元金融庁の弁護士が語る、規制とイノベーションの微妙な関係

2016/1/27
フィンテックを考えるうえで、欠かせないのが規制に対する理解だ。金融業は「おカネ」という根源的な要素を扱うため、もろもろの規制によってビジネスが厳しく制約されている。技術の力で「イノベーション」を起こそうとしても、規制が壁になることは往々にしてあるのだ。では、規制とうまく付き合いながら、フィンテックビジネスを成功させるためには何が必要か。シリコンバレーのスタートアップ企業に法律面で関わったのち、金融庁に転じた経験を持つ、増島雅和弁護士に聞いた。
「金融業」の境界はもともと曖昧
──フィンテックは、金融という規制業種と関わることから、法的な議論が避けられません。初めに、法律家はフィンテックをどのように捉えているか教えてください。
増島 私の立場は日本の法律家一般の立場よりもイノベーション推進寄りです。日本の法律家としては周辺領域を渡り歩いてきた一弁護士という立場でお話をさせていただきたいと思います。
まずフィンテックの捉え方として、現在の日本では、「フィンテックの定義とは何か」という議論が盛んですが、その時点で本質を捉え損ねているように思います。
フィンテックとは、米西海岸から出てきた投資マーケティング上のワードと理解するのが正しいと思っています。彼らは新しいマーケットをつくるときに、新しい言葉をつくり、「世界はこう変わる」という絵を描く。
彼らは未来を見通すのではなく、こうしたマーケティング手法を駆使して資金を集め、その資金をもってルールをつくって事業機会を創造し、自らの語った未来を実現させるのです。
この点を押さえてもらったうえで、フィンテックというキーワードを掲げて行われているさまざまな活動が何を意味しているのかを理解していただく前提として、金融業法の枠組みの話をします。
金融業法ではさまざまな「金融業」につき規律をしていますが、これは「金融業」を「非金融業」と区別することで初めて成り立つ枠組みです。
「金融業」に該当するとなれば、原則として金融庁の所管に入り、業者としての許認可などをとらなければなりません。一方、「非金融業」と整理することができるのであれば、法的には金融庁の監督を受けることはありません。
仮に無免許・無登録で事業を行っている業者がいた場合、刑事罰の対象となりますが、金融庁の所管ではないので、最終的には警察が対応することになります。まずは、そうした大枠を理解してください。
金融業として判断されるものと、そうでないものは、実際の世の中ではシームレスにつながっています。そこに、「このビジネスモデルは規制対象か」という観点で線引きをするのが金融業法であり、これを行う行政上の主担当が、金融庁ということになります。
業態間の差も自明のものではない
金融業法の中身も、大きくは銀行・証券・保険の3つに分かれていますが、その境目も実は曖昧です。
たとえば、保険では加入者にアクシデントが起きたときにお金が支払われます。取引相手が倒産した場合に保険金が支払われる取引信用保険という仕組みがありますが、証券の世界にも相手が倒産すればお金が支払われるデリバティブのような商品がある。
一定のリスク発生確率にもとづき、商品の価格を計算しているという点で、本質は同じですが、ある商品は「保険」、ある商品は「デリバティブ金融」の領域と、人為的に線が引かれているのです。
前者は保険業法の領域で、厳しく免許制が敷かれているのに対し、後者は金融商品取引法(金商法)の領域で、資格取得はそれほど難しくない登録制になっています。
フィンテックはよく、「金融と非金融の境目が曖昧になる」「業態の壁が曖昧になる」という語られ方をしますが、これまで見てきたように、もともとこうした境目は曖昧だということも理解しておく必要があります。
「許認可取得」というハードル
──フィンテック企業のサービス提供面での特徴を、金融業法の観点からどのように見ていますか。
フィンテックの真骨頂は、たとえば「Amazonレンディング」のように、金融サービスを「情報」の観点から捉え直して、データのフローに着目して最新のIT技術の活用を前提にサービス設計を再構築する点にあります。