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必要なのは「インタラクティブ」ではない

シャオミのマーケティング戦略。重視するのは「参加感」

2015/8/6
低価格を売りに猛スピードで中国のスマートフォン市場を席巻したシャオミ(Xiaomi)。製品ポートフォリオも、テレビやルーター、ソフトウェア、サービスにまで拡大している。ハードばかりに注目が集まるシャオミだが、実は、サービス、マーケティング、コミュニティ形成という点でもエッジが立っている。第1回と第2回では、『シャオミ(Xiaomi)世界最速1兆円IT企業の戦略』(陳潤著)の訳者である永井麻生子氏の書き下ろしコラムを2回にわたって掲載し、その後は同著の内容を一部抜粋して紹介。ハードにとどまらない、シャオミの強さの神髄に迫る。
コラム第1回:シャオミ創業者、レイ・ジュンの「5つの人生戦略」
コラム第2回:シャオミ急成長の秘密を握る「4つのキーワード」
本編第1回:シャオミ急成長の原動力は、緻密でしたたかなマーケティング

「インタラクティブ」は目的ではない

シャオミはユーザーの「参加感」を大事にしている。商品の研究開発、デザインなどはすでに紹介してきたが、マーケティングにおいてもその姿勢にはブレがない。

シャオミのマーケティングにはふたつの形式がある。ひとつは口コミによるマーケティング、もうひとつはイベントによるマーケティングだ。このふたつのやり方は決して新しいものではないが、シャオミほどの効果をあげた企業はほとんどない。

その差こそが、シャオミがユーザーに持たせている「参加感」にある。黎万強は自著『参与感』の中で、こう指摘している。

「多くの企業が、シャオミのウェイボでのリツイートが多いのは、抽選で懸賞を出しているからだ、と考えている。しかし、シャオミよりも高額の商品を出したにもかかわらず、リツイートは桁ちがいに少なかった、という企業は山のようにある。彼らはユーザーの『参加感』を理解していないのだ。インタラクティブであること自体が目的となってしまっている」

2014年4月、シャオミのウェイボでは、続けざまにあるイラストのシリーズをアップした。大学生を取り巻く昔ながらの光景を描いたイラストである。男の子の好きそうなゲームやカメラ、女の子の好きそうな化粧品など、彼らにとっての必需品が描かれている。

参加感を理解しないマーケティング担当者はついつい商品の情報だけを流してしまいがちだが、逆にシャオミは、この時点で商品に関することは何ひとつ書かなかった。ただ、「青春」にまつわるいくつか雰囲気のあるイラストを流しただけだ。

5月に入って、雷軍は、発売間近の若者向けスマホ「シャオミ青春版」のPRのために、シャオミの他の6人の創業者たちと一緒に『われわれの150gの青春』というショートフィルムを撮影した。7人は平均年齢が40を超え決して「青春」の年代にもなく、その演技はぎこちなかったが、逆にそれがひとつのユーモアとなっており、ユーザーの反応は悪くなかった。

その頃、ちょうど『あの頃、君を追いかけた(那些年、我們一起追的女孩)』という映画が人気を博しており、このショートフィルムはそのパロディともいえる内容だった。実際にある大学の寮で撮影され、大学生やかつての大学生たちに、親近感を感じさせる内容に仕上げられていた。

5月15日、シャオミはウェイボで「3日で36台の『シャオミ青春版』をプレゼントする」と告げリツイートキャンペーンを開始した。ユーザーたちはこのニュースをウェイボで知ると、つぎつぎとシャオミアカウントの投稿をリツイートしはじめた。

5月18日午前10時、「シャオミ青春版」15万台が正式に発売となった。9時半頃にははやくも、シャオミの公式サイトが混みはじめ、10時頃にはアクセスが急激にしづらくなった。何度も「アクセスが集中しています。サーバーにかかるストレスが大きくなっています」という文字が提示された。

アクセスが集中することは予測されていたが、これほどまでだとは予測できなかったのだ。10時11分、シャオミの公式サイトにはこう表示された。

「15万台のシャオミ青春版は、10分52秒で完売しました」

この10分間で見ると、毎秒230台が売れたということだ。信じがたい大成功だった。黎万強曰く、

「参加感は新しいマーケティングの形だ。参加感をユーザーが感じてくれれば、自然と、シャオミ関連のイベントにも参加してくれる。ゆくゆくは、われわれが動かなくてもよくなるだろう」

実際に、シャオミフォーラムのユーザーは、シャオミが自ら企画したイベント以外にも、自発的にオフラインでもイベントを開催している。ちょうど、車好きのサークルのように、同じ都市に住むユーザー50人程度で集まるのが一般的な形式だ。

それぞれの「都市会」は、シャオミコミュニティのフォーラムにひとつのBBS(掲示板)を設け、会長がフォーラムで活動を呼びかけ、シャオミはイベントの申請書を審査して、イベントのテーマが目的に適うなら、Tシャツ、スマホケースなどの商品を提供して活動をサポートする。

会長は、イベント終了後にシャオミのフォーラムに総括を発表し、シャオミに活動状況をフィードバックしなければならない。現在まで、全国の大都市に300~400の「都市会」ができており、毎週15ほどの「都市会」イベントがある。

シャオミの公式サイトが推進している「爆米花(バオミーファ)」というイベントも紹介しておこう。その規模は「都市会」を軽く超え、参加者は少なくとも300人、多いときには1000人にも上る。ビーフンたちの交流会とも言えるもので、毎月大体数カ所で開かれる。2012年、「爆米花大フェスティバル」を含めて、全部で24会場において「爆米花」イベントが行われた。2013年には、18会場で行われている。

実際にイベントを行うことで、ビーフンたちのつきあいはバーチャルなフォーラムでの交流から、少しずつ現実の生活の中での交流へと変化してきた。友人をつくり、なかには、恋人同士となり、結婚した者もいる。2012年に選ばれた「爆米花年間ベストカップル」には天津のビーフンカップルが選ばれた。彼らは「ビーフンフェア」と呼ばれるファンミーティングで知り合い、結婚にまで至ったケースだ。

黎万強は、「インタラクティブであるということはひとつの手段でしかない。最も重要なのは参加感だ。われわれは、イベントを企画することでユーザーが参加感を持てるよう、真剣に考えている」と述べている。

また、「これまで多くの企業がシャオミのウェイボマーケティングやインタラクティブマーケティングを真似てきたが、形だけで精神が伴っていない」とも語っている。

「以前、すべてのマーケティングは一方通行で、『お前の考え方を変えてやろう』という姿勢をとっていた。まるで、ユーザーを強制的に教育しようとしているかのようだ。しかし、現在必要とされているのは体験型マーケティングである。企業は、親しみのあるキャラクターで顧客に近づき、一方通行で教えるのではなく、ユーザーに自覚させるようにしなければならない」

前回から毎日夕方、『シャオミ(Xiaomi)世界最速1兆円IT企業の戦略』(陳潤著)の第7章「マーケティング」、第8章「エクスペリエンス」を抜粋し掲載しています。
 シャオミ_書籍紹介