2024/4/15

【仕事と育児の両立】キャリアを前に進める、リスクの可視化とチーム育児

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「2030年度までに全階層の女性比率50%」を掲げてDEI(Diversity, Equity & Inclusion)に取り組むリクルートグループ。
(株)リクルートのCO-ENインクルージョン統括室室長として、DEI施策を牽引し社内に浸透させているのが、早川陽子さんだ。
早川さんは、就職活動当初はキャリアについて考えることはほとんどなく、どこか「遠い世界のこと」と思っていたという。
それが、リクルートの北海道支社で派遣社員としてキャリアをスタートさせ、今ではDEI推進室の室長を勤めている。
仕事と育児を両立させつつ、2014年には就学前の2人の子どもを連れて東京へ単身赴任。
「キャリアなんてほとんど考えていなかった」という20代から、子育てと仕事のやりがいを両立し、DEI推進のリーダーとして活躍する現在に至るまで、どのような道のりだったのか。

新卒で不採用だったリクルートに派遣社員で

私は現在リクルートでDEI推進を担当する部署の室長を務めていますが、もともとリクルートでのスタートは派遣社員からでした。
私は北海道の地方出身でのんびり育ったので、就職活動の時は自分のキャリアを描くというより、もっとミーハーな感覚でした。母が専業主婦だったこともあり、女性が働いている姿をあまりイメージできていなかったんだと思います。
あちこちの企業を受ける中で、リクルートの説明会で「あ、この会社いいな」と惹かれたんです。
しかし準備不足もあって、案の定といいますか、一次面接で落ちてしまい、新卒では別の会社に就職しました。
そこでは、営業職、そして社会人としての基礎を学ばせてもらいました。ただ、私は自分から人に話すのがとても苦手で、うまくいかないことばかりでした。
3年で1社目を退職して、派遣会社に登録したんです。
その派遣先が、たまたま、リクルートが発行している結婚情報誌『ゼクシィ』の営業部署でした。

20代後半で総合職へチャレンジ

新卒で入りたかった会社ですから、張り切って仕事をするんですが、ダメダメなことばかりで。
お客さまを訪問した際も、お借りした写真にコーヒーをかけてしまったり、撮影の手伝いに行ったのにお客さまの備品を壊してしまったり。本当に散々なスタートでした。
それでも仕事は楽しくて、目の前のことを一生懸命やっていました。
当時は、派遣社員を経て、契約期間が3年半(当時)の契約社員になりました。20代の頃はキャリアビジョンがなかったので、リクルートを卒業したら次は何をしようかな?とぼんやり考えていました。
そんななか、3年半という期限が近づいた頃に、当時の上司が私に「できることが他にもあるんじゃないか」と声をかけてくれて、私の意欲を引き出してくれたんです。
自己効力感も自己肯定感もそれほど強くなく、キャリアなんて遠い世界のこと。そんなふうに思っていた自分が、上司から期待の言葉を浴びるうちに、真剣に自身のキャリアを考えるようになりました。
そこからリクルートの総合職にチャレンジして、採用されることに。その後、第一子を授かったのが2010年30歳の時です。
リクルートではワーキングマザーの両立支援に力を入れ始めた時期でもあり、自然な流れで育休から復帰して働き続けられました。

キャリアの時間軸を、子どもが成人する20年で考える

自分のキャリア観に次の変化が訪れたのは、2013年、二人目の子どもを出産した頃です。
子どもが成人するまでの20年を、自分のキャリアの時間軸として考えるようになりました。
それまでは自分のキャリアといっても、仕事のことしか考えられなかったんです。それが、「子どもたちが成人したとき、少しでもよい社会であってほしい。そのために私が自分のキャリアを通してできることにチャレンジしていきたい」と考えるようになりました。
上司の「できることがもっとあるはず」という問いかけと、私自身のライフステージの変化。そのふたつがうまくクロスして、将来のキャリアに向け具体的に動き出しました。
目の前の仕事で価値や成果を生んでいくために、まずは本気で勉強するところから始めました。一般教養、経営学、会計、その他の分野も。子どもの昼寝中や隙間時間に本を読んだり、セミナーに参加したり、必死で知識を深めるようにしました。
ちょうど、リクルートが女性活躍を進めていくタイミングだったのもラッキーでしたね。育児と仕事を両立しながら、いろいろなきっかけをもらえたと思います。
2014年、二人目の育休から復帰してすぐ、課長職という管理職になりました。このとき、初めて仕事と育児の両立に悩むようになります。
当時、私が所属していた組織では、全国の管理職が東京に集まる会議が毎週あったんです。北海道からドアツードアで往復7時間。その移動時間の長さが自分のキャパを圧迫して、両立の難しさを痛感するようになります。
あるとき、自分の1カ月の時間の使い方を可視化してみたら、移動時間の多さにがく然とするほどでした。
そこで、本当にリアル参加しないといけない会議と、オンラインでも大丈夫なものを仕分けして、一部の会議はオンライン参加とさせてもらえないか、それぞれの会議の議長に直談判したんです。
10年前ですから、Teamsやzoomなどのオンライン会議ツールが一般的ではない時代です。社内のテレビ会議システムを利用して、北海道から会議に出席していました。

パートナーや周りを巻き込んだ「チーム育児」で乗り切る

そうやって、自分が本当にやりたい仕事に時間を使えるように変えていき、仕事の成果も上がったし、育児への考え方も大きく変化しました。
すべてを自分でやらなくてもいい。本当に大事にしたいことの優先順位をつけて、自分が関わるところは大事にする。それが私なりの育児の方針でした。
パートナーや保育園の先生、シッターさんなどプロにも助けてもらい、チームで子育てをする。そんなふうに考えるようになりました。
仕事との両立では、あらゆる想定リスクを可視化しました。病気やトラブルが起きたときにどうするか、対応策をひとつだけでなく複数用意して、頭の中やノートに書き留めて組み立てておきました。

二人の子どもを連れ、東京へ単身赴任

チーム育児と仕事の両立が見えてきたタイミングで、次のステップにチャレンジする機会が訪れました。東京勤務を打診されたんです。子どもは5歳と2歳でした。
ずっと北海道で仕事をしてきましたが、今まで経験したことのない新しいチャレンジがしたい。そんな強い気持ちが湧き上がってきました。
今のようにリモートワークが普及する前で、私がやってみたい仕事は、東京の拠点にあったんです。
子どもを連れて「東京でチャレンジしたい」と、私の気持ちはすぐに決まりました。パートナーも私のキャリア観を理解してくれていたので、東京行きを応援してくれました。
パートナーの希望としては、子どもたちには札幌にいてほしかったのですが、夫婦で話し合い、何より子どもたち自身の気持ちを聞いて、私と一緒に東京へ行くことになりました。

想定外を可視化して、不安を安心に変える

その後、パートナーも東京に転勤となり、今は家族がそろって暮らしていますが、最初の3年間は東京でワンオペ育児をしながら仕事をしていました。
仕事において未知の領域に挑戦することはすべてが新鮮で楽しかったし、自分の進化も実感。非常にやりがいがありました。
子育てでは、保育園や小学校のママ友のネットワークに助けられました。ベビーシッターも利用しながら、ママ友と助け合う環境がつくれたのが心強かったですね。
例えば、ママ友が大変だったり休みたいなという時は我が家でお預かりして一緒に遊んだり、ご飯を食べたり。
3年間のワンオペで本当にどうしようと思ったのは、一度だけ。出張先から保育園に迎えに行くつもりだったのが、天候不順で飛行機が羽田ではなく、名古屋に到着。保育園のお迎えは絶対に間に合いません。
本当に焦ったんですが、そのときもママ友に助けてもらって、子どもを一緒に迎えに行ってもらい乗り切ることができました。
この経験から、より一層、想定外のことを考えるようになりました。単身赴任や復職は誰でも不安ですが、その不安の根源がわかると、不安を解消する答えも見えてきます。
もうひとつ、おすすめしたいのは社内外にロールモデルを見つけることです。
100%ぴったりなロールモデルは見つからなくても、「この観点で参考にしたい」と思う先輩に対して、不安の種を伝えてみることで解像度が上がり、事前に準備しやすくなります。

「できない」から「任せてもらえば、がんばってみる」へ

次の転機は、2022年のDEI推進室への異動です。それまで営業一筋で事業を担ってきた私が、43歳で初めてコーポレートスタッフに。人事の仕事をする機会を得て、まったく新しいことにチャレンジする日々を過ごしています。
私は仕事での成長の基礎となるのは、「アンラーン」だと思うんです。自分の古い価値観を手放し、そこに新しい学びを入れていく。いろいろなことを書き出して、可視化すると、自分への理解が深まって、アンラーンにつなげやすくなります。
私の場合、朝の5分を前日のスケジュールを見ながら自分を振り返る時間にしています。そうやって自分と向き合うことで、自分の課題や強みを再発見できています。
企業を経営視点から考えるコーポレートスタッフになって感じているのは、企業の「社会的責任」と「ビジネス価値」の両立こそが、私がこれから目指す景色だということ。
ビジネスの社会的価値や財務的価値は、これまでの経験から自分の中に軸があります。ですので、今は、企業の社会的責任や影響についてもっと思考を深め、実践していきたいですね。
今日お話した私の経験は、あくまでも10年以上前の話で、今では社内も外部環境も大きく変化しました。当時はリモートワークも普及していなかったですしね。
そんな変化もあいまって、今は「任せていただいたら、できるようにがんばってみます」と言えるようになりました。
私の経験を「こんなスタイルもあるんだ」と、1つの事例としていただけたら嬉しいですし、リーダーを打診されたり、自身もキャリアアップを考えている女性たちには、過去の私のように「できない」と思いこまず、チャレンジを楽しんでもらえたらと思います。