【エリック・シュミット】YouTube買収、スピーディーな決断が重要

2019/6/17
エリック・シュミットがサン・マイクロシステムズとノベルを経て、Googleにやってきたのは46歳のとき。ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンは28歳で、社員の多くも大学を出たばかりの若者たちだった。20歳近くの年齢差がありながら、互いに敬意を払い、究極の「学習する組織」を彼らはどうやって作り上げたのか。

現在はGoogleの親会社アルファベットのエグゼクティブ会長職も辞して、MITの「インテリジェンスクエスト」というイニシアチブの顧問を務めるシュミットに、リード・ホフマンが話を聞いた(インタビューが行われたのは2017年2月8日)。
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ホフマン あなたはGoogleのヨーロッパオフィスを作ったそうですね。
シュミット 私が入ったときは、Googleのオフィスはアメリカにしかありませんでした。アメリカ以外からの収入はなかった。
(写真:ロイター/アフロ)
そこで世界営業担当のオミド(・コーデスタニ)に話をすると、オミドは「ああ、時間がなかったんです」と言う。
そこで私は、「オミド、来週ヨーロッパに行って、オフィスを作るまで帰ってくるな」と言い渡しました。
オミドは「本気ですか?」とびっくりしていました。私は「本気だ」と真面目な顔で言いました。
次の日曜日の夜、オミドはカリフォルニアから飛行機でロンドンに向かいました。そしてその週の終わりまでに、ロンドン支社のトップを雇い、パリとハンブルクの支社のトップも決めてきました。
すごく生産的な1週間だったわけです。今、ヨーロッパ事業はGoogleの利益のかなりの部分を占めています。
もし進出が1年遅れていたらどうなっていたと思いますか。現在の利益はどのくらい小さくなっていたでしょう。迅速に動いてグローバルな収入源を確保することはとても重要なのです。
私がまだサン・マイクロシステムズの下っ端だった時代、AT&Tとの契約が、なかなかまとまらず、困っていたときがありました。
すると上司のバーニー(・J・ラクルート)は、「ニュージャージーに飛んで、契約をまとめるまで帰ってくるな」と言いました。私もオミドみたいに「本気ですか?」と聞き返したものです。
そして飛行機に乗って、ホテルに部屋を取り、小さな白いクルマを借りて、毎日AT&Tに通いました。1週間かかりましたが、契約を取り付けることができました。
ホフマン それでGoogleでもスピーディーな決断を重視したわけですね。
シュミット スピーディーな決断は何よりも重要です。たとえ間違った決断でも、早く決断を下したほうがいいことがほとんどです。
Googleでは支出制限期間中、毎週金曜日にミーティングをしていましたが、その後は月曜日にスタッフ会議、水曜日に経営会議、金曜日にプロダクトミーティングを開いていました。
社員の移動がスムーズにいくよう考えた結果、このようなスケジュールになりました。スタッフはみな、どのミーティングでどんな決定が下されるかを知っていました。つまり1週間待てば、自分の話を聞いてもらう機会があるとわかっていた。
現在のような規模になっても、Googleがスピーディーな決定を下すことに驚いたと、多くの人は言います。
ほとんどの大企業には、弁護士が大勢いて、意思決定者も大勢いて、責任が不透明で、物事が硬直している。少しずつそうなっていくんです。
でも、重要なビジネス案件は、非常にスピーディーに起こるものです。
GoogleはYouTube買収も約10日で決めました。極めて歴史的な事案でしたが、私たちは集中して一気に決めました。取締役会を開いたのも1回だけです。
(写真:PHILIP SCOTT ANDREWS/The New York Times)
ホフマン どんな風に決まったんですか。
シュミット Googleには、YouTubeよりも前にスタートした「Googleビデオ」というサービスがありました。
でも、データを見ると、YouTubeのほうが急速に成長していた。そこである日、部下のデービッド・ドラモンドが、「(YouTubeを)買収するべきではないかと思います」と言ってきました。
シュミット「いくらだ?」
ドラモンド「えーと、6億ドルです」
シュミット「そんな価値はないだろう」
しばらくしてデービッドがまた来て、「もっと高くなりそうです」と言う。
シュミット「そんな価値はないだろう」
ドラモンド「向こうは(身売り先に)Yahoo!を狙っています」
シュミット「オーケー。(YouTubeと)話をしよう」
そこで2人の創業者に会ってみると、とてもいい連中だった。典型的なクレイジーなスタートアップで、猛烈に成長していました。
彼らに会ったのは、(ファミリーレストランの)デニーズでした。そこなら絶対誰にも見つからないと思ったからです。何としてもリークは避けたかった。
数日後、価格の折り合いがつきました。YouTubeに投資していたベンチャーキャピタルの支持も取りつけた。
創業者2人をGoogleの取締役会に呼んで事業の説明をしてもらい、その日のうちに取締役会が買収を決めました。ちゃんとしたデューディリジェンスの後にね。
あとで知ったのですが、彼らは翌日、デニーズでYahoo!と会っていた。
ホフマン めちゃくちゃ笑えますね。
シュミット あそこなら私たちが行くことはないと知っていたんです。
もし、あのとき私たちが決めていなかったら、今頃どうなっていたでしょう。YouTubeがこれまで世界に与えてきたインパクトとスケールを考えると、Googleは巨大な利益を逃していたでしょう。
*明日に続く。
(翻訳・編集:藤原朝子、バナー写真:ロイター/アフロ、デザイン:今村 徹)