2024/1/30

高まる“OVER30世代”の市場価値。スキルの矮小化をやめよう

NewsPicks Brand Design / Editor
 終身雇用や年功序列でのキャリアアップが瓦解し、人材流動性も高まっている。しかし転職に不安を覚えるビジネスパーソンは未だに多い。
 特に、長く一社に勤めてきたミドルエイジは顕著だ。
 自身が積み上げたスキルは自社でしか通用せず汎用性がない。そう考え転職に踏み出せない声も聞くが、本当にそうだろうか? 
 「転職は勇気ある若者だけに許された転機ではない。30歳以上のミドルエイジのチャンスは広がっている」
 そう力説するのは、スカウト型転職サービス 「マイナビスカウティング」の事業責任者、株式会社マイナビの吉澤伸吾氏だ。
 ではミドルエイジ人材はなぜ企業から重要視され始めたのか。また自身にベストマッチする企業の見つけ方とは。
 様々な外資系企業で人事経験を積み、現在は企業の戦略人事支援を行う安田雅彦氏と共に、ミドルエイジの転職の常識を再定義する。

ポストマネージャーからの昇進が美しい

──近年まで「35歳転職限界説」が唱えられていた印象があります。ミドルエイジ人材への企業からのニーズは時代と共に変化しているのでしょうか?
安田 変化していますし、よりニーズが高まるはずです。
 現在の日本の雇用システムは、高度経済成長期にできています。良いモノを作れば安定的な成長ができる。この前提のもと組織体系を作り、年功序列でメンバーを半ば強引に昇進させていました。
 また人材流動性も低く、35歳を超えた人材が中途採用で入るポジションがなかった。しかし、現在は不確実性の高い時代です。
 既存事業のみでは安定的な成長が見込めないため、新規事業やDX、生産性向上など新しい取り組みを前提に事業計画や、採用計画を立てる必要がある。
 現在いる人材だけではなく、外部登用も含め、チャレンジを推進し、かつ結果を出すことが求められます。
 この状況下で、人を雇うときに「35歳を超えている……」とフィルターをつける企業は成長しない。重要なのは職務能力や経験だと、企業側も徐々に気づき始めています。
──現在、どんな人材が求められているのでしょうか。
安田 要望として多いのは「経験豊富なマネージャー」です。たしかにケイパビリティの高いマネージャーがジョインすれば組織に大きなインパクトがあります。
 一方で、マネージャー職の転職は相当なリスクを孕んでいます。
吉澤 安田さんの意見に同感です。会社が違えば、カルチャーが違います。カルチャーの違う他社のメンバーを何人もいきなりマネージメントするのはかなりハードルが高いことです。
安田 おっしゃる通りです。外資系企業だと、面接の段階で様々な部署の人間に会わせるなどカルチャーフィットを慎重に確認しますし、入社前からフィットさせる努力をします。
 さらに、オンボードプログラムを充実させるなど、組織一丸となってマネージャーの転職を成功させようとする。
 もしそこまでできないのであれば、ポテンシャルを秘めたミドルエイジ人材を採用し、彼らを育成してマネージャーに昇進させる流れを作るのが美しい。
吉澤 同感です。われわれは「マイナビスカウティング」というミドル・ハイクラス向けの、スカウト型転職サービスを手掛けています。
 様々な求人情報を把握していますが、実際に「幹部候補」や「新規事業の幹部候補」の募集が増しています。
 経営戦略に合わせて必要な人材を登用する意識の高まりを感じます。
 また「アパレル企業が住宅を手掛ける」など異業種への参入も盛んです。この際、アパレル企業からすると、住宅業界のドメイン知識を持つ人材の獲得は必須となります。
 こうした世の中の動きからも、ミドルエイジ・ミドルハイクラス人材が活躍するチャンスは今後、確実に広がっていくと思います。

ポータブルスキルをどう自認する?

──一方で自身が保有しているスキルは自社に特化したもので、汎用的なスキルではない。いわゆるポータブルスキルがなく外部で通用する自信がない、という声も耳にします。
安田 20年近く仕事を続けていれば、絶対に「その人なりのバリューやスキル」があります。ただ転職経験が乏しい人の多くは、正確な棚卸しができていない。ここが問題です。
 基本的なことですが職務経歴書をアップデートしていますか?と、問いかけたいですね。
 職務経歴書を作れば、キャリアを俯瞰的に見つめ、自身の強みや弱みを理解できます。
──職務経歴書は具体的にどう書けばいいのでしょうか。
安田 まず具体的にどのような仕事を行ったか、手掛けたプロジェクトは何か細かく書き出します。その上で、経験や学び、感じたこと、得られた哲学も言語化してみる。
 すると、職務経歴書上に表れてこない個人特有の価値観が浮かびあがってきます。
 例えば、僕は、34歳のときに子会社を会社都合で閉じ、従業員を会社都合離職にしている過去があります。
 その経験から、会社だけに命運を握らせず、自分のキャリアは自分でドライブすることの重要性がわかりました。
 職務経歴書には記載しませんが「安田雅彦」特有の雇用観であり、メンバーのキャリア形成や育成を行う際の哲学にもなっています。
 こうした「キャリアヒストリー」を整理すると、個人特有の価値観がより立体的に見えてきます。
 その上で、転職市場に出て、マーケットからの評価を確かめる。自身のポータブルスキルやキャリアヒストリーの価値はどの程度か基準ができます。
吉澤 これまでの経験を解像度高く把握する場合、そのプロセスを必ずしも一人で行わずに、他者と会話するのも良いですよね。
 他者からの指摘で自身の強みや弱みがわかることも多い。
 例えば、壁打ち相手として転職エージェントを活用し、保有スキルの棚卸しや自身のマーケットバリューを確認するのも一つの方法です。
 転職エージェントは、異なる業界や年代の人々を転職に導いた経験値があるため、相対的な視点でアドバイスが可能です。
 特に、一つの企業で長く働かれている方は、自身のスキルやマーケットバリューをうまく把握できていないケースが多いため、いい機会になります。
安田 僕も仕事柄、転職エージェントやヘッドハンターとはよく会いますが、彼らとの会話から自分の能力やスキルが整理され、明瞭になった経験がある。
 他者を通じて、自己をメタ認知していくプロセスは多分にありますね。

キャリアビジョンは「ぼんやり」でも十分

──スキルやキャリア観を具体化した後、将来のキャリアビジョンをどう描けばよいのでしょうか。
安田 不確実性の高い時代においては、過度に詳細なキャリアビジョンを描いても3年後、5年後には世の中の方が変わります。
 自分の欲望をベースに「高いお給料が欲しい」「カンファタブルに仕事がしたい」など、ぼんやりとした動機でも十分ではないでしょうか。
吉澤 そうですよね。30代や40代はライフステージが変わりますし、将来が読めない部分もあります。
 働く場所や働き方がこんなに多様になるとはコロナ禍の前は誰も想像できなかった。それと同様です。
安田 あるいは「自分は何にエンゲージするのか?」と自問自答するのも良いですね。
 それこそランチを食べるのも忘れてしまうほどに熱中したり、盛り上がったりした仕事は何か。
 僕はサラリーマンを33年間やっていましたが、毎朝のように休みたくなったものです(笑)。ただ、稀に「早く起きて会社へ行きたい!」と思う機会がありました。
 「業界では誰もやっていないプロジェクト」や「プロとして絶対に箔がつくディール」を前にすると、僕はエンゲージが非常に高まった。
 個々人により違いますが、仕事を通じて自分のエンゲージメントが高まるトリガーは何か、理解しておくとキャリア形成の軸の一つになります。
吉澤 また転職先候補の面接担当者が人事のプロとして、そういった質問を投げかけてくれることもあるので、内省の機会になりますよね。
安田 転職のチャレンジほど良い成長機会はない、と思います。会話から得られる定性的な評価、転職市場からの合否の連絡も、自身の糧になるフィードバックです。
 思い通りの企業に転職ができなかったならば今の会社で足りない部分を磨けばいい。今までにない刺激を得るための活動という意味でも、価値ある一歩です。

良い転職エージェントの探し方

──ミドルエイジ人材は自分にマッチする転職エージェントをどう選べばいいのでしょうか。
吉澤 実は、現在は転職エージェントが非常に増えており、私の観測範囲でも月に150〜200社ほど創業されています。
 免許取得のハードルが低く、在庫不要のマッチングビジネスであり、500万の資本金だけで開業できることが背景です。
 一方、転職志望者や企業が活用するツールも増え、マッチングの精度が低くなっている実情があります。
──マイナビスカウティングはどのような工夫をしていますか。
吉澤 転職志望者と企業や転職エージェントの質の高いマッチングの機会をいかに作れるかを考え、三つ特長を持たせています。
 一つは情報提供の質の担保です。
 ユーザーアンケートを行った結果、スカウトメールがたくさん届けば喜ばれるわけではないとわかりました。月10件を超えると煩わしく感じられ読まれなくなる傾向にあります。
 マイナビスカウティングでは、企業から転職志望者に送付可能なメールの総数は250件。転職エージェントは150件。業界内でも少ない数です。つまり情報提供の機会を絞ることで質を担保しています。
 二つ目は転職志望者と、転職エージェントの担当者。つまりコンサルタントとの「マッチング率」を指標化し、確認できる機能の実装です。
 それぞれが入力された経歴や情報をもとに、いくつかの項目を掛け合わせて点数を出力する仕組みを通じて、マッチングの質を可視化しています。
 さらに、マッチング率の高いコンサルタントからのスカウトだけを、LINEの通知で受取れるなど工夫しています。
「マイナビスカウティング」のスカウト通知設定画面。コンサルタントとのマッチング率に応じて、LINEで通知を受け取るかを自身で設定できる。
 また三つ目はコンサルタントの質の向上です。コンサルタントによって業種や役職、希望職種など相談を受ける得意領域が異なります。
 様々なタイプのコンサルタントとの出会いの機会を創出するため、全て事前審査を行い、参画いただいています。
 この転職エージェントの社員なら全て参画可能とするのではなく、コンサルタント一人ひとり実績の審査を行っています。
 マイナビスカウティング立ち上げ時には、弊社の他サービスに参画いただいている転職エージェントの数の半分以下に抑えました。
 今後、経験や能力を重視する傾向が強まる中で、転職市場に必要になってくるのは、幅広い世代の志望者に対応し、質の良いマッチングを実現すること。
 これがマイナビスカウティングを立ち上げた経緯ですので、こだわり続けるつもりです。

転職の「孤独さ」をカバーする存在と進む

──今後、ミドルエイジ人材の人材流動性を高めるためには何が必要だと考えていますか。
吉澤 20代で初回の転職を経験した方は、転職エージェントを活用する機会がなかったことも多いと思いますが、30代以降ならば有用性も高いはずです。
 特に質の良いコンサルタントはロングタームで転職志望者の状況を把握し、企業の最新動向を知っています。
 こうしたコンサルタントとのマッチング率を高め、人生のキャリアパートナーとする手伝いができれば、ミドルエイジ人材の人材流動性も高まるのではないでしょうか。
安田 僕は、転職の捉え方のアップデートも重要だと思います。転職は「最初の就職がうまくいかなかったから、転職でやり直して、次なる終の棲家を見つける」といった話ではない。
 これからのキャリアは、おぼろげな自分のビジョンに合わせて、パズルに足りないピースを埋めながら完成させていく、という営みです。
 転職回数もその度に増えていく前提で考えた方が、成功確率も高いはず。
吉澤 その伴走者になれるようサービスを磨いていこうとお話を聞き、気持ちが高まりました。
 従来の転職サイトやサービスは、ユーザー自身が仕事を検索していましたが、今後はよりパーソナライズされた機能が追求されるはずです。
 私たちも、個々の条件や関心に合う仕事が提案されるシステムを目指します。
 ただ転職活動に関するアンケートを取ると「孤独さ」を覚えたという感想が多いんです。
 効率化だけで良いキャリアが生まれるかは疑問です。実際に会って対話する存在がいることで、キャリアの可能性が広がることもある。
 また一時的にもしうまく転職できなかったと思ったとしても、あの時の経験があったから次のキャリアが見つけられたと一緒に振り返ることもできる。
 転職の「孤独さ」をカバーし、転職エージェントを寄り添う存在にしていく。「マイナビスカウティング」はそんな転職を提供できるプラットフォームでありたいと考えています。