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コアファンを育成しソーシャル活用で拡散

シャオミ急成長の原動力は、緻密でしたたかなマーケティング

2015/8/5
低価格を売りに猛スピードで中国のスマートフォン市場を席巻したシャオミ(Xiaomi)。製品ポートフォリオも、テレビやルーター、ソフトウェア、サービスにまで拡大している。ハードばかりに注目が集まるシャオミだが、実は、サービス、マーケティング、コミュニティ形成という点でもエッジが立っている。前々回と前回では、『シャオミ(Xiaomi)世界最速1兆円IT企業の戦略』(陳潤著)の訳者である永井麻生子氏の書き下ろしコラムを2回にわたって掲載したが、今回からは同著の内容を一部抜粋して紹介。ハードにとどまらない、シャオミの強さの神髄に迫る。
コラム第1回:シャオミ創業者、レイ・ジュンの「5つの人生戦略」
コラム第2回:シャオミ急成長の秘密を握る「4つのキーワード」

急成長のスタートは「スーパーユーザー100人」の確保

シャオミ(Xiaomi)のCEO、雷軍はあるインタビューでこう答えている。

「私たちが作っているのは商品ではありません。私たちが作っているのは、『ユーザー』であり『ソーシャルネットワーク』です」

創業当初、シャオミがMIUIを中心に業務を進めていたとき、雷軍は黎万強にこんな難問を持ちかけた。

「一銭も使わずに100万人のユーザーを集めてくれ」

途方に暮れた黎万強は、チームを動員し、フォーラムを盛り上げるために書き込みを水増ししたり、コメントを出したりするという泥臭いやり方をとった。

そうやって、最初の100人のスーパーユーザーを育て上げたのだ。その小さな火はジワジワと広がり、2010年にはMIUIのフォーラムの登録ユーザーは世界中の数十カ国から、100万人を超えた。彼らが、シャオミの携帯電話の最初のファンである。

この過程において、フォーラムはシャオミのソーシャルネットワークの第一の基地となった。データやアプリケーションなどのリソースのダウンロードや、シャオミ製品の使い方を教える「シャオミ学院」など、いくつかのBBS(掲示板)の登録人数は1000万人を超え、一日あたりの書き込みも10万を超えた。

シャオミフォーラムの主な対象は「マニア」で、これらの人の多くはテクノロジーとスタートアップのファンであった。最初の「ビーフン」(シャオミのファンのこと)である彼らは、プログラマー出身でかつ何度も起業した経験を持つ雷軍をとくに尊敬していた。彼らは、シャオミにとって消費者であると同時に、ボランティアの宣伝協力者でもあった。

これらのマニアがテクノロジーに向ける愛着は強烈だ。スマホの設計にまで意見を持ち、自分のアイデアを実現してみたいという強い欲求があった。

雷軍いわく、「多くのファンは心の中で完璧なスマホというものに対して多くの意見を持っている。しかし、スマホの開発は難しく、彼らの多くは自分のアイデアを実現することができない。だから彼らはわれわれに、このような機能を載せたいんだ、という意見を出す。それらの機能をわれわれが採用し実現すれば、彼らは喜んで自分の友人たちに情報をシェアしてくれる」

雷軍はまさにこのマニアがシャオミの口コミマーケティングの基礎となると考えている。

「マニアは特殊なユーザーであり、多くのユーザーを代表しているとは限らないと言う人がいるが、違う。彼らは、最もヘビーなユーザーなんだ。彼らが満足すれば、他のユーザーを満足させることはたやすい。マニアがフィードバックしてくれる意見は、わが社の携帯電話の使用感を絶えずレベルアップさせてくれる。また、数十万人のマニアたちは、口コミマーケティングの主戦力だ。シャオミの成功はMIUIとミリャオのユーザー、そして一人ひとりのユーザーの口コミによるものなんだ」

ウェイボやウィーチャットもいち早く利用

2010年、ウェイボが中国で流行しはじめ、ファンたちの活動場所も自然とフォーラムからウェイボへと広がっていった。そのとき、雷軍は率先してウェイボをはじめ、シャオミの公式アカウント、創業者アカウントを開いた。

ウェイボが驚くべき速さで普及していくとともに、シャオミのアカウントはファンを集める強力な武器となっていった。シャオミはほぼ完璧にウェイボを使いこなし、雷軍個人の影響力も極めて大きくなった。

彼自身がビーフンを引き寄せる「磁石」の役割を果たしたのだ。2014年3月の資料によれば、雷軍のウェイボには800万人以上のフォロワーがいる。彼自身、毎日最低1つは書き込みをしており、その内容は90%がシャオミに関することである。

ウェイボというプラットフォームは、シャオミと消費者のコミュニケーションを完全に変えた。「7日×24時間」「やりとりを完全にオープンにする」が、ウェイボを使ったマーケティングのコンセプトだ。シャオミに関する情報はまるでウイルスのように素早く広汎な人々に広がっていく。

情報は、受け手によって解釈の仕方が異なる。世論を社にとって有利な方向へ導きつつ、膨大な数の受け手に情報を発信するのには非常に高いコントロール能力が必要とされる。しかし、現在のところ、シャオミのウェイボによるマーケティングはこの難しい課題を乗り越えることに成功している。多くの人の注目を集め、大幅なコスト削減に成功している。

ウェイボの後には、ウィーチャットの時代がやってきた。シャオミもすぐさまそこに参加し、ようやくシャオミのコミュニケーションに関するマトリックスが完全に完成した。フォーラムは情報の蓄積。ウェイボは新情報の開示。ウィーチャットはユーザーへの個人サービスを目的に運営されている。

フォーラムは開始当初から、マニアにターゲットを絞っていた。議論を煮詰め、継続的に運営することで、ユーザーの活動を盛り上げることが主な目的である。ウェイボでは、その情報の伝播力の強さを生かし、新しいユーザーを獲得するルートを確立した。

また、ウィーチャットはカスタマーサービスの役割を担っている。ウィーチャットを通じれば、ユーザーと直接やり取りすることが可能になる。また、シャオミはテンセントが運営するSNS「QQ空間」もプラットフォームとして使っている。「ビーフンフェア」や奪い合いになるような新製品の売り出し時などは、「QQ空間」で数十万リツイートが発生する。

このように、シャオミは巧みにそれぞれのメディアを使い分け、ソーシャルマーケティングの見本にまでなっている。

ソーシャルマーケテイングを巧みに活用

雷軍は、スティーブ・ジョブズとともにアマゾン・ドット・コム創始者のジェフ・ベゾスのことも崇拝しているように見える。

アマゾンの成功のカギは、ユーザーの反応を感知するシステムにある。アマゾン上のユーザーの評価、購買状況が商品の人気度を示しているため、仕入れ量はこれらのデータによって決められる。ユーザーの反応を素早く感知することにより、アマゾンは旧来型のスーパーマーケットを打ち破り、インターネット時代の伝説をつくった。

雷軍は、これらのユーザーのニーズを知る方法をマスターし、シャオミ独自のシステムへと昇華させた。フォーラム、ウェイボ、ウィーチャットなどの新しいメディアを通じて、ビーフンたちと商品の機能について意見や情報を交換しつつ、マーケティング活動も同時に行っている。

「ソーシャルメディアによるマーケティング」とは、ウェイボ、ブログなど各メディアの特性を利用し、それぞれのユーザーグループにどのような行動特性があるかを理解し、より新しいタイプの製品を設計したり、製品のブランドを広めたり、ユーザーの忠誠度を高めたり、ブランド力を高めたりするマーケティング方式だ。

モバイルインターネット時代の到来と共に、多くの企業がこの方法に注目しはじめたが、そのほとんどは慌ててアカウントを開設しただけだった。また、マーケティングの効果に対し、過度な幻想を抱いたり、ファンとの関係を築いたりするためのふるまい方をつかめずにいた。多くの企業にとってこのような手法はまだ「試み」にすぎず、実際の戦略目標を実現するには至っていない。

ソーシャルマーケティングにおいて、シャオミは先駆者であり、革新者である。シャオミのソーシャルメディアに関する布陣の変容と調整からは、インターネット時代のイノベーションの方向とマーケティングの趨勢(すうせい)が見て取れる。

*今回から毎日夕方、『シャオミ(Xiaomi)世界最速1兆円IT企業の戦略』(陳潤著)の第7章「マーケティング」、第8章「エクスペリエンス」を抜粋し掲載します。
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