忖度なき変革の狼煙。住友商事グループ「100周年プロジェクト」

2019/3/19
 世界でも類を見ない「総合商社」というビジネスモデルは、時代の変化に先んじて、常に新たなチャレンジが求められ、それに応えて変わり続けてきた。創立100周年を迎える住友商事は今、次なる100年に向けて、かつてない自己変革を起こそうとしている。日本有数の総合商社である住友商事の「100年目の変革」に迫る。

単なる「100周年の祝賀」で終わらせない

「いまの住友商事グループが抱える課題はなんだと思いますか?」
 2019年12月に創立100周年を迎える住友商事。この節目となる年を見据えて立ち上がったのが「22世紀プロジェクト」だ。
 2017年から2019年の3年計画でプロジェクトチームが発足し、全社公募に手を挙げて参画した「アンバサダー」と呼ばれる有志社員たちが、プロジェクトの企画・推進を行っている。
 一般的に、100周年記念といえば祝いごとだが、同社はそれを単なる祭事で終わらせなかった。これまでに培ってきた社内風土を今一度見つめ直し、「次の100年」に向けた自己変革の契機とする──。
 発足当初、まだプロジェクトの方針が定まってなかった時期に、第1期のアンバサダーを務めた16名の社員たちは、共に働く同僚──上司、先輩、後輩、グループ社員たちを訪ねてまわり、計500名以上へのインタビューを敢行した。そこで尋ねたのが、冒頭の次の質問だ。
「いまの住友商事グループが抱える課題はなんだと思いますか?」
 実際に住友商事グループで働く社員たちが感じている課題感、そして危機感──。
 それをしっかり受け止めることがプロジェクトの第一歩であり、その結果、見えてきた課題を解決するアプローチとしての「アクションプラン」を作成することが、プロジェクトの使命になった。

社風改革のためのアクションプラン

 「22世紀プロジェクト」の推進と同時に、住友商事にはもう一つの大きな動きがあった。それが東京・大手町への本社移転だ。
 これまで東京・晴海にあった本社機能をすべて新オフィスに移管する。その過程で、ひとつの象徴的なデータに突き当たったという。
 「オフィスの利用データを分析したところ、社員たちの“会議室の利用時間が非常に長い”ということがわかりました。勤務時間の約7割を社内で過ごす営業課長もいたほどです」
2018年に東京・大手町へ移転した住友商事の新本社
 社外よりも、社内を意識している──。自分たちは、知らぬ間に“内向き”になりすぎていたのではないか? その仮説は、500名を超える社員インタビューで見えてきた問題点とも一致していた。
 データで裏打ちされたことで、課題は見えた。内向きの現状を変革し、“外向き”の間口を開くこと。外の世界とより広く、深くつながっていくこと。そうして変化を先取りして新たな価値を創造することこそ、住友商事グループの理念であり、原点であるはずだ。
 こうした議論がアンバサダーたちの間で積み重なっていくことで、プロジェクトの方向性はさらに明確になっていった。そこで生まれたのが、4つの軸だ。
① 未来起点:未来の世界を創造する
② 多様性 :多様な価値観を受容する
③ つなぐ力:社内外の組織とつながる
④ 個の力 :有用の学・無用の学を得る
 この4軸をもとに、「アクションプラン」と名付けられた個別の取り組みが企画された。代表的なアクションプランが「未来LAB」「100SEED(ワンハンドレッドシード)」だ。
特定のテーマについて社内外の人とディスカッションする「未来LABサロン」
 22世紀プロジェクトの「未来LAB」は、著名人などの講演により刺激を受ける「コロシアム」とアイデアや発想を社内外の人とブレストする「サロン」の2つで構成され、多様な人々と出会い、気付き、共に『見たこともない世界』を考える機会を提供する。
「100SEED」は、各国、各地域で社員参加型の社会貢献活動を行っていく取り組みだ。社会貢献に対する感度を上げるなかで、次の100年につながる事業創出のヒントもあるかもしれない。
 このほかにも、さまざまなアクションプランが立案されていった。こうした全社規模のプロジェクトが公募の社員によって進められたことは、住友商事100年の歴史のなかで、ほぼ前例がないという。
 そして、今年はプロジェクトの3年目、締めの年となる。自社を「変革」するための行動を進めてきたアンバサダーたちは、いま何を思うのか。第1期の大窪航平氏と第2期の松本香澄氏に話を聞いた。
──まず、お二人が「22世紀プロジェクト」に参画した経緯を聞かせてください。
大窪 私は第1期のアンバサダーを務めました。当時は入社7年目の29歳。ちょうど自分のキャリアについて考えていた時期でした。
 外に目を向けると、スタートアップでは同世代の人たちがバリバリ活躍している一方で、“東海岸系”、“レガシー企業”とも言われる会社にいる自分はどうなのか?
 当然、転職も頭をよぎったのですが、本当にそれでいいのかと。自分はまだ住友商事グループの全貌を理解していないし、やり切った感もない。本当に全力でチャレンジして、ダメだったらもう一度考えよう、と思っていたんです。
 そのとき「22世紀プロジェクト」の発足と、アンバサダー公募の話を社内イントラで知り、これはチャンスだ、と。
松本 私は入社3年目、24歳のときに参画しました。私の場合は入社して早いタイミングから、たまたま部署横断型プロジェクトに携わる機会が多く、「社内には色々な考え方を持った人がいる」ということを肌で感じていました。
 なので、自分から積極的に新しい場所に関わっていって、「色々な部署に顔が広くて、新しい情報を得てそれをどんどん還元するキャラの人」になろうという戦略というか、下心もありました(笑)。
──プロジェクトのなかで、お二人はどのような役割を担っていたのでしょうか。
大窪 1期の頃は、プロジェクトで何をすべきかという方針も固まっていない中で、住友商事グループの未来を創るために、どういったコンセプトや考え方が必要なのかを考えるのが活動の中心でした。
 そこで、「住友商事グループ徹底解剖」という社員インタビューを実施して、とにかく社員の本音を集めました。第1期全員で、社内外をあわせて1000名以上の声を聞きました。それを持ち帰り議論。その繰り返しです。
 私個人の役割という意味では、「若手の声を届ける」ということを常に意識していました。
 アンバサダーとして集まった社員たちは、部署や役職、年次もさまざま。本当に多様性があったので、「先輩たちから出てこない若い発想を議論に注ぎ込むこと」が自分のやるべきことだと考えていました。
「未来LAB」「100SEED」のほかにも、複数のアクションプランが創出されている
──特に印象に残っている意見やアイデアはありましたか?
大窪 「異なる文化をもっと取り入れるべきだ」という声は多かったですね。もっと中途採用を増やして“異なる文化”を受け入れる、あるいは逆に社員自身が外に出て、新しい文化を吸収して帰ってくる、このどちらも必要だと言うことになりました。
松本 そのコンセプトを具現化したアクションプランが、「ベンチャーインターン」ですね。半年から1年ほどベンチャー企業に出向して、全然違う目線で社会やビジネスを学んでくるという制度です。
大窪 誰もが新規事業のアイデアを応募できる「0→1チャレンジ」も、第1期の議論にベースがありました。最終的にプロジェクトとしてのアクションプランには採用されませんでしたが、会社が意見を吸い上げて今の制度に進化していったと思っています。
──松本さんは、第2期でどういった活動をされたのですか。
松本 私たちの役割は、第1期が決めた方向性に基づいて、具体的なアクションプランを考えることでした。ただ、やみくもに企画しても一貫性がなくなってしまう。強くてしっかりした軸が必要だと考えて、それをコーポレートメッセージの開発だと位置づけました。
 グループの全社員が語れる、グローバルな言葉で、自分たちが目指すべきミッションを表現するべきだと考えたんです。
 住友商事の100年の歴史とDNAを受け継ぎながら、未来に向けて今やるべきこと、今を生きる私たちの思いを言葉で表現する。それが私自身の役割でもありました。
──グループが目指すべき社風、社員が共有すべきカルチャーを表現するメッセージということでしょうか。
松本 これからの100年は、これまでの100年とは比べものにならないスピードで変化が訪れるはず。私はデジタルソリューション事業部に所属しているので、それを肌で感じています。
 そのスピード感に対応するには、チャレンジできる風土をつくり出す必要があります。かといって、企業としてなんでもOKなわけではない。そこで必要になるのが、コアとなる「言葉」です。
 この「言葉」と照らし合わせて、反してなければ、どんどんチャレンジする。そんなコーポレートメッセージを目指しています。
社員の声を徹底的にヒアリングし、議論を繰り返すことが活動のベースになった
大窪 社長の兵頭は常々、「住友の事業精神と住友商事グループの経営理念以外は何を変えてもいい」と言っています。
 第1期が活動していたときは前任の中村(邦晴)が社長だったのですが、実は、メンバーが中村と打ち合せをしたときにも、同じことを言われました。それが、制約をバッと取り払ってくれた。
現会長の中村邦晴氏(写真左から3人目)も参加し、プロジェクトについて議論を交わした
 勇気づけられたし、その後のモチベーションにつながりましたね。ボトムアップの意見を受け止めて、反映していく文化があるんです。
松本 その文化は、この1年でより加速したと感じています。実は、第1期は日本人だけで18名だったのですが、第2期は全世界で採用された海外メンバーもアンバサダーとして集まり、総数88名。
 全社プロジェクトを公募するというだけでも珍しいのに、海外メンバーにまで裾野を広げるのは初めての試みです。
プロジェクトの波は海外のグループ企業にも伝播し、グローバル規模の動きとなった
──今年は「22世紀プロジェクト」の最終年です。
松本 このプロジェクトはトリガーだと思います。100周年だからといって、全社員の意識が突然変わるわけがありません。しかし、新しい取り組みは次々と生まれているし、会社は確実に動き始めています。
 「自分もチャレンジしてみよう」と思う社員を少しでも増やし、その姿をポジティブに見守れる社風が生まれれば、22世紀プロジェクトは成功だったと思います。
大窪 この先100年、住友商事グループが続いていくための礎がアウトプットとして出せればいいなと思います。
 私たちのようなレガシー企業が自己変革することで、変わろうとチャレンジする気風が社会全体に波及し、回り回って日本全体が活性化する。「22世紀プロジェクト」が、そういった発端のひとつになると信じています。
(取材・編集:呉琢磨 構成:笹林司 撮影:Atsuko Tanaka デザイン:國弘朋佳)
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