそう言うだろう。実際、いわゆる「機械学習」のおかげでAIは急速に進化している。だが機械学習に不可欠な人の手について、テック界の大物はなかなか語ろうとしない。
AIに物を教えているのは人間、それも膨大な数の人間なのだ。
ブバネーシュワルにあるiMerit社のオフィス(Rebecca Conway/The New York Times)

ぼろアパートでAI教育