【新】到来する「生涯未婚時代」。結婚は、性愛は、どう変わる?

2017/10/10
最新(2015年)の国勢調査によれば、50歳まで一度も結婚をしたことがない人の割合を示す「生涯未婚率」は、男性が23.4%、女性が14.1%となり、過去最高を更新した。2030年には男性の3人に1人、女性の4人に1人が生涯未婚になるという推計もある。
背景には、結婚経験を持たないまま中高年になる人々の増加とともに、結婚をそもそも人生に組み込まない価値観の広がりもある。
本格的な「生涯未婚時代」の到来を前に、結婚、家族、そして恋愛はどのように変わっていくのか。
今回、新著『生涯未婚時代』を出版した家族社会学者の永田夏来氏と、「父親ワークショップ」を主催し性愛と子育てを考察する宮台真司氏が、変質する「結婚と性」について語り尽くした。
「生涯未婚時代」に備えて今後我々は何を考え、何をすべきなのか。2人の社会学者が白熱の議論を交わす。

「昭和の人生すごろく」への疑問

宮台 永田さんの新著『生涯未婚時代』を興味深く読みました。「いい大学を出て、いい会社に入って、結婚して、家を買う」という「昭和の人生すごろく」についての疑問を出発点にしているところが、ポイントです。
永田 これは私のオリジナルではなくて、2017年の5月に発表された経済産業省の若手官僚によるプロジェクト(※)で出てきた言葉です。
人生は一本道になっていて「就職」「結婚」といったイベントをこなさなければ前には進めない、という状況を「昭和の人生すごろく」と呼びました。私はクエストをクリアしないと前に進めない「ドラクエ型」と言っています。
一方、さまざまなモンスター集めが同時並行的に行われる「ポケモン型」の人生が最近は見られます。「結婚をしたくないわけではないが、するかどうかは時と場合による」といった考え方ですね。
宮台 「昭和の人生すごろく」が時代遅れなのは当然として、それを問題にせざるを得ないのは、時代遅れの観念がまだ生き残っているからですよね。今、どれくらい生々しく残存していますか?
宮台真司(みやだい・しんじ)/社会学者、首都大学東京教授
東京大学大学院社会学研究科博士課程修了。社会学博士。社会システム理論を専門分野とする一方、テレクラ・コギャル・援助交際など、サブカルチャー研究でも第一人者に。著書に『権力の予期理論』『制服少女たちの選択』『14歳からの社会学』など。ワークショップ「男親〈父・祖父・近所のおじさん〉の社会学」も随時開催。二村ヒトシ氏との共著『どうすれば愛しあえるの』を10月27日に発売予定。
永田 地域によって温度差があるように思います。私は兵庫県の内陸部にある大学で教えているのですが、兵庫県下の学生たちと話をしていると面白い状況が分かります。
例えば、沿岸部の神戸市では今でも親が比較的裕福です。なので、子ども、特に娘に関して「専業主婦になれ」という前提で接してくるという話をよく聞きます。
一方、内陸部では、東京に比べると働き先が限定されていて、学生は公務員とか大企業を狙うことになり、すると終身雇用が前提になる。どちらにしても「昭和の人生すごろく」がかなり利いていると思います。
宮台 裕福な自営業の「すごろく」と、大企業社員や公務員の「すごろく」。東京から離れれば、一部でまだ「昭和の人生すごろく」が信じられていると。
永田 逆に東京が極端なんじゃないでしょうか。東京に住んでいると「昭和の人生すごろく」なんて話はどこにあるんだという感じですよね。
でもそれは日本全体では極めて限定的な状況なのではないか。だから、結婚に対するイメージとか制度について東京を中心にしたモデルで議論されていることが私としてはおおいに疑問で、本を書こうと思った一つの動機にもなっています。
永田夏来(ながた・なつき)/兵庫教育大学大学院学校教育研究科助教
早稲田大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了。博士(人間科学)。専門は家族社会学。夫婦をはじめとしたカップル関係を中心に、現代の日本における結婚観・家族観についての調査研究を行っている。ジェンダー論・メディア論も手がけており、インターネットによるコミュニケーションやサブカルチャーにも関心を持っている。編著に『入門家族社会学』、著書に『生涯未婚時代』など。

男は「子どもへの接し方」で見極めよ

宮台 その話に関連して聞きたいことが一つあります。地方の若い女たちも、実際には結婚するに値する男を見つけるのが難しいと分かっているはずです。
彼女たちの中で、「昭和の人生すごろく」と「結婚願望の成就困難」の2つが、どう矛盾なく両立しているのですか?
永田 「そのうち理想の男性が現れるに違いない」と考えているように思います。
でも実際結婚できていないので、私の知る兵庫県の範囲だと、ある程度の年齢になると結局友達に紹介を頼んだり、何がしかのサービスを利用するなどして婚活めいたことをやっているようです。
しかしいざ結婚が現実味を帯びてくると「本当にこれで結婚していいのかしら?」と不安になるという感じですね。そこで初めて自分が抱えていた矛盾に気づくのでしょう。
宮台 僕らが若かった頃に比べて、試行錯誤して男を見定める手順がおろそかになっています。横道にそれるけど、本当に理想に近い男を見つけたいと思うんだったら、男が子どもにどう接するのか確かめるといいと思います。
僕はラジオ(※)でも言ってきましたが、子どもに好かれる男は、本人が自覚しようがしまいが性愛の潜在能力が高く、女を幸せにできます。子どもは、セコイ大人が嫌いで、一緒にいて楽しい人を一瞬で見極めるからです。
子どもとの接し方を見ろ、というのは昔からの知恵です。こうした知恵を使わずに結婚しようと思う女の気が知れません。
※宮台真司氏が金曜日のレギュラーコメンテーターをつとめる、TBSラジオ「荒川強啓 デイ・キャッチ!」。
永田 うーん。古典的な社会学で「性と愛と生殖の三位一体」ってあるじゃないですか。結婚にはこれら3つの要素が全部入っていると。
しかし今の若い子にとっては、セックスや愛情は結婚しなくても手に入れられるようになっていて、最後に残っているのが生殖だというのが、現在の日本です。
妊娠先行型結婚が典型ですけど、子どもを持つことだけは、結婚と分けては考えられません。それが少子化の一因とも言われています。
でもやっぱり「三位一体」もひきずっていて、結婚に性的な満足や愛情を求めている。つまり、結婚はロマンスの成就としての側面を失っていないのです。
なので、実際のところ子育てだけにフォーカスして相手を選ぶというわけにはいかないのではないかと思います。

性も愛も子育ても「ものさし」不在

宮台 子育てよりも、むしろ性愛の幸せのために、子どもに好かれる男かどうかを確かめてほしいんですね。
関連して指摘したいのは、過去20年間で性的退却が進んだこと。高校3年生の女子だと20ポイントくらい性的経験者の割合が減りました。彼氏がいる割合も半減したけど、彼氏がいてさえ性的アクティビティのレベルが低いのです。
大学生を見ても、僕らの頃は「1日何回セックスをするか」でしたが、今は「1カ月に何回するか」という話になっています。
だから、ナンパ師に言わせると、彼氏がいても簡単に寝取れるし、結婚しても同じです。そんな関係が実際に長続きするとは思えません。
これは、試行錯誤せずに近場で済ませる、という安易さが一因でしょうが、近場で済ませると言えば、阿部真大(※)問題というか、ジモティ問題がある。
※阿部真大:社会学者。甲南大学准教授。仲間や家族といった同質性の高い関係の中で充足している人間関係を「ノイズレス」なものとして位置づける。
永田 はい。地元でごく親しい仲間や家族とだけで育った若者は、下手をすると初めて出会った他者が結婚相手だったり子どもだったりするんですよね。
他者経験がないままに、結婚したあと家族の中に閉じ込められてしまう、ということが女性の場合は特に顕著かなと思います。
妊娠先行型結婚の当事者に関西でインタビューをしていると、地元に密着した若者の閉鎖的な人間関係がよくわかりますよ。
十分な就労経験もないうちに子どもができて、結婚後は夫婦で親と同居して、専業主婦になる。自分の兄や父親と夫が結婚前から顔見知りだったりするので、人間関係の全てが筒抜けです。
宮台 恋愛ワークショップをしてきた経験でいうと、昨今の女は、性的過剰さを同性仲間から見とがめられてビッチ扱いされるので、自分のプライベートを同性仲間にも隠します。歳の差カップルだったりしたら、なおさらです。
互いの性愛経験がシェアされないから、男を見る目が養われないし、女同士で話し合って、結婚生活における性の比重を見定めることも、できません。
「性と愛と生殖の三位一体」どころか、性についても、愛についても、子育てについても、真剣に吟味するのに必要な「ものさし」を持ち合わせていないんです。
これには1990年代以降の「性的退却」が影響しています。振り返ると96年の夏休みから「性的退却」が始まりました。
「イタイ」という言葉に象徴される「過剰さの回避」が背景です。「過剰だとコミュニケーションからあぶれるんじゃないか」という不安です。
同じ時期、オタクが「うんちく競争」から「コミュニケーションの戯れ」へとシフトしました。性愛的に過剰なのも、うんちく競争に過剰なのも、ともにヤバイとなりました。

リアルの知り合いしかつながらない

永田 そうなんですよね。ちょうど同じ頃にインターネットが普及しましたから、ネットでのコミュニケーションも参考になると思います。
90年代の匿名掲示板などではある程度「突っ込んだ」話もなされていましたが、現在のSNSは全く様子が違いますよね。しかし、宮台さんの「性的退却」と関係すると思うんですけど、これも地域格差があるんですよ。
宮台 地域差? それは教えてほしいです。
永田 ネットとスマートフォンの発達は、物理的な空間とは別に、インターネット・SNS上にも居場所をもたらしたと考えられますよね。
そしてそれは物理的な空間とは無関係ですから、東京だろうが兵庫県だろうが同じように利用され、同じように話やノリが合う者が集まってコニュニケーションが行われているはずです。
ところが、私の見たところによると東京と地方では違っていて、どうも地方では物理的な空間とインターネットがあまり乖離しない。
宮台 面白い。
永田 兵庫県内陸部の子たちは、結局LINEは知っている人間としか使わないようなんです。SNSもそう。フォローするのはリアルな知り合いばかり。
なぜかというと元々が閉じたコミュニティにいるからなんですよね。他者に接しようとそもそも思いもしないし、回避するべき「過剰さ」があるということ自体を知らない。
これが全体のトレンドとしての性的退却というものに、どれくらい強く影響を与えているか、丁寧に考えたいかなと思うところではあるんですよ。
宮台 東京から離れていない首都圏でも、神奈川県西部や千葉県などはそんな感じです。今後の研究課題としておおいに期待したいですね。
(構成:東郷正永、撮影:鈴木愛子、デザイン:星野美緒)
*続きは明日掲載します。