緊迫する朝鮮半島、日本はどうするのか

2017/4/10

日本に求められる当事者意識

「重大な挑発行為であり、断じて容認できない。強く非難する」
これは、北朝鮮が2017年4月5日にミサイルを発射したことを受けた安倍晋三首相の発言だ。そして、4月6日の日米電話会談では、「日本の安全保障上、重大な脅威」との認識で一致している。
北朝鮮のミサイルにより、朝鮮半島情勢がこれまでになく緊張している。
仮に朝鮮半島で非常事態が起こった場合、在日・在韓米軍と韓国軍が中心になった軍事的措置がとられる可能性が高い。
2016年9月に施行された安保関連法制で集団的自衛権の行使を認めた日本に対しても、何らかの協力が求められても不思議ではない。
それどころか、有事の原因が日本へのミサイル着弾となれば、当事者として行動が求められることになるのだ。
第2次大戦後の日本は、自発的に軍事行動を取ったことは一度も無い。朝鮮半島有事に対して、大きく国論が揺れることは必至だ。
2017年4月6日の北朝鮮によるミサイル発射を報じる東京都内の街頭テレビ。緊張が高まっているが、政治家や国民の関心が十分に高いとは言えない(写真:AP/アフロ)
ただ、日本の政治情勢で一番クローズアップされているのは森友学園問題だ。この問題の真相解明も重要だが、今、朝鮮半島をめぐり、日本の国家の存立基盤を危うくしかねない事態が展開しているのだ。
政治家、マスメディア、そして国民も、朝鮮半島有事に備えた議論を今こそ徹底的に行うべきだろう。

閉ざされる日本のアクセス

北朝鮮は2011年に金正恩体制が発足して以来、国際的な孤立を深めている。金正日体制(1997〜2011年)は、対外的に開かれていた部分もある。
その最たる事例は、2002年と04年の小泉純一郎首相(当時)による訪朝だ。日朝国交正常化に向けた「平壌宣言」が両国首脳の署名のもとで発表され、一部の拉致被害者の帰国へとつながった。
2002年の日朝首脳会談で「平壌宣言」に署名する小泉純一郎首相(当時)と金正日国防委員長(当時)(写真:KCNA/AP/アフロ)
また、2003年から07年までは六者会合、すなわち、北朝鮮、アメリカ、中国、韓国、ロシア、そして日本による協議も行われていた。
この六者会合は、日本にとって北朝鮮政府幹部に直接アクセスでき、朝鮮半島情勢の鍵を握る米中韓露の4カ国と歩調を合わせる重要な機会だった。しかし、2007年3月の会合を最後として、10年以上開催されていない。
2005年に六者会合の様子。外務次官級で行われ、この頃の北朝鮮は日本との協議に応じていた(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
このほか、また、外相や外務省幹部と北朝鮮要人との会合がほぼ毎年行われていたが、直近は2015年8月の岸田外相と李洙墉(リ・スヨン)外相(当時)の30分間の会談が最後となっている。
しかし、金正恩政権は、チャン・ソンテク氏(金正日体制下での実質的な対外窓口役)を2013年に粛清するなど、国際社会との関係を自ら遮断して孤立する傾向を深めている。

高まるナショナリズム

朝鮮半島有事を想定した場合、日本にとって重要なプレーヤーは米国、韓国、そして中国だ。米国は日米安保の堅持が確認されて良好な関係ではあるが、中韓とは2010年頃からの関係悪化から、ぎくしゃくしたままだ。
北朝鮮に隣接し、在韓米軍とともに最前線に立つ韓国の重要性は論じるまでもないが、中国は北朝鮮に対して太いパイプをもつ。その圧倒的な国力と軍事力で北朝鮮に圧力をかけることも可能だ。多くの有識者は、アメリカといえども、中国の了解無しには北朝鮮に対する軍事措置をとることは難しいとみている。
中国や韓国の政府は、政治的に歴史問題や反日感情を利用している。これに対しては、日本政府も国民も毅然とした態度で対応していくべきだろう。
韓国ソウルで発生した反日デモの様子(写真:Lee Jae-Won/アフロ)
しかし、朝鮮半島有事となれば、隣国の韓国はもとより、北朝鮮とのパイプを持つ中国とも連携して対応していく必要に迫られる。
ただ、現時点で、3カ国の連携は十分とは言えない。
日中韓の首脳による日中韓サミットが2008年から2012年までは毎年実施されてきたが、その後は中断したままだった。再開が危ぶまれるなか、2015年にはどうにか第6回会合の開催にこぎつけ、2016年は外相会合が実施された。
この日中韓の会合は、安全保障問題を含む3国間の共通課題について、首脳クラスが1時間以上にわたって共通の課題を議論する貴重な場である。3カ国の距離は、一時期に比べて縮まったが、次回の会合は韓国大統領選の結果を待たなければ開催は出来ない状態だ。
2015年にソウルで行われた第6回日中韓サミット(写真:新華社/アフロ)

本連載の構成

こうした問題意識を踏まえて、NewsPicks編集部は特集「朝鮮半島クライシス」全7回を連載する。
そもそも、北朝鮮の脅威とはいかなるものか。日本が攻撃される可能性は本当にあるのか。本日公開の第1回では、NewsPicksプロピッカーである小川和久静岡県立大学特任教授に、北朝鮮の日本に対する攻撃能力などを中心に分析してもらった。
【小川和久】米朝のチキンゲーム。何があってもおかしくない
第2回はスライドストーリーによって、朝鮮半島情勢の鍵を握る各国の軍事力、すなわちミリタリーバランスについて情報を提供する。
現代の安全保障は、数だけで決まるものでは無いが、数はパワーの源泉であることは変わりない。客観的な数字の把握は、安全保障を論じる上で基本中の基本だ。
第3回は、マクロ的な視点から安全保障を理解するためのポイントについて、4月のマンスリープロピッカーを務めた武貞秀士拓殖大学特任教授と神保謙慶應義塾大学准教授に話を聞いた。
武貞氏は元防衛研究所勤務であり、北朝鮮に4回の渡航をして外交責任者である、リ・スヨン前外相と3時間余り懇談もした経験がある。神保氏は日米欧を中心に安保政策当局者やシンクタンクとの親交がある。
第4回から第6回は北朝鮮情勢をめぐるキープレーヤーであるアメリカ、中国、韓国の政策に迫る。
米国の安全保障政策を長年分析し、自衛官の経験もある渡部恒雄笹川平和記念財団特任研究員、中国の外交政策に詳しいNewsPicks編集部の野嶋剛記者、韓国政治研究の第一人者である木村幹神戸大学教授による分析を掲載する。
第7回では、元防衛副大臣で安全保障政策に詳しい、衆議院議員の長島昭久氏に北朝鮮をめぐる日本の防衛政策と安全保障のあり方について話を聞いた(インタビューは民進党離党表明前日の2017年4月6日に行われた)。
待ったなしの朝鮮半島情勢。今回、非常事態が発生するかはまだ分からない。しかし非常事態が発生しなくとも、世界は大きなリスクを抱え続けることになる。中長期的にも、日本の安全保障・防衛政策上、最大の課題が北朝鮮への対応と言える。
今回の特集が、朝鮮半島クライシスについての理解に少しでも役立てば幸いだ。
(バナー写真:Agencia Makro/CON/Mikhail Svetlov/Bloomberg/gettyimages、バナーデザイン:中川亜弥)