【藤原和博】人類3.0が2020年には出てきてほしい

2017/4/13
日本に新しい時代が到来しようとしている。明治維新から敗戦までの「日本1.0」、敗戦から今日までの「日本2.0」に続き、2020年前後から「日本3.0」がスタートするのではないか。そんな予測を拙著『日本3.0ー2020年の人生戦略』で記した。では、「日本3.0」はどんな時代になるのだろうか。各界のトップランナーとともに、「日本3.0」のかたちを考えていく。第4回は、『10年後、君に仕事はあるのか?』の著者で、奈良市立一条高校校長を務める藤原和博氏とともに、日本の未来をあらゆる角度から展望する(全9回)。
第1回:2020年前後に日本は本当に変わるのか?
第2回:天皇とリクルートと「シンボルのマネジメント」
第3回:団塊世代がサイボーグ化する日
第4回:孤立化する日本の子どもと、SNSという癒やし
第5回:日本最大の発明。それは「上質な普通」にあり
第6回:火星に行きたい人、行きたくない人
第7回:「トランプのアメリカ」が失ったもの
第8回:東京五輪の開幕式をどう演出すべきか?

ザハ・ハディド案を実現すべきだった

佐々木 長らく続いたこの対談も今回で最終回です。
藤原 『10年後、君に仕事はあるのか?』と『日本3.0』をテーマにした対談なんだけど、結局、「日本とは何か」ということに行き着いたよね。2020年を考えると、やっぱりそのテーマに行かざるを得ない。
佐々木 問題意識が似ていますね。
藤原 日本の国が今のシステムでは終わろうとしているのはみんながわかっているんだけど、その次がない。それを偉大な政治家が出てきてやり切れるのかと言えば、私は無理だろうと思うんですよ。
結局、我々一人ひとりが覚醒する以外ないんだけど、「何がきっかけになるか」「そのきっかけを待たずに自らの覚醒を早めるためには何が大事か」を考え抜かないといけない。
佐々木 対談で行き着いた答えは、天皇とモノですね。
藤原 そう、現世御利益教の日本人の覚醒にはモノが大事。
佐々木 モノという意味では、東京五輪関連で何がカギになりますか?
藤原 私は、亡くなったザハ・ハディドが考案した、あの宇宙船が舞い降りたようなデザインはすごいと思ったのね。ただ、それでは3000億円以上かかるということで、コスト削減したら、プリウスになってしまった。
佐々木 隈研吾さんが設計した案のことですか?
藤原 いいや、その前のザハ・ハディドの2次案。要するに、トヨタ2000GTのように突き抜けていたものが、プリウスになってしまった。もし、3倍コストがかかっても最初の案を実現していたら、違う世界が見えたかもしれない。
その次に出てきた、隈研吾さんの設計について言うと、私は隈さんが大好きだし、隈さんが設計した根津美術館や馬頭広重美術館なんて、木とガラスのデザインが最高にかっこいい!
ただし、新国立では制限がありすぎて、しかも急がせすぎでしょ。世界一かっこいい建築家に再依頼するには申し訳なかったよね。誰のせいだとは言わないけれど、やっぱり、行き詰まっていると思う。
佐々木 隈さんがですか?
藤原 いや、みんな。要するに、平均とか真ん中とか「上質な普通」の呪縛だね。
藤原和博(ふじはら・かずひろ)
奈良市立一条高等学校校長、教育改革実践家
1955年生まれ。78年東京大学経済学部卒業後リクルート入社。東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任。93年からヨーロッパ駐在、96年から同社フェロー。03年4月から杉並区立和田中学校校長に、都内では義務教育初の民間人校長として就任。08年4月からは校長を退職して全国行脚へ。

東京五輪は戦艦大和か

藤原 日本の高度成長は、本当は1997年でピークアウトしているんだけど、それをドーピング、ドーピング、ドーピングしながら20年も引きずってきた。安倍さんの経済政策自体が完全に前時代でしょ。
佐々木 そうですよね、何も本質は変わっていません。
藤原 クレジットの概念そのものも全然変わってない。インドの「現金をなくそう」という極端な取り組みはすごいよね。
佐々木 日本が現金をやめるのも無理でしょうね。モノが好きですから。
藤原 絶対好き。もっと言えば、電子マネーにしたら「お年寄りがだまされる」みたいな議論が必ず出てくると思う。
佐々木 そうすると、やっぱり東京五輪は戦艦大和になってしまいますか。
藤原 今のままだとそうなる。そして、大阪万博が戦艦武蔵でしょ。
佐々木 大阪万博は日本に決まりますかね?
藤原 ほかに本気でやりたいところなんてないんじゃないの? だって、何を見に行くの?
佐々木 猪瀬直樹さんは、高齢化社会・長寿社会をテーマにしてはどうかと提言しています。
藤原 それだったらシニアのパワースーツによるオリンピックを見たいよね。よぼよぼのおじいさんがパワースーツを着て、100メートル9秒7で走るみたいな話は面白いかもしれない。各国が本気で最先端のサイボーグ技術を競うわけ。
現に障害者スキーのレースはものすごい技術競争で、バネの技術がとくに大事。ほとんどF1の世界らしいけど、日本は先端をいってるんだってね。
佐々木 それは面白いかもしれません。
藤原 今、F1を見ていてもあんまり面白くないでしょう。昔のF1には、開発メーカーのテクノロジーと、大衆の熱狂と、ギリギリの恐怖心を超える人間の馬鹿さ加減と格好良さが同居して、科学と芸術、科学と人間の本当の融合みたいな感じだった。
佐々木 陸上以外でもテクノロジーは使えますよね。
藤原 スイムスーツみたいなのも出てきて、北島選手が再び世界新をとって、もう一回、「気持ちいい〜!」って叫ぶみたいな。北島選手はまだ若すぎるか・・・。
日本のロボット技術と、「どうしても若返りたい」とか「モテたい」という団塊世代の、我々の世代(昭和30年代生まれ)以下では恥ずかしいような情念が結びついたところに、何か生まれるかもしれない。

71歳と17歳の起業タッグ

佐々木 そういう意味でも、人口の多い団塊世代と団塊ジュニア世代が親子で組んでなにかをしたら面白くなりそうですよね。
藤原 私も前から言っているんだけど、ITリテラシーはないけれどお金がある71歳と、ITリテラシーはあるけれどお金がない17歳のコンビで起業したらいいよね。
佐々木 そうですね。団塊世代がアイデアを出すのもいいかもしれません。
藤原 いや、どう考えても、アイデアというより金だね。アイデアは40代前後の団塊ジュニアでもいい。日本がよみがえるためには、団塊世代の持っている1500兆円の現預金を市場化させていかないといけない。
私はずっと資産課税を提言しているのよ。持っているだけで課税される。不動産だってなんだって、都市部の利用されてない土地やものには全部課税していくみたいなことをやったらいい。ただし、その税金の使途を全部政府に預けないで、貧困対策への再配分をしたら、あとは地方の首長に任せるようにするといい。
佐々木 団塊の世代、そんなにお金を持っているんですかね?
藤原 1500兆円の現預金資産があるし、これは土地を含んでいない。この5年くらいお金を突っ込みまくって膨らんだのは、若い人たちの給料じゃなくて、資産の運用による利益でしょう。
佐々木 そのお金がとくに子どもにまわってほしいですね。
藤原 たとえば、1500万まで教育資金とか結婚資金として贈与できるという政策は、安倍政権で実に功を奏したと思う。結婚資金は、引っ越し代から何から何までコストにできる。私もびっくりしたんだけど、人工授精の費用まで下りるんだよ。
佐々木 団塊の世代以上のお年寄りのお金が孫たちに流れて来てるんですね。
藤原 ただ、それでも、ある種高学歴の家系に限られてしまうよね。

「孫のため」だけでは大きくならない

佐々木 団塊世代のお金をどう生かすかですね。
藤原 日本人は、だいたい1人1500万円くらいの現預金を持って死んでいる。死ぬ前に自分の現預金全部はたいてもいいと思わせることができれば、経済も盛り上がるはず。
今は株高により、家計資産が1700兆〜1800兆円まで拡大していると言われているけれど、それを一気に吐き出させる。半分でもいいし、もっと言えば毎年1%でもいいじゃない。1%だって、20兆円だから補正予算なんか超えちゃうよ。「孫のため」だけでは、そこまで大きな数字にはならないと思う。
佐々木 やっぱり自分ですよね。自分の欲望のためですね。
藤原 どんなに葬式を派手に演出したって、3000万円止まりだろうし。
佐々木 団塊世代以上のお年寄りがお金を使うためのアイデアはみんなで考えたいくらいですね。
藤原 例えばだけど、現実的に、1500万円出したら、死ぬ前に、月に行って戻って来られるという体験を安全にできるんだったら、やる人いるんじゃないかな?
佐々木 いると思いますね。やっぱりなんだかんだ言っても、団塊が鍵を握るってことですね。
藤原 人数いるもん。今は各年の新生児は100万人を切っているけれど、団塊世代は毎年200万人以上だからね。

本当の意味での新しい世代

佐々木 結局、団塊の世代らがほしくなるようなものをプロデュースできるかが、腕の見せどころですね。
デフレ社会の中で、日本企業は高級化が本当に下手になりました。けれども、デフレ社会はもう終わったと思うので、もっと上質に行けると思います。
藤原 例えばB級グルメにしても、立ち食いそばにしても、コンビニのカップ麺も、回転寿司も、どんどんオイシクなっているじゃない。ユニクロも百円ショップもディスカウンターも。クオリティ高くなってるでしょ。
そういう意味では、お金をかけずに食えているし、着られている。あともうちょっとすると、もういらないほど物件が建っているから空き家が増えて、2020年以降は東京だって住居費が下がるはず。
さらに団塊ジュニアは、団塊世代が死ねば家を相続できるから、住居費がかからなくなっていく。東京の都心部で、管理費25000円くらいで住めるようになったら、全然違うエコノミーだと思う。
佐々木 しかもそのエコノミーの中にシェアリングも入ってきました。
藤原 私が、今の中高生が未来を開くんじゃないかと思うのはそういう部分。本当に次の経済を体現するとしたら、スマホの利用やAI化されたロボットとの共生も含めてネイティブの中高生かなって思うの。スマホのネイティブ、「スマネー」ね。本当に新しい「もの」を生み出すかどうかは別として、違う人生を根っからやるでしょ。
佐々木 新しい世代なんですね。本当の意味で。
藤原 だからモテたいとかメジャーになりたいとか、あるいは権力握りたいというような、そういう動機では動かない。そうすると、人類3.0って、希望的には2020年に出てきてほしいけれど、現実には、やっと2030年前後に現れてくるのかなって。
佐々木 いっぽうで、寄付するという発想は出てきませんかね?
藤原 団塊には出てこないけど、団塊ジュニアが相続してしまったときに、「こんなのいらない」みたいな反応はあるんじゃないかな。
佐々木 団塊はないですかね。
藤原 団塊以上のお年寄りはどこかで「もしものことがあったら」っていう恐怖感を抱えて生きているでしょう。あと権力に対するやっかみではないけれど、ちょっとゆがんだ感情がある。だから、スコーンと純粋に世界を信用して「もういらない!」という潔さはないような気がします。
佐々木 このテーマは本当に深いですね。長時間の対談ありがとうございました。
(撮影:稲垣純也)