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イノベーターズ・トーク Part 3

【小林×西田(3)】変われないメディア、変わろうとする政治

2015/1/20
西田氏は、中選挙区の時代から小選挙区の時代に移る中で、政治家とジャーナリストの関係性が変化し、その過程で第4の権力として政治をモニターするメディアの機能が弱体化していったと指摘。こうした現状を踏まえて、小林氏は現役の政治家として、どのようにメディアと付き合い、また情報発信をしようとしているのだろうか。

メディア機能の弱体化

西田:「政治的緊張感が表に出ない」問題の起点として、中選挙区制選挙から小選挙区制選挙への移行を挙げられましたが、僕もほぼ同じ見立てをしています。

小林議員がおっしゃるように、メディアによってクローズアップされる側面の違いもありますが、もう一つ、付け加えるならば、“政治家とジャーナリストの関係性の変化”も挙げられます。

中選挙区時代には、政治家と個々のジャーナリストの関係が密で長い時間をかけて信頼関係を形成する土壌がありました。それが両者にとって、「合理的」な関係でした。

ネットがない時代には情報発信にはマスメディアの仲介が不可欠で、新聞をはじめとするジャーナリストは同業各社を差し置いて自社だけのスクープが欲しい。

僕は「慣れ親しみの時代」と表現していますが、その次代には党の外部のジャーナリストも、党内の人間とほぼ同じ情報をつかむことができた。

場合によっては、それ以上だったことさえあります。それが小選挙区の時代になってから、人の入れ替わりが激しくなり、人間関係によって情報を得ることが難しくなりました。

しかしそれ以外の報道技術のストックがメディアから失われていました。また政権交代が現実味を帯びたことで、これまで以上に野党にも目配りをしなければならなくなった。

政権与党とメディアとの間で育まれていた緊張感が失われていき、第4の権力として政治をモニターするメディアの機能が弱体化していったのです。
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小林:そういった声は、メディアの方々からもよく聞きます。

西田:新聞社の政治部などが、形式的には昔と同じように、政治家に○○番と呼び、人を張り付けて、昔と同じようにやっているのに、かつてのようには情報が取れない。なぜか、と。

小林:昔は記者にも部屋に上がって酒を酌み交わしながら話をしたものだと、先輩方から聞きます。今はほとんどないでしょうね。

西田:小林議員ご自身の場合はいかがですか?

小林:党本部や移動中にお声かけいただいたメディアの方々には取材も含め、できるだけ時間を設けてお答えをするようにしています。何かを報道していただくときに背景を知ってもらったうえでの報道なのか、そうではないのかでは、大きな違いが生じると感じているからです。メディアの方々との対話は、われわれ政治家にとって必要なコミュニケーションだと思っています。

西田:今おっしゃったことは、とても重要な点だと思います。同時に、「政治がメディアの機先を制している」ことを象徴するご発言ですね。

小林議員はじめ政治家の皆さんは、今後のコミュニケーションとメディアの変化を見据えながら「政治的意図を正しくメディアに伝えたい」と考え、新たな手法を構築しようと行動を起こしている。

試行錯誤しながら、一定の効果を上げられる手法を模索されているわけです。

一方で、メディアはどうか。本来は有権者の目となり耳となって政治を批判する情報を取るべき存在であるにもかかわらず、今の時代に合った新しい手法を編み出せていないのではないでしょうか。

従来と同じように、特定の政治家に張り付き、酒を飲み交わせば情報が取れると思い込み、特オチを恐れる文化の中にいまだに居座り続けている。

変われないメディアと変わろうとする政治。この構造の変化が如実に表れてきていると思います。むろん、これは本来政治家ではなく、メディア自身が主体的に考えなければならない問題ですが、いかが思われますか?

ネットが変えた情報発信

小林:あるべき姿についてはわかりませんが、インターネットというメディアの誕生によって、政治側に情報発信の選択肢が増えたことは大きな変化だと思います。

従来は、情報を取る側も流す側もお互いに一方向の窓口しかなかったけれど、政治側にはもう一つの窓口ができてしまったと。メディア側が情報を取る窓口は依然一つなので、ここにパワーバランスの変化が生じているという見方はできます。

西田:政治が情報を出していくチャネルは、ネットの登場によって複数になったことに伴って、政治とメディアの関係性が変化しているということですね。

昔はマスメディアしか発信窓口がなかったから、「書いてほしくないな」と思いながらも、政治家が付き合いや行きがかり上、情報を渡すこともあった。

たとえば、現在なら、政治家は、編集されない情報を発信したければ、動画をすぐにでも配信することができる。事実、そうなってきています。

メディア側はそういった変化に気づきながらも、新しい報道技術を開発できていないのが現実なのでしょうね。

小林:その変化に対応しようとするメディアの方も、少しずつ出てきています。「ブログを読んで取材に来ました」「NewsPicksでの発言を読んで」という記者は増えています。メディア側の情報ソースが「本人に会って話を聞く」のほかに、「ネットの一次情報に触れる」が加わったということですよね。 

あと、西田先生が書いていらっしゃった「メディアの役割が変化した」という指摘はなるほどと納得しました。
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西田:「整理・分析・啓蒙」という3つの役割ですね。

有権者が受け取ることができる情報が少なかった時代には、メディアにはとにかくたくさん情報を出すことが求められていました。

しかし、情報量があまりに多くなった昨今、メディアに求められるのは、それだけではないでしょう。言い換えれば、それだけでは従来と同様のジャーナリズムの機能を担うことはできないのではないでしょうか。

対応して、膨大な情報をわかりやすく「整理」すること。そこには理解を促すための「分析」も求められる。「啓蒙」というのは、たとえば政治についていえば、そもそも政治をどう捉えるべきなのかというフレームワーク、補助線を提供するような役割のことを言っています。

PDCAサイクルを表に出すべき

小林:その意味で与党である自民党がもっと意識すべき役割としては、「情報の提供」ではないかなと。政策、実績……与党だからこそ提供できる情報は山とある。これを十分に出し切れていないと感じています。

西田:ちなみに、小林議員はどのあたりを出し切れていないと考えていますか? 先ほど(第1回)おっしゃっていた、政策立案に関わっている部会長からの解説といった部分でしょうか?

小林:そういったプロセスの部分ももちろんそうですが、「結果」ですよね。要は、PDCAサイクルをもっと表に出していいのではないかと思っています。ある課題について解決策の政策としてこういう法律をつくりました、こういう予算をつくり、こういう結果が出ました……というサイクルをわかりやすく表に出せていません。

西田:そこまで表に出していくつもりなんですか。

小林:出したほうがいいと思っています。

西田:それは、素晴らしいですね。

小林:マイナスの結果はなかなか出しづらい面はあると思いますが、平将明議員の下で進めている行政改革推進本部の「無駄撲滅プロジェクトチーム」でマイナス部分を更新するという取り組みももっと発信したほうがいいはずです。当然、成果が出ている政策についてはもっとプロモーションしてくべきですね。

実績を明確にすることは、政治で世の中が変わる実感を持ってもらうことにもつながりますから、重要だと考えています。

(構成:宮本恵理子、撮影:竹井俊晴)

*明日掲載の「これからの政治のキーワードは『オープン化』」に続きます。

*目次
第1回:自民党のファンを増やすための戦略とは
第2回:政治にも求められるネットとリアルの融合
第3回:変われないメディア、変わろうとする政治
第4回:これからの政治のキーワードは「オープン化」
第5回:自民党のメディア戦略が抱える課題