【トップ直撃】100年目の変革。住友商事は「オープン化」する

2019/2/25
世界でも類を見ない「総合商社」というビジネスモデルは、時代の変化に先んじて、常に新たなチャレンジが求められ、それに応えて変わり続けてきた。創立100周年を迎える住友商事は今、次なる100年に向けて、かつてない自己変革を起こそうとしている。日本有数の総合商社である住友商事の「100年目の変革」に迫る。
 住友商事のルーツである大阪北港(後の住友土地工務)が設立されたのは、1919年のことだ。それから100年が経ち、住友商事は2019年に創立100周年を迎える。
 次なる100年への船出に向けて、新たな舵取りを任されたのが、昨年4月に就任した兵頭誠之社長だ。
「経営理念と事業精神を除き、住友商事のなかで“変えられないこと”などひとつもない」と語る兵頭氏。その100年目の変革への強い意志に迫る。

就任後、社風改革の打ち手が続々

「夢や志、情熱を共有していきたい。夢や思い、志に支えられた戦略・計画は、実行段階でその真価を発揮します」
 これは兵頭氏が就任時、住友商事グループの全社員に向けて語った言葉だ。
 多くの社員が情熱を持って周囲に「夢」を語り、その志に共鳴する輪が広がることこそ、「新たな価値創造」を実現する原動力になる、という考えによる。
「新たな価値創造への飽くなき挑戦」。このキーワードの通り、兵頭氏の社長就任後、住友商事は次々と変革に向けた打ち手を繰り出している。
 例えば、国内勤務社員を対象に先行して導入されたテレワークや、スーパーフレックス制度といった「働き方改革」の実現。
 外部アクセラレーターを招聘(しょうへい)し、社内公募とピッチコンテストによって新規ビジネスの創出を支援する「社内起業制度(0→1チャレンジ)」の整備。
 “人材の多様性を競争力の源泉にする”という方向性を打ち出し、ダイバシティー&インクルージョンを前提とした「人材戦略の高度化」。
 保守的と思われがちな日本の旧財閥系大手企業でありながら、これらの先進的な取り組みを連続して打ち出す様は、「ニューリーダーによる大変革」を想起させる。
 しかし、兵頭氏は「変革は今に始まったことではなく、100年前から続く住友商事の伝統」だと語る。

「新たな価値創造」がない商売は消える

「受け継がれている住友の事業精神のひとつに、『進取の精神』があります。
『時代の変化に際しては積極的に一歩先んじるべし。時代に合わぬものは廃し、時代が必要とするものを興さねばならない』
 つまり、常に変化を続けなさいということです」
 日本の高度経済成長期を支えてきた総合商社だが、兵頭氏が入社した1980年代、世間では「商社不要論」が唱えられていた。その後、90年代に入るとITの普及に伴い「商社中抜き論」など、商社は冬の時代を何度も経験している。
 そのたびに、総合商社は自己変革を起こし、ビジネスモデルを変えてたくましく乗り越えてきた。
 兵頭氏は、「今の住友商事は、私が入社した頃とは、まったく違う会社になった」と振り返る。
 変わり続けることを志向する、その背景にあるのは、危機感だ。
「『進取の精神』は大事ですが、100年前の変化と、これから求められる変化が同じであるわけがない。
 今、住友商事は再びビジネスモデルの転換を必要としています。
 AIやIoTといったテクノロジー、イノベーションを取り込んで、我々が先導して新しい社会を作っていくといった意気込みが必要です」
 住友商事グループは、全世界で従業員6万人超、連結子会社919社、海外拠点66カ国・地域(2018年9月30日現在)を持つ企業グループだ。
 それでも、「付加価値がない商売は消えていく」と危機感を持つ。それが「進取の精神」の根幹にあり、住友商事のDNAといえる。

商社の役割はアクセラレーターと同じ

 2020年に向けた中期経営計画において、住友商事は成長戦略の1つの柱として、「次世代新規ビジネスの創出」を掲げている。
 具体的には、次の3領域に対して3年間で3000億円の投資を計画している。
① テクノロジー × イノベーション(第4次産業革命領域)
② ヘルスケア
③ 社会インフラ
 注目は①の「テクノロジー × イノベーション」だ。この領域で先行するシリコンバレーのアクセラレーターを複数視察した兵頭氏は、
「彼ら(アクセラレーター)の機能は、総合商社の役割そのものだ」
 と感じたという。
「新たなビジネスに挑戦する人間が集まり、アイデアをぶつけあって化学反応を起こす。アイデアが良ければ投資家がお金を出して事業が生まれ、大きく育つ。
 総合商社の新規ビジネス創出も、まったく同じプロセスです。
 常にドアをオープンにし、自ら足を運び、絶えず外部との交流を図ることで、変化し続けることが肝心なのです」
 その言葉どおり、住友商事は北米、欧州、中国など世界各地にスタートアップ企業を発掘するR&D拠点を設置し、現地メンバーに大幅に権限を委譲した。
 これによって、グローバルで萌芽したイノベーションの種を即座にキャッチし、スピーディに新事業創出や既存事業のバリューアップにつなげる体制を構築している。
 あわせて社内では、所属組織の枠組みを超えて新規ビジネスを提案できる「0→1チャレンジ」という社内起業制度を立ち上げた。
 これには即座に数百件の応募が集まり、実際に事業化に向けて進んでいるアイデアが複数あるという。
 こうした取り組みの裏には、「過去の成功体験が新たな成長の芽を摘み取る。あらゆる“内向き思考”は危険信号だ」という兵頭氏の信念がある。
「我々がより“オープンな存在”になることで、イノベーションを加速できる領域はたくさんあります。
 住友商事が築いてきたビジネス基盤と、新しい仲間、新しい技術とがつながり、新たな価値が創造されるチャンスが広がるのです。
 そのため社員には、失敗を恐れず、どんどん外とつながって “夢”を語ってほしいと伝えています」

「挑戦せよ」のメッセージを伝え続ける

 チャレンジには失敗がつきものだ。ならば成功するまでチャレンジし続ける。兵頭氏は、そのために社内風土を変えていくとも語る。
「失敗するなら、早くしたほうがいい」が持論だ。
 自身も30代半ばに、アジア通貨危機の資金難で、インドネシアの石炭火力発電事業が中断するといった経験を持つ。
「失敗すれば、何が間違っているかわかる。失敗から学んで次に生かしていくことができれば、それは最終的に勝ちにつながる」
 失敗を恐れず、チャレンジしろ。
 オープンな姿勢で外の世界とつながれ。
 夢を語れ
 未来を創るのは、私たち一人ひとりだ。
 兵頭氏が伝えるメッセージは明快だ。だが、グループ全体で6万人を超える大企業がゆえに、変革は一朝一夕では実現しない。
 だからこそ、「一人ひとりが夢を持ち、リーダーシップを発揮することが大切」と兵頭氏は語る。
  “自分が担う仕事”に対して、一人ひとりがリーダーシップを持つことができたら、最強の組織になる。
 それが、兵頭氏が情熱を持って実現させたい“夢”だという。
 すでに社内では、年齢や役職といった立場を超えて、新たな価値創出に向けて侃々諤々(かんかんがくがく)の議論を交わす自由な気風のワーキンググループがいくつも立ち上がっているという。
 それぞれが持つ経験と知識、アイデアを持ち寄る。子会社、グループ会社といった組織の壁も越えた「タテ・ヨコ・ナナメ」のコミュニケーションを進め、シナジーを加速させることが狙いだ。

「夢なき者に成功なし」の意味

 兵頭氏は、「実践躬行(じっせんきゅうこう)」という言葉を繰り返し説く。「理論や信念に従い、自身が先頭に立ち実践する」という意味だ。
 これは幕末の改革者、吉田松陰の姿勢に通じる。
「夢なき者に理想なし、理想なき者に計画なし、計画なき者に実行なし、実行なき者に成功なし、故に、夢なき者に成功なし」
 夢を持つことが成功につながる。住友商事の変革という「夢」をメッセージとして語り続け、自らが先頭に立って実践しているのが、兵頭氏の現在なのだろう。
 100年後、創立200周年の住友商事はどう変わっているのか。
 兵頭氏は「まったく想像も付かない事業体に変化しているかもしれません」と語りながら、最後に続けた。
「ただ、時代の変化に柔軟に対応しながら、自らを変革し、新たな価値創造に挑み続ける姿勢だけは、続いていることでしょう」
(取材・編集:呉琢磨 構成:笹林司 撮影:Atsuko Tanaka デザイン:國弘朋佳)
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