Fringe81の田中 弦氏。そしてUZABASEの梅田優祐氏。両ベンチャーのCEOには、ある共通点がある。それは、独立系コンサルティングファームであるコーポレイト ディレクション(以下、CDI)の出身者である、ということだ。なぜ、同社はベンチャー人材輩出企業であるのか。同社のパートナーである占部伸一郎氏と、Fringe81の田中氏が、CDIに息づく骨太なカルチャーを紐解く。

CDIを選んだ理由、そして学んだこと

-- ベンチャー界でも注目される田中さんは、なぜCDIというキャリアを選択されたのでしょうか?
田中:学生時代からインターネットが好きで、ネットイヤーグループの創業に参加したりしましたが、一度しっかり事業を学びたいと思っていました。
そこでCDIを選んだのですが、CDIはお客様の中に入り込んでオーダーメイドのコンサルをするという、「コンサルの地力」がつきそうというイメージがありました。それに、「お堅い」イメージのあるコンサルティングファームの中で、常に「フロントランナーでいく」といういい意味での「ベンチャー魂」を感じたのです。
田中 弦 Fringe81代表取締役CEO
ソフトバンク株式会社のインターネット部門採用第一期生。新卒2日目からブロードキャスト・コム(現Yahoo!動画)の立ち上げに参加。その後、ネットイヤーグループ創業に参加。コーポレートディレクションを経て、2005年ネットエイジグループ(現UNITED)執行役員。その後、2005年Fringe81社創業、2013年3月MBOにより独立。 
-- 田中さんがCDIに在籍中に身につけたことは何でしょう。
田中:在籍中に学んだのは「考えること」ですね。当時の上司とミーティングをしたときのことです。僕はたくさん資料を用意して、あれこれ説明したのですが、上司は「お前は考えていない。考えるとは、腕を組んでうなることだ」と言うんです。
最初は意味がわからなかった。だけど、あとで気づいたのは、答えとはパッと出すものではない、ということ。考えることにお金をもらっているプロに、パッと出る答えは要求されていないんです。分析に分析を重ねて、その結果からさらに考えて、編み出されたものに価値がある。
僕はイノベーションも“編み出す”ことだと思うんですよね。コンサルティングファームにいながら、イノベーションやベンチャーの真髄を違う角度で学べた気がします。

正統的なコンサルタントとは考える職人だ

-- 「考える」ということに拘っているところが印象的です
占部:CDIは、特定の業種のクライアントに限定しない、戦略系のコンサルティングファームです。しっかりお客様の中に入り込んで、案件に応じて一から手づくりで仕事をする、ある意味「職人的」なやり方をしています。僕らは、「コンサルティング・オーソドキシー(正統な)」を自認しています。
占部伸一郎 コーポレイト ディレクション パートナー
テレコムネット関係、流通小売、不動産などの幅広い分野において、中期計画の策定、新規事業の立上げ、事業再生支援、組織改革などに取り組む。近年は、日本企業の中国を中心とするアジア展開戦略や、マネジメント体制の再構築に従事。NewsPicksのプロピッカーでもある。
-- コンサルティング・オーソドキシーとはどのような意図があるのでしょうか。
占部:詳しくは以前の記事を参照いただきたいですが、いま、大手戦略系ファームを中心に汎用的な答えを当てはめる「ソリューション化」や、高級文房具とも揶揄される「人材派遣化」が進んできています。
ただ、CDIはこうした流れに与しないとはっきり決めています。ソリューションではなく、個別にお客様の悩みに応じてゼロから考えて、オーダーメイドのコンサルティングをやりたいんです。そして、そのやり方にこだわりたい。
ですから、CDIは「コンサルティング・オーソドキシー」と言っていますし、コンサルタントは「考える職人」でなければいけません。これができなくなるんだったら、CDIは解散してもいいよね、と言っています。
田中:僕がいたときから、海外の最新の経営戦略を日本ならではの中間層が強い組織にフィットさせる、いわば和魂洋才の方法論がありました。オリジナルな方法を開発していくというマインドは、いまも変わりませんよね。
占部:誰でもネットで情報が集められるいま、その価値はどんどん下落しています。ならば、コンサルの価値は「いかに考え抜けるか」ということ。
経営判断に絶対的な解など存在しないから、経営者が持っている考えに対し、僕たちは異なる視点で考えを持ち、その主観をぶつけ合う、というのが本来の価値です。それは必ずしも理論だけで生み出されるものではなく、考え抜いて絞り出すものだと思います。

ベンチャーマインドを持ったコンサルファーム

-- CDIに、田中さんの言う「ベンチャー魂」があるのはなぜだと思いますか?
占部:約30年前に大手ファームから独立したころから、脈々と培われてきている気がします。「会社は個人が好きなことをやるためのプラットフォーム」という考えが強いですし、新しいことでも「それは面白いね」と言われればやってしまうカルチャーがあります。
逆に会社からは「この分野の専門家になれ」ということは何一つ言われないので、それぞれに「やりたいこと」を見つけて自活する、という感じですね。
私の場合は、通信・インターネット業界や若いベンチャーのお手伝いが好きで、それを一つのライフワークとして取り組んでいます。
田中:ネットエイジという日本のベンチャーの草分け的存在だった会社にいたときに、占部さんに仕事をお願いしたことがありますね。
占部:懐かしいですね。CDIはベンチャー気質がある会社だからこそ、田中さんやUZABASEの梅田さんのようにCDIを辞めた後にベンチャーの世界で活躍している人が多いんだと思います。型にはまったところで、人と同じことをやるのが嫌いで、自分でなんとかしたい人は多いのかもしれません。
田中:大手ファームと比べてOB・OGは少ないはずですが、ベンチャー界隈ではCDI出身の人によく会う気がしますね。
-- 最後に、どんな人物と一緒に働きたいですか。
占部:コンサルの中途採用は、一気に大量採用してふるいにかける「up or out」だとよく言われます。でも僕たちは厳選した小人数を採用しています。そして、CDIに入った以上は組織に愛着を持って成長し、一人も欠けることなくマネージャーになってほしいと考えているんです。中途でもポテンシャル採用ですね。
-- すごく意外ですね。
占部:今いるのも、異分野から来た人材ばかりですから。別にMBAはマストではない。大事にしたいのは個人のWill、意思です。コンサルタントという「職人」になりたいと思っていることが重要ですね。
-- Willの強さって言葉だけでは判断できないと思います。どう判断されていますか?
占部:面接で「なぜコンサルをやりたいのか」と聞くのですが、どのような経験を経て、コンサルティングに興味を持ったのかなど、その人に思いや考えがあれば不思議と言葉は出てくるものです。
CDIの仕事は大変です。決まったフレームワークやソリューションに頼らないというのは、口で言うのは簡単ですが本当に苦しい作業です。ただ、そのぶん鍛えられる場であることは間違いない。CDIでマネージャーが務まれば、どこでも通用するのではないでしょうか。ぜひ、覚悟をもって飛び込んできてください。