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サードウェーブコーヒーの真価

コーヒー界のアップル、ブルーボトルが示すコーヒー3.0

2015/06/21
コーヒー界で今、新たな動きが起きている。「サードウェーブ」と呼ばれるコーヒー第3の動きである。その中でも際立っているのがブルーボトルコーヒー。コーヒーメーカーにもかかわらず、その調達総金額は1億ドルを超える。そのブルーボトルが今年2月、東京・清澄白河に上陸した。本連載では全11回にわたり、ブルーボトルが人を引きつけるその魅力は何なのか、新たなコーヒームーブメントとは。サードウェーブの全体像に迫っていく。
本日、「米国の最新コーヒートレンド、キーワードは拡大、洗練、多様化」を同時公開します。

今、「サードウェーブ」が熱い。サードウェーブとはその名の通り、コーヒーにおける、「第3の波」を指す言葉だ。

サードウェーブという言葉は、Wrecking Ball Coffee Roastersのトリシュ・ロスギブが、2002年にSCAA(アメリカスペシャリティコーヒー協会)が発行する機関誌『The Flamekeeper』に寄稿した文章で初めて使われ、瞬く間に広がった。

第1の波、「ファーストウェーブ」

では、コーヒーの第1波、「ファーストウェーブ」は何だったのか。

ファーストウェーブは、コーヒー豆の大量生産が可能になった19世紀末に訪れた。コーヒーがコモディティ化したことで、アメリカで日常的にコーヒーが飲まれるようになったのだ。

その背景には、さまざまな技術革新があった。1870年代には、鉄道と蒸気船の発達で、コーヒー豆を鮮度を保ったまま輸送することが可能になり、ラテンアメリカから大量のコーヒーが出荷されるようになった。

また、包装技術の発達などの技術革新で、これまで贅沢品だったコーヒーの価格が下がり、コーヒーが大衆の飲み物としてスタンダードになった。

第2の波、「セカンドウェーブ」

それに続く「セカンドウェーブ」の火付け役は、スターバックスだ。スターバックス創業者のハワード・シュルツが、イタリアのコーヒースタンドにヒントを得て、1987年から、エスプレッソなどの深煎りコーヒーを売り出したことに始まる。

この深煎りコーヒーが、当時のアメリカのイタリアブームとともに全米で話題となった。また、オープンテラスやソファなどのスターバックスの店舗設計が、自宅でもない、職場でもない、「サードプレイス(第三の場所)」として広まった。使い捨ての紙カップをテイクアウトする文化もここから始まっている。

第3の波、「サードウェーブ」

サードウェーブの意味については冒頭に記した通りだが、アメリカに続き日本でもサードウェーブという言葉が浸透し始めている。

『週刊文春』のコラムで辛酸なめ子氏が「キャップにヒゲ、メガネにニューバランスを履いてブルーボトルの行列に並ぶ男性」を「サードウェーブ系男子」と名付け、サードウェーブはコーヒーの範疇でなく、若者のライフスタイルを指す言葉としても広まっている。
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サードウェーブの特徴は以下の3点に集約される。

1:浅煎り
 2:手淹れ
 3:シングル・オリジン

それぞれ解説していこう。

まずサードウェーブが「浅煎り」である理由とは何か。

そもそも、深煎りのコーヒーとはヨーロッパに最適化された方法である。つまり、南米で穫れる高品質な「アラビカ種」の豆が手に入りにくいヨーロッパの国々が、アフリカで穫れる質の低い「ロブスタ種」の豆をどうにかして美味しく飲もうと考えぬいた末、考案された飲み方である。

しかしながら、アメリカでは<アラビカ種>の豆が簡単に安く手に入るため、深煎りである必要はなく、豆は浅煎りが当たり前だった。コーヒー豆の素材そのものの美味しさを楽しむなら浅煎りのほうがいい。

2つ目の特徴である「手淹れ」とは、すなわち、ドリップコーヒーであるということだ。これもドリップする温度から、重量、時間まですべてをマニュアル化して行われる。

3つ目の「シングルオリジン」とは、コーヒー豆の産地を国や地方単位ではなく、農園単位で表記したものを指す。栽培方法から生産者の名前まで「誰が・どこで・どのように」つくった豆なのかわかるコーヒー豆を使ったコーヒーのことである。

数種類の豆を混ぜてつくる「ブレンドコーヒー」に対して、1種類の豆だけでつくるコーヒーを「ストレートコーヒー」と呼び、これまでは「キリマンジャロ」や「エチオピア」など国単位、または地方単位で産地表記が普通だった。これを農園単位まで厳密化し、品質にこだわったのがシングルオリジンといえる。
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なぜ「コーヒー界のアップル」と言われるのか

今年2月、ブルーボトルが日本に上陸した。日本第1号店は清澄白河にオープン。これはブルーボトルにとって初の海外進出となる。セカンドウェーブの代表であるスターバックスが日本に上陸した1996年から19年。奇しくもスターバックスが北米以外で初進出した先が日本だった。

ブルーボトルはサードウェーブの言葉が生まれたのと同じ、2002年にサンフランシスコでジェームス・フリーマンが創業した。

「コーヒー界のアップル」と言われるのは、創業者のジェームス・フリーマンが、自宅ガレージでコーヒー豆を焙煎するところから始めたからである。そこが、同じくガレージで創業したアップルのイメージと重なるのだ。

ブルーボトルの事業は大きくなり、先日も7000万ドルの資金調達を発表。現在、米国内に18店舗、日本に2店舗を構えている。出資者は投資銀行のモルガン・スタンレーから、ツイッター創業者のエヴァン・ウィリアムズ、インスタグラムの創業者のケヴィン・シストロム、プロスケートボーダーのトニー・ホーク、またバンド「U2」のボーカルであるボノまで、非常に幅広い。

この一見、稀有とも見える多様性と新しさこそがブルーボトル、そしてサードウェーブの新しさと、これからの可能性を示している。

スターバックスとの大きな違い

しかし、単純に数字で比較すると、セカンドウェーブの先駆けであるスターバックスの2014年度の売上高は164億5000万ドル。世界の店舗総数は2万2088にのぼり、ブルーボトルの約1100倍の店舗数を誇る。この圧倒的な差をブルーボトルが超えるのは現実的ではない。

だが、数字では歯が立たなくとも、ツイッター創業者のエヴァン・ウィリアムズがツイッターでしたように、「人の価値観に変化を及ぼす」という点においてはスターバックスと同じくらいの影響力を持つかもしれない。

ブルーボトルは非常にコーヒーに対してストイックだ。スターバックスでは当たり前のフリーWi-Fiをブルーボトルは全世界どこの店舗にも整備していない。店内では、ラップトップPCではなく、人と、そしてコーヒーと向き合ってほしいというメッセージだろう。

フリーWi-Fiを整備設置しない一方で、コーヒーを飲む客へのホスピタリティには並々ならないこだわりを追求する。清澄白河の店舗のドアノブは金属でなく、木でできている。ジェームス・フリーマンいわく「冬、触ったときに冷たくないように」、店に入る「ファーストタッチ」への心遣いだという。

本特集では、世界と日本に広がるサードウェーブの潮流を、ビジネスと価値観の視点からリポート。モバイル空間統計を利用したブルーボトル清澄白河店のにぎわいをデータで検証する。ブルーボトル創業者のジェームス・フリーマンへのインタビューを皮切りに、全11回にわたって、コーヒー第3の波「サードウェーブコーヒー」に迫っていく。

【Vol.1】米国の最新コーヒートレンド、キーワードは拡大、洗練、多様化
 【Vol.2】ジョブズとブルーボトル創業者の類似点。なぜコーヒー界の“アップル”なのか
 【Vol.3】ブルーボトルコーヒー創業者インタビュー(上)
 【Vol.4】ブルーボトルコーヒー創業者インタビュー(下)
 【Vol.5】コーヒービジネスの主戦場は、カフェから企業と家庭へ
 【Vol.6】コーヒーの新トレンドは、「床屋との融合」
 【Vol.7】【スライドで見るデータ】ブルーボトル人気は本当か?
 【Vol.8】【スライドで見るデータ】ブルーボトルはどの年代に響いたのか?
 【Vol.9】科学的に証明された、コーヒーの健康増進効果
 【Vol.10】【スライドで見るデータ】ブルーボトルはどこから人を集めたのか?
 【Vol.11】【スライドで見るデータ】ブルーボトルに人は何曜日に行く?