2023/11/17

【保存版】2023年のスタートアップ・エコシステム「イシューリスト」

日本のスタートアップ・エコシステムは、この10年で確かに成長してきた。しかし、諸外国との差は広がるばかり。なぜか。
そんな問いを巡りながら、日本ならではの希望と勝ち筋を探る、NewsPicks主催のカンファレンス『START UP EVERYTIME』が開催された。
 このカンファレンスの基軸となった、「〝スタエコ〟の論点──日本のスタートアップ・エコシステムの論点」のプレイベントのダイジェストをお届けする。

参考資料「スタエブのコンセプトマップβ」

 なお『START UP EVERYTIME』を俯瞰するコンセプトマップ@FigJam(オンラインホワイトボード)で、本企画「スタエコの論点」の具体と抽象を一挙に把握しよう。
INDEX
  • 参考資料「スタエブのコンセプトマップβ」
  • 「挑戦」が尊重される文化を
  • 「スタートアップ」の定義が異なる
  • 「実家が太い日本」から、どう抜け出すか?
  • 世界と戦うための「基準」が揃っていない
  • スタエコの論点「未来実装編」へのバトン

「挑戦」が尊重される文化を

オープニングセッションでは、「スタエコの基礎知識」と題して経営学者 芦澤美智子氏が講演した。日本のスタートアップ・エコシステムの解像度を高めるために土台となるリテラシーについて、その定義とポイントをまずは簡単におさえておこう。
芦澤 なぜシリコンバレーから、世界的なスタートアップが連続的に生まれるのか。どうすれば自国も急成長スタートアップを生み出し、経済を活性化させることができるのか。
そんな問題意識から、学者たちはスタートアップ・エコシステムの研究に取り組んできた。
「エコシステムの定義については、起業家教育で有名な米国のバブソン大学で研究に取り組むスピーゲル先生の説明が、共通認識として学術的には浸透するようになりました」(芦澤氏)
スタートアップ・エコシステム=“ある地域に集積した要素が、相互補完的に、「急成長スタートアップ」を、継続的に生み出す仕組み”
ポイントは、あらゆる要素(場所やプレーヤー)が、「相互補完的」であるということ。単純な起業ではなく、「急成長スタートアップ」であること。急成長スタートアップを「継続的」に生み出す仕組みであること。
「スタートアップ・エコシステムを支える要素は、大きく3つの階層に分けることができます。『文化的』『社会的』『物質的』階層、の多様な要素が、相互補完的に連携することがエコシステムの理想の状態になります」(芦澤氏)
 ここで特に注目してほしいのが、起業を支援する文化やコミュニティを指す「文化的」の領域が土台になっていることだ。
「特定の地域や国が経済的に成長するには、健全なスタートアップ・エコシステムの形成が不可欠です。そのためにはチャレンジを応援するカルチャーをはじめ起業家を支える文化やコミュニティ、挑戦の歴史が土台としてとても重要になります。
 全員が起業家になる必要はありませんが、ぜひ何かに挑戦する人を尊重することで、スタエコの文化づくりをともにできたら嬉しく思います」(芦澤氏)
プロローグ:スタエコの基礎知識
動画アーカイブで詳細を知りたい方はこちら

「スタートアップ」の定義が異なる

日本のスタートアップ・エコシステムを取り巻く論点を整理しつつ、イシュー(課題)を探索した。3人の視点から特に注目したい論点として以下3つを紹介する。

#キーワード
「入り口と出口」「EXIT」「起業教育」「SaaS」「お金の質」「言語」「市場の歪み」「バリュエーション」「ファンドサイズ」「スモールIPO」「外貨」「投資家の役割」「マクロとミクロの狭間」など
アニマルスピリッツ 代表パートナー 朝倉 祐介
論点:スタートアップに投じられる資金の性質は適切か?
利益を得ることを目的とした“経済合理的”な金融投資家であれば、イグジットしたときのリターンを考えてスタートアップを評価する。しかし、「戦略性」を重視する事業会社等の場合、既存事業とのシナジーや共創など、金銭的リターンとは異なる目的で投資するケースが相応にある。こうした経済合理性を度外視した投資は、ときにスタートアップのバリュエーション(企業価値評価)やマーケットを歪める原因になりかねない。個別には合理的にも思える行動ではあるが、こういった性質の資金が多くを占めると、エコシステム全体としては不健全な状態に陥る。
東京大学 FoundX ディレクター 馬田 隆明
論点:「スタートアップ」の定義が人や場面によって異なる
スタートアップという言葉が広まるにつれて、スタートアップの意味が広義になっている場面が増えてきている。その結果、同じ「スタートアップ」という言葉を使っていても、目指しているものが実は異なっているのでは、と感じることもある。これが続くと政策(エコシステム形成)などがブレる可能性もあると思う。もし一般的な起業や開業ではなく、急成長を志向する起業という意味合いを強調する場合には、「ハイグローススタートアップ」などと言葉をより細かく使い分けたほうが議論は揃えやすい。
リアルテックホールディングス 代表取締役 永田 暁彦
論点:外貨を稼げるビジネスか?
日本のGDPを支えているのは、大企業であるのは紛れもない事実。SaaSモデルは日本語で日本で展開すること自体は合理的だが、世界70億人を狙うことは難しいケースが多い。リアルをデジタルに置き換えるビジネスは世界で同時多発的にも生まれており、海外進出してもすでに競合が数多く存在している状態だからだ。外貨を稼げるビジネスかどうかで、今後の規模や成長も大きく変わる。非言語で70億人を狙える研究開発型のディープテックやコンテンツ・IP産業は可能性が大きい。

「実家が太い日本」から、どう抜け出すか?

さまざまな視点からの意見が飛び交った本セッションだが、3人の共通見解として「デカコーンを生み出すには、海外に出るしかない」ということでは大筋合致していた。では、3人が「第2部 対グローバル編」でぜひ議論してほしいと考えるイシューとは何か? イシューのバトンを紹介する。
アニマルスピリッツ 代表パートナー 朝倉 祐介
イシューのバトン:海外との接続方法やあるべき姿とは?
マクロに見れば、グローバルに進出するスタートアップが現れた方がいいというのは、3人とも共通した見解だった。では主観的で非合理的な動機や熱意などアニマルスピリッツを持った起業家が、海外とつながるためには? その方法論やあるべき姿とは? これまでも海外VCとの橋渡しなどさまざまなアイデアや議論はあるが、グローバル視点からぜひ議論してほしい。
東京大学 FoundX ディレクター 馬田 隆明
イシューのバトン:世界に出るために、解決すべきグローバルな課題とは何か?
「グローバル」が今後10年は大きなトピックになると改めて感じた時間だった。もしその方向性になるとすれば、日本のスタートアップはグローバルで共通の課題を、スケールする方法で解決する必要がある。可能性のある一つの領域は、クライメートテック(気候テック)だと考えているが、グローバルなスタートアップを生み出すために、解決すべきグローバルな課題とは何かぜひ考えを聞いてみたい。
リアルテックホールディングス 代表取締役 永田 暁彦
イシューのバトン:「実家が太い日本」から、どう抜け出すか?(世界へ進出するためのアントレプレナー精神や動き方)
なぜ日本人は世界に出たがらないのか。それは、海外と比べて「実家が太い子ども」状態だからではないか。つまり、これまでの数十年で稼いだ資産で食べている状態。でも今から30年後の日本を考えれば、海外でお金を稼ぐプレーヤーが当然の世界にしないと、資産を喰いつぶす逃げ切り世代になる。シンガポールなどは最初からグローバルを目指すのが当たり前だが、ぜひそうした視点から世界で戦う起業家精神や動き方を聞きたい。
プロローグ:第1部 日本のスタエコ編
動画アーカイブで詳細を知りたい詳しく聞きたい方はこちら

世界と戦うための「基準」が揃っていない

日本のスタートアップ・エコシステムを取り巻く論点を整理しつつ、海外との相対化を通じて、日本の固有のイシューを探索した。3人の視点から特に注目したい論点として以下3つを紹介する。

#キーワード
「基準」「サイエンティスト」「ガラパゴス」「税制」「オピニオンリーダー」「市場選択」「チーム」「英語」「海外人材」「起業のインセンティブ」「情報の非対称性」「産業集積」など
慶應義塾大学ビジネススクール 准教授 芦澤美智子
論点:世界と戦うための「基準」が揃っていない
グローバルを目指すうえで、まず世界標準の「基準」を揃える必要がある。会計基準やスタートアップの企業価値評価、投資契約など、日本の環境に過剰最適化し、ガラパゴス化してしまったあらゆる基準を整えることが必要ではないか。そのうえで日本のユニーク性を自覚し、注力テーマや専門に特化した形で規制を後押しするなどのサポートが大切になると考える。
リブライトパートナーズ 代表パートナー 蛯原 健
論点:グローバル経営人材の獲得・育成
日本のスタエコの課題は大きく2つ。1つ目が、日本国内のマクロ金融経済の状況をより向上させること。2つ目に、グローバル市場の獲得。グローバル市場を獲得する上ではグローバル経営人材の不足が大きな課題。一から教育して育成するのは時間がかかるので、「輸入」と「輸出」によって人材を獲得及び循環させることが重要になる。
Collective Souls Founder & Managing Director 松田 弘貴
論点:「グローバル/海外」を一括りに語りすぎる
たとえば欧米と比較して、日本を悲観しがちな印象がある。どの国でも完璧なエコシステムはない。イギリスのEU離脱やフランスの移民問題など、各国難しい問題を抱えている。また同じヨーロッパでも言語や商慣習も各々異なる。グローバルと一言で思考停止せずに、各々の国と日本の共通項や違いを探索する議論も必要ではないか。

スタエコの論点「未来実装編」へのバトン

START UP EVERYTIME』では、本セッションで抽出されたイシューや論点をもとに、日本のスタートアップ・エコシステムが進むべき道を徹底議論する。

では当日のセッション「〝スタエコ〟の論点 未来実装編」でぜひ議論してほしいと考えるイシューとは何か? 3人のイシューのバトンを紹介する。
慶應義塾大学ビジネススクール 准教授 芦澤美智子
イシューのバトン:どの産業でグローバルに挑戦するのか?
スタートアップ産業がステージを1つうえに上げるためにも、具体的にどの産業でグローバルに挑むのかは重要な観点になる。またそのためにも、それぞれのプレーヤーがどんな役割を担うのか。国づくりという意味でも、特に政府機関の観点からぜひお聞きしてみたいです。
リブライトパートナーズ 代表パートナー 蛯原 健
イシューのバトン:日本に「産業集積」を生み出す方法とは?
日本にメガスタートアップを輩出するため、またグローバル経営人材を諸外国から引き寄せるためには、国内に次の数十年の世界経済を担うレベルの新産業、巨大産業の集積地をつくることが有効である。通常の経済活動はあくまで民のものであるが「国内産業集積地」の議論についてはパブリックセクターの役割もあるだろう、その観点をお聞きしたい。
Collective Souls Founder & Managing Director 松田 弘貴
イシューのバトン:合理的な基準や仕組みづくりを阻む要因とは何か?
日本と世界で異なるさまざまな仕組みがあるなかで、合理的に考えればグローバルに合わせた方が良い基準がある。ではそれができない理由や変化を阻む要因とは何か。逆に海外と比べ日本ができていることとは何か。またそれがなぜできているのか。各々のプレーヤーの視点から議論してほしい。
本記事の「〝スタエコ〟の論点 メタ認知編──日本のスタートアップ・エコシステムの論点をアップデートする」の全編は、こちらの動画をチェック
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