人気沸騰。「ユニコーン投資」の落とし穴
2015/05/22, The New York Times
IT系スタートアップの未公開株が人気
新たな資金調達を進めている配車サービス「Uber」の企業評価額が500億ドルに達すると言われる中、いわゆる「ユニコーン」──評価額が推定10億ドルを超える非上場のIT系スタートアップ──の人気に、バブルの再来かと不安になるのも無理はない。
だが、心配はいらない。非上場のユニコーン株は、ベンチャーキャピタリストなど機関投資家が保有しており、一般の投資家は2000年にドットコム・バブルが弾けたときのような打撃は受けないだろう。今回は市場が暴落しても、ほとんどの人は問題ない。
と言いたいところだが、残念ながら事実ではない。
一般の投資家は以前から、注目のIT企業株は上場されるまで手を出せないことが不満だった。しかし、最近は事情が異なる。フィデリティやT・ロウ・ブライス、ブラックロック、ジャヌスなど大手の資産運用会社は、ウーバーや画像共有型SNSのピンタレスト、宇宙開発企業のスペースXなどの未公開株をひそかにポートフォリオに組み込み、ミューチュアルファンドの運用益を引き上げようとしているのだ。
うれしい知らせは、幅広い投資家がこれらの「偽・未公開」株に投資できるようになり、投資のプロセスがある程度、民主化されていることだ。一方で悪い知らせは、バブルが弾けたときは、超高額の評価がついたユニコーン株を超高値で買った後ということだ。しかも多くの投資家が、その事実を理解していないかもしれない。
たとえば、IT企業を中心とする投資信託フィデリティ・コントラファンドに投資している人は、ウーバーやドロップボックス、宿泊仲介サイトのAirbnb(エアービアンドビー)の株を少しずつ保有していることになる。
特大の当たりと特大のハズレ
問題は、少なくとも疑問の余地があるのは、大手ミューチュアルファンドがユニコーンの企業価値をどのように評価して投資しているかだ。
通常、ミューチュアルファンドは、上場株や公的に取引される債券に投資する。これらについて保有する株式の価値を確認する際は、市場の終値を見ればいい。
しかし非上場企業の場合、株価の基準となる市場が事実上なく、企業価値はひと握りの投資家──通常はベンチャーキャピタルやプライベート・エクイティなどの法人──が、払おうと思う金額によって決まる。
彼らのような機関投資家は、リスクの評価や投資の動機が、退職後の蓄えのために投資する普通の労働者とは異なる。
ベンチャーキャピタルは、特大ホームランを狙う場合が多い。ポートフォリオに特大の「勝ち」がいくつかあるかぎり、大量の「負け」もよしとするのだ。
ネットスケープ・ナビゲーターの開発者でベンチャーキャピタリストのマーク・アンドリーセンは最近のニューヨーカー誌で、ユニコーンのうち第2のグーグルやフェイスブックになるのは、ほんの一部にすぎないと述べている。
ほかの企業による出資が、企業価値を高める場合もある。たとえば、中国のインターネット検索最大手の百度(バイドゥ)と、新興の電子機器メーカーである小米科技(シャオミ)はウーバーに出資している。ただし、彼らにとっては提携などを見据えた戦略的な出資で、企業価値が高まることはあまり重視していないかもしれない。
投資基準はブラックボックス
ミューチュアルファンドが非上場企業の価値をどのように決めるのか、本当のところを知ることはほぼ不可能だ。今回の取材でも、方法論を詳しく明かしたファンドはなかった。
T・ロウ・プライスは、「企業評価は、ポートフォリオの管理部門から独立した、複数の分野の専門家による評価委員会の責任で決める」と文書で回答した。
さらに、「該当する証券の重要な取引や、資金調達の新しいラウンド、財務と事業のパフォーマンス、企業に影響を与える戦略的な出来事、類似の企業との相対評価などの要素を考慮している」。
フィデリティも、「ミューチュアルファンドが保有する株は、厳格かつ綿密な時価評価のプロセスを経ている」として明言は避けた。ブラックロックからは回答がなかった。
多くのファンドは保有する未公開株の内訳を明らかにしていない。額の大きい投資先上位10件のみ公開する場合も多い。
フィデリティは一部の保有株を開示しており、たとえばフィデリティ・コントラファンドは1億6200ドル相当のウーバー株を保有しているが、株式の数や買い増しの経緯は明らかにしない。
スタートアップが上場したがらない?
資金の最大10%をいわゆる非流動性投資に振り向けるミューチュアルファンドも多い。彼らが資産をどのように評価しているかを見極めるのは難しいが、取引の条件はそれ以上にわかりにくい。
関係者によると、優先株には機関投資家のリスクを守る特別条項がつく場合もある。上場の期限を定め、実現できなければペナルティを払うという取り決めもある。さらに、未公開株が上場される前に売却した例もあった。
上場前に内部の事情がわかりやすいから、未公開株を好むというファンドマネージャーもいる。
ミューチュアルファンドに言わせれば、スタートアップを先物買いするもうひとつの理由は、市場全体でIPO(新規株式公開)の機会が不足しているからで、上場するまでの期間は次第に長くなっている。
確かにそのとおりだが、これは自己達成的な予言でもある。彼らが非上場のスタートアップに競って投資するから、急いで上場する意欲がそがれるとも言えるだろう。
もっとも、ミューチュアルファンドの全投資額のうち、スタートアップの未公開株が占める割合はわずかだ。フィデリティ・コントラファンドが保有する1億6200万ドル相当のウーバー株は、ファンド全体の0.145%にすぎない。
ポートフォリオでユニコーン投資の割合を増やしたければ、ミューチュアルファンドに資金を集中させる必要はなさそうだ。それは投資としても賢明かもしれない。(文中敬称略)
(執筆:ANDREW ROSS SORKIN、撮影:Nancy Borowick/The New York Times、翻訳:矢羽野薫)
© 2015 New York Times News Service
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コメント
注目のコメント
シリコンバレーの多くのVCが「パフォームしている」と謳っていますが、ほとんどの場合、その根拠は未実現のバリュエーションをベースにしたもの。日本と違って後のラウンドから入る投資家に売却するケースもよくあるようなので、ババ抜き的な側面もあるのでしょう。
記事にあるように、投信運用企業が、最近のベンチャーの資金調達ニュースででてくることは気になっている。特に、結構T Rowe Priceは見かける気がする。
一般的に、運用商品というのはガイドラインというものがあり、そこにどういった投資をするかということが決められていて、そこに違反した場合は「ガイドライン違反」としてすぐに直しに行く。例えば日本株運用であれば、日本の上場企業に投資するとあり、それ以外には投資できない。また複数国運用だが一国の比率が10%を超えないとあれば、それを意識するし、持っている銘柄が急に上がって超えた場合はすぐに売って、かつ報告も求められる。非上場企業に投資している商品は、ガイドライン的にどうなっているのかが、気になっている。
記事にあるFidelityのContrafundは検索すると『Normally investing primarily in common stocks.』とあるので、非上場もガイドラインとしては認めているのだろう。また最新の四半期報告書見ると、ベンチマーク対比でプラス寄与した2番目の銘柄にPinterestが入っている。一方で、記事指摘にもあるように価格算出(NAV算出)プロセスはとても気になるところ。
http://bit.ly/1PzZcy6知らなかった。ますます未上場と上場の境目が薄まって来ていますね。
「最近は事情が異なる。フィデリティやT・ロウ・ブライス、ブラックロック、ジャヌスなど大手の資産運用会社は、ウーバーや画像共有型SNSのピンタレスト、宇宙開発企業のスペースXなどの未公開株をひそかにポートフォリオに組み込み、ミューチュアルファンドの運用益を引き上げようとしているのだ。」