【新】3倍速で成長する「勝ち好き」パティシエ辻口博啓の人生

2017/10/21

負けず嫌いではなく、勝ち好き

「負けず嫌いなんですね」とよく言われますが、違います。
僕は「勝ち好き」です。オンリーワンでは満足できない。やるならナンバーワンを目指したい──。

一番得意なのは数字

「辻口さんがパティシエとして一番得意にしていることはなんですか?」と聞かれたら、「数字です」と答えます。
事実、世界一おいしいスイーツを作るには、計量という徹底した数字の管理が欠かせません。
その学びが経営にも生きていて、僕は原価率や廃棄率を厳しく管理します。店を潰したくないからです。
地元企業と商談を進める時にはまず「ここの人口は?」と尋ねます。商売する市場の人口や流動人口を即答できない人とは、ビジネスはできないからです──。

人の3倍早く成長する

パティシエとして一人前になるには10年かかると言われています。
僕は「3年で一人前になって実家の和菓子屋を立て直す」という時限爆弾を抱えていました。
10年分を3年で身につけるということは、人の3倍は早く成長しなければいけない。
この時期に身についた「人の3倍早く成長する仕事の仕方」は、今の自分自身の仕事や厨房のオペレーション指導にも生きています──。

家業、倒産

「あと3年だ。待ってくれよ」
そう祈りながら腕を磨くことに没頭していた矢先、店の仕事を終えて寮に戻ると「緊急:実家に急ぎ連絡せよ」というメモが目に飛び込んできました。
電話口に出た母の言葉は信じたくないものでした。
紅屋が潰れた?──。

ゼロから自分の評価を高めるには

お金が人の何もかもを奪い去ることを身をもって知った僕は、どうしたら短期間で稼げる人間になるかを真正面から考えました。
洋菓子で稼げる人間になるには、1日でも早く独立して自分の店を持つこと。しかし、店を構えるには先立つものがいる。
東京になんのコネクションもありません。ゼロから自分の評価を高める近道はないだろうか……。
そうだ!──。

世界一になってやる!

「最年少優勝した辻口さんですね? あなたの店を出しませんか?」
そんなオファーが引っ切りなしに来るのかと思ったら、電話は一向に鳴らない。
そうか、日本一に一度なるくらいではインパクトが足りないんだな。だったら世界一になってやる!──。

工事現場で働く

悔しさと失望からカッとなった僕は、店を辞めると啖呵を切ってしまいました。
とはいえ、引っ越すための資金もありません。
生活をつなぐために工事現場で働き始めました。工事現場で働いた経験のあるパティシエというのはあまりいないかもしれません。
でも、僕にとってはとてもいい経験になりました──。

世界大会を目指して

国内のタイトルを続けて獲りました。同時に見据えていたのは世界の大会です。それも本場パリのコンクールでなければ意味がない。
なけなしのお金をはたいて月に一度は高級フランス料理店で食事をし、銀座の有名パティスリーのケーキを買い回って高級時計店のVIPフロアのトイレにこもり、試食しながらノートにデッサンを描いたこともあります。
世界一のパティシエになるために必要なことはなんでもしようと思っていました──。

高額オファー殺到

引っ切りなしに電話がかかってきて、某有名高級レストランから「専属パティシエとして年棒1500万円を用意する」という話も持ち込まれたりしました。
驚いたのはラスベガスのカジノからのオファーで契約金の額、なんと1億円。
しかし、そのどれをも僕は丁重にお断りしました。やりたいことはただ一つ──。

毎日唱えていた言葉

「1億5000万円を僕に貸してください」
よどみなく、一息で言い切れたのには理由がありました。
僕は18歳の時から寝る前の習慣として、この言葉をずっと呪文のように唱え続けていたのです。
工事現場の日雇い労働で汗を流していた時もずっと毎日、いつか出会うと信じていた夢の出資者に伝えるべき言葉を口に出して練習していました──。

自分の店を持つ

場所は「自由が丘しかない」と初めから決めていました。
18歳で上京した時に初めて降り立った街が自由が丘であり、その時から「こんな街に店を出せたら」とイメージを膨らませていたからです。
1998年3月20日。30歳で「自分の店を持つ」という目標を達成することができました──。

「料理の鉄人」勝利の戦略

僕自身はずっと変わらず「いいものを作る」ことにこだわってきましたが、「辻口博啓」というブランドを世間に広く知っていただくきっかけとなったのは、フジテレビ「料理の鉄人」に出演し、パティシエとして初めて勝利を飾ったことでした。
僕は勝つための戦略を徹底的に練りました──。

集中すればかえって広がる

お菓子に集中すること。「集中すればかえって広がる」というのが僕の実感です。
ロールケーキやチョコレート、和スイーツなど、ひとくちに「お菓子」と言ってもその世界は無限ですし、その魅力を発信するためのミュージアム開館や、後進育成のための学校運営、業界団体の設立など、お菓子の発展に集中するほどに僕の役割は広がっていきました──。

悩む時間は人生の無駄

一歩引いて見ることで、本当に気にするべきことも明確になります。
真剣に悩むべきことと悩まなくていいことの区別がついていたら、「悩む時間」という人生の無駄はかなり削減されます。
悩む暇があるなら、次のステップを踏もうぜ!
“自分で自分を導く力”を備えることが、成功する人の要件ではないかと思うのです──。
連載「イノベーターズ・ライフ」、本日、第1話を公開します。
【辻口博啓】負けず嫌いではなく、勝ち好きなのだ
(予告編構成:上田真緒、本編聞き手・構成:宮本恵理子、撮影:大隅智洋、バナーデザイン:今村 徹)