2024/3/26

【視点】ドイツは「核のごみ捨て場」をこうして選ぶ

NewsPicks 編集委員 / 科学ジャーナリスト
原子力発電所の稼働に伴って出る「核のごみ」。
中でも高レベル放射性廃棄物は、人が近寄れば20秒ほどで死に至るほどの強い放射能を持つため、日本を含む各国は地下深くに埋めて処分することにしています。
その「地層処分場」の候補地選びの取り組みを進めている国の1つにドイツがあります。
ドイツの立地選定プロセスで不可欠とされているのが、高い透明性と市民の参画です。それらを確保するために設置された「社会諮問委員会(Nationale Begleitgremium;NBG)」の共同議長で、ミュンヘン工科大学教授のミランダ・シュラーズ氏に話を聞きました。
ドイツは過去の「失敗」から何を学んだのか。
市民の参画をどうやって実現するのか。
そもそも、核のごみについて「今」考える理由はどこにあるのか。
ドイツの経験や取り組みは、日本の処分場選定においてもヒントになりそうです。
INDEX
  • 岩塩鉱山が低・中レベルの処分場に
  • 教訓その1:過去の立地選定の失敗
  • 教訓その2:アッセⅡ処分場の失敗
  • 参加している「市民」とは?
  • 課題は専門家の維持
  • 未来の世代をどう守るか

岩塩鉱山が低・中レベルの処分場に

インタビューに先立ち、記者はドイツの核のごみの処分にまつわる場所を幾つか訪れました。
ドイツでは、低・中レベルの放射性廃棄物も地下深部に埋めて処分することになっています。一部はすでに埋設されていますが、その際に利用されたのが、過去に岩塩を採掘した跡地です。地下400〜500mの深さに掘られた穴に、たくさんの放射性廃棄物が運び込まれました。
岩塩鉱山を利用した低・中レベル放射性廃棄物を保管しているモアスレーベン処分場。地下400m以深に(写真:BGE提供)
こうした処分場のうち、モアスレーベン処分場では、安全が保たれると判断され、坑道を埋め戻すなどの「廃止措置」に向けた準備が進められていました。
一方、同様に岩塩鉱山跡地を利用したアッセⅡ処分場では、地下水の汚染や保管容器の破損が確認され、多額の費用と時間をかけて廃棄物を地上に運び出すことが決まっています。
ザクセン=アンハルト州の都市ハレでは、最終処分場について話し合うために実施主体や規制当局が開催した2日間のフォーラムを取材しました。政治家や専門家、市民が一堂に会し、率直に意見を交わす場で、今回が2回目の開催だそうです。環境大臣が若者と語り合うセッションもありました。
運営メンバーの中には、かつて岩塩鉱山への放射性廃棄物の運び込みに反対し、デモなどの反対活動をしていた人もいます。立場が異なる参加者同士でも、和やかに意見を交わし、交流を深める様子が印象的でした。
ハレで開かれたフォーラム
インタビューは、フォーラムの会場の一室を借りて行いました。

教訓その1:過去の立地選定の失敗

──フォーラムを通して、ドイツの処分場の選定が市民参加と透明性を重視した形で進められていることを実感しました。そもそも市民参加と透明性は、法律で義務づけられているそうですね。