【佐々木紀彦】編集長退任の報告と、CCOとしてやりたいこと

2018/4/2

CCOとは何か

NewsPicksの編集長に就任してから、早いもので3年9か月が経ちました。
「NewsPicksは勢いがありますね」
「NewsPicksは大成功ですね」
「佐々木さんは大活躍ですね」
最近、そんなお褒めの言葉をいただくことが増えました。
そう言われる度、一瞬笑みをこぼしつつ、3秒後には、「これぐらいで褒められているようでは、未来はないなあ」と兜の緒を締めます。
NewsPicksは、多くの方々に支えられて、今年2月時点で無料会員300万人、有料会員6万人を突破することができました。
しかし、NewsPicksはほんの第一歩を踏み出したにすぎません。戦略面でも戦術面でも、課題は山ほどあります(昨日の「メイクマネー」の配信でも、技術トラブルで配信が遅れ、大変ご迷惑をおかけしました。重ねてお詫び申し上げます)。
「メイクマネー」に込めた3つの想い
4月1日より、私は編集長を退き、最高コンテンツ責任者(CCO:チーフ・コンテンツ・オフィサー)となります。
CCOとは、日本では聞き慣れない役職ですが、海外のメディア・コンテンツ企業では定着しつつあります(ネットフリックスのテッド・サランドスCCOが有名です)。
【ネットフリックスCCO】「ネットフリックス作品がヒットする秘密を教えよう」(前編)
私がCCOとして担う主な任務は、以下の3つです。
(1) オリジナルコンテンツ全体の統括
記事、映像、アカデミア、イベント、書籍などオリジナルコンテンツの全体統括。
(2)マルチメディア展開(とくに映像)
映像、イベント、書籍などへのマルチメディア展開。活字とのベストな融合を模索。
(3) 新たなビジネスモデルの開拓
課金ビジネスのさらなる強化と、永続性と成長性のあるビジネスモデルの開拓。

コンテンツ黄金時代をもたらすために

私がCCOとして是が非でも実現したいのは、日本に「コンテンツ黄金時代」「クリエーター黄金時代」をもたらすことです。
先日、NewsPicksでも特集しましたが、世界では「コンテンツ黄金時代」がすでに始まっています。
余暇時間の増加、プラットフォームによる競争の成熟化、2020年以降の5G到来などにより、ハイクオリティーコンテンツ、とくに映像コンテンツへの需要が爆発しているのです。
「コンテンツ黄金時代」がやってくる
翻って日本を見ると、紙、テレビ、ラジオなどの伝統的なメディアにおいても、ウェブの新興メディアにおいても、コンテンツが栄えているとは言えません。
伝統的メディアは、高齢化やコスト削減により、負のスパイラルが加速しています。一方の新興メディアも、確たるビジネスモデルを見いだせず、コンテンツに十分な投資ができていません。
結局、今の日本は、クリエーターの力が弱すぎます。優秀なクリエーター、とくに若い才能が開花する環境が整っていません。
そこをまず改善しなければ、日本のコンテンツやメディアがやせ細ってしまいます。
今の状況に楔を打ち込むために大事なこと――それは、「コンテンツ×ビジネス×テクノロジー」を高次に融合させることです。コンテンツ、ビジネス、テクノロジーのプロが集い、新しい生態系を創ることです。
才能あるクリエーターが育ち、挑み、失敗し、成功し、世界の舞台へと駆け上がっていく。そんなポジティブなサイクルを駆動させるには、テクノロジーの力が必要ですし、永続的なビジネスモデルが不可欠です。
【スライド】メディア進化史
日本に「コンテンツ黄金時代」を呼び込めるかどうかは、ひとえに今を生きるメディア人の意志と手腕にかかっています。
私自身、一人のメディア人として、多くの方々を巻き込みながら、「コンテンツ黄金時代」を創っていきたいと思っています。

経済を、もっとおもしろく

私の後任には、プロピッカーとしても活躍した、『週刊SPA!』前編集長の金泉俊輔さんを迎えます。
金泉さんは、私が東洋経済在籍時から、尊敬する先輩として、折に触れてアドバイスをもらってきたプロ中のプロの編集者です。
時代を見通す力、編集とビジネスを両立する力、組織をマネジメントする力、人を発掘し育てる力――そのどれもが傑出しています。
私は、今後のNewsPicksに必要なのは、単なる経済の知識を超えて、仕組みを作る力、人をプロデュースする力、自ら実践者として事業を創造する力を持っている人だと考えています。
その意味で、金泉さんというベストな人材に編集長に就いてもらえることを、心より嬉しく思っています。
言うまでもないですが、これからもNewsPicksのコアとなるのは経済です。親会社のユーザベースが掲げる「経済情報で、世界をかえる」というミッションは、もちろん、NewsPicksにも共通するものです。
ただし、私は、経済を堅く、狭い意味ではとらえていません。
経済の語源である「経世済民」は、「世を經(おさ)め、民を濟(すく)う」という意味です。日々の生活のあらゆるところに経済はあります。
ただし、日本では「経済=難しい」という印象が強く、経済が日常から遠いものと感じられています。そんな経済のイメージを変えたいのです。
エコノミーに経済という訳語を当てた福沢諭吉(写真:iStock/hiorgos)
これからのNewsPicksでは、これまで以上に、深く、広く、面白く経済を切り取ることによって、経済をより民主化していきたいと思っています。
たとえば、「経済×アート」により、ビジネスの世界にもっとアートを取り込んでいきたいですし、「経済×ドラマ」により、経済をもっと物語で伝えていきたいですし、「経済×コミュニティ」により、会社、趣味とは異なる第3のコミュニティをつくっていきたいのです。
【2018年春】NewsPicksアカデミアが目指す「7つの進化」
今後も、NewsPicksは、世界のどのメディア・コンテンツ企業にも負けないよう、全身全霊を傾けて、攻め続けるつもりです。
失敗し、傷だらけになることもあるかと思いますが、そんなときこそ、みなさんから叱咤激励を頂戴できれば幸いです。
今後とも、絶え間ない進化に挑むNewsPicksをどうぞよろしくお願い申し上げます。