【Netflix CEO】まあまあの仕事ぶりの人は、辞めてもらう

2019/6/12
宅配DVDレンタル業者としてスタートしたNetflixが、動画ストリーミング配信に乗り出したのは2007年のこと。

以来、契約者数はゼロから世界1億4800万人(19年3月末)にまで拡大した。その驚異的スケールの秘密はどこにあるのか。創業当初から同社を引っ張ってきたリード・ヘイスティングスCEOに話を聞いた(インタビューが行われたのは17年4月)。
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ホフマン カルチャーデックには、「まあまあの仕事ぶりの人は、たっぷり退職金を払うから辞めてもらう」という衝撃的なスライドがありますね。
ヘイスティングス Netflixでは常に、率直であることを重視しています。
たとえばスタッフは、「私が辞めると言ったら、どのくらい一生懸命私を引き留めてくれますか」と、上司に直接聞いてみることを奨励されています。
ある意味で究極の質問ですね。私は「キーパーテスト(会社に引き留めておくべき人を見極めるテスト)」と呼んでいます。
普段からこの質問を上司にしておけば、あるとき「君はまあまあのパフォーマンスだから辞めてくれ」と言われたとしても、突然すぎてショック、ということにはならないはずです。
(写真:Abaca/アフロ)
ただこれは、短期的な評価に基づくものではありません。「君は先週ミスしたよね。だから辞めてくれ」ということではないのです。
重要なのは、そのスタッフが将来どのくらい貢献できるかという期待であり、それは幅広い要因と、それまでの働きのミックスで判断されます。
ホフマン 「私たちはチームであってファミリーではない」というスライドも印象的でした。
ヘイスティングス 強いスポーツチームは、選手たちの間に温かい交流があるものです。新しいチームメートが入ってきたら、進んで手助けするなど、歓迎の姿勢をはっきり態度に示します。
でも究極的には、スポーツチームにとって最も重要なのは、それぞれの選手がどれだけ素晴らしいプレーができるか、つまりパフォーマンスです。
家族はお互いに無償の愛を注ぎます。兄弟が恐ろしいことをして刑務所送りになっても、家族愛は消えません。
それは社会において非常に重要な要素ですが、私たちが会社として目指す関係とは違います。
私たちが目指しているのは、チームとして、インターネットテレビの世界を変えることです。そのためには、あらゆる職種のあらゆる人が素晴らしいパフォーマンスを見せることが必要になります。
そしてスタッフが学習して、その能力を最大限に発揮するためにも、率直なフィードバックがとても重要だと考えています。
(写真:ロイター/アフロ)
ホフマン 会社のカルチャーを改善するうえで、ヒントになったことはありますか。
ヘイスティングス 人間は何百年もカルチャーについて考えてきました。(1970年代に品質改善を理論化したW・エドワーズ・)デミングも、ベインやマッキンゼーなどの経営コンサルティング会社も、究極的にはカルチャーのことを研究しているのです。
テクノロジー業界では、技術革新のペースがあまりに速くて、カルチャーが大きな差別化要因になってきませんでした。でも今、カルチャーの重要性がテクノロジーに追いついてきました。
ほかの多くの業界は違います。
たとえばソニーが買収したコロンビア映画やワーナー・ブラザースといったメディア企業は100年近く前に誕生しました。CBSも100年前にラジオ局としてスタートしました。
こうした企業の仕事では、昔からカルチャーが大きな役割を果たしてきました。
ホフマン ある友人が、企業カルチャーとは成功した企業が自らを振り返って後付けした説明だと言っていました。あなたもそう思いますか。
ヘイスティングス どうでしょう。総合的に見て、今後も長きにわたり、カルチャーがNetflixの成功を助けると思います。
Netflixは、宅配DVDレンタルの時代から、自分たちより100倍大きな会社ブロックバスターを倒し、さらに宅配DVDレンタルから動画ストリーミング配信へ、さらにはオリジナルコンテンツの製作・配信へと適応を続けてきました。
また100%米国内だけのビジネスから、世界市場にも進出してきました。その過程で、ピュア・ソフトウェアには対応できなかったであろうチャレンジにも遭遇してきました。
非常に個人的な思いですが、そんなときにカルチャーが助けになってきたと思います。
(写真:ロイター/アフロ)
「カルチャーが戦略をダメにする」という人もいますが、そんな言葉を信じるべきではないと思います。
カルチャーと戦略のどちらもとても重要なものです。Netflixは、戦略立案にも多くの時間をかけています。
どちらが上でどちらが下かといった順位づけをする必要はありません。カルチャーと戦略のどちらもうまくやれるよう努力しようではありませんか。
ホフマン 会社が大きくなっても、そのカルチャーを維持する秘訣は?
ヘイスティングス 私たちはスタッフに、カルチャーを改善する方法を常に考えるよう促しています。ですから、「カルチャーを維持する」のとは、ちょっと違います。
誰もが、「この部分は改善できるぞ」と考えることで、新たな価値を追加する。そうした姿勢が、カルチャーを生きたものにしているのです。
絶対的な戒律のようなものではなく、ルール面も実践面も常に進化している。それがおそらく一番大きいと思います。
ホフマン カルチャーデックの新しいバージョンを公開する予定はありますか。
ヘイスティングス 何回かアップデートはしてきました。あのスライドを見て、Netflixは冷たくて社員同士の競争が激しい会社だと思う人がいますが、実際に働いているスタッフは、とても温かくて、コラボレーションが豊かな会社だと思っています。
あのスライドからはそれがあまり感じられない。ですから、スライドを定期的にアップデートして、私たちの本来の姿を反映させようと努力しています。
*明日に続く。
(翻訳:藤原朝子、バナー写真:Abaca/アフロ、デザイン:今村 徹)