2023/10/14

【ミニ教養】ハマスの「真の狙い」を理解する

森川 潤

NewsPicks NY支局長

このコラムは、世界のビジネス、テクノロジーのコンテキストを学びつつ、ついでに英単語も一つ覚えられるお得な連載です。

INDEX

• 世界最大のユダヤ人コミュニティ
• ハマスの「原典」を読み解く
• イスラエルの「破壊」
• 「平和的解決」はない
• ハマスは優しくなった?

世界最大のユダヤ人コミュニティ

ハマスによるイスラエルへの攻撃から、ちょうど1週間が経つ。

今僕が住んでいるニューヨークは、まず（イスラエル国外では）世界最大のユダヤ人コミュニティがあって、日常の至るところで彼らの生活と接しているし、移民都市としてパレスチナを支持するコミュニティもあって、毎日のように抗議活動が起きていて、その緊張感を少し身近に感じる。

Columbia university now, despite all restrictions, hundreds showed up in solidarity with Palestine pic.twitter.com/K3lGF8TqwH

— Amany Khalifa (@Amanykhalefa) October 12, 2023

我が家でも、少年が当初英語をしゃべらなかった同士で4年間苦楽をともにした親友がイスラエル出身で、ちょうどこの夏にテルアビブに帰国したばかりだったので、彼らの気持ちを考えるとさらに痛ましい気持ちになる。

国内の世論を眺めていると、政治的な分断や脊髄反射的な反応が浮き彫りになりながらも、一応のところは（パレスチナ全体ではなく）ハマスのテロ攻撃を非難するという大きな方向性は共有されている。

その一方で、イスラエルの軍事作戦が本格化するなかで、一般のパレスチナ市民への人道的影響を懸念する声は日に日に高まっている。

The NYPD remains on "high alert" as the war between Israel and Hamas escalates and a large, pro-Palestinian demonstration is planned in Times Square for later today.

Pro-Israel demonstrators are expected to show up for counter-protests.https://t.co/rdiShQOQcd

— Gothamist (@Gothamist) October 13, 2023

結果として、どこかで抗議活動の衝突が起きることになる。

とはいえ、それなりにこの地域のことをカバーしてきたことはあるとはいえ、自分は国際政治や軍事の記者ではないし、毎日進展していく状況をすべて追える立場にあるわけでもないので、本日のコラムでは一つのことにフォーカスしたい。

それは「ハマス」の狙いは何なのか？ ということだ。

ハマスの「原典」を読み解く

この数週間、このコラムでは世界で起きている事象を、「元データ」をたどって、分析／ビジュアル化することにフォーカスしてきた。

実は、ハマスにも元データともいえる「原典」がある。

コメント

注目のコメント

• 塩崎 悠輝

  静岡県立大学国際関係学部 准教授

  ・2023年10月14日

  ムスリム同胞団系のハマースに限らず、イスラーム政治運動というのは、イスラームに基づく国家をつくるのが目標です。
  　アル＝カーイダに連なるターリバーンもそうだし、その名の通りのイスラーム国もそうです。
  　それは、イスラームというのは、預言者ムハンマドが行った通りのしたことをするのが人間として正しいことであると教えているからで、ムハンマドという人は、アッラーから伝えられた教えを説くとともに、武装した信徒たちを率いてアラビア半島を統一して、国家を打ち立てた人だからです。
  
  ハマースが、イスラエルを倒してそこにイスラームに基づく国家を建てたい、というのは、特にユダヤ教が問題であるということではなく、何であれ異教徒の侵略者であり、もともとムスリムが支配していた土地を奪ってユダヤ教徒の国をつくったからです。
  　イスラームの教義上、異教徒に領土を明け渡すということはありえないので、取りもどす以外の選択肢はありません。
  　取りもどしたら、そこにイスラームに基づく国家をつくる、というのは、ハマースのようなイスラーム政治運動であれば、当然の目標です。
  
  ただ、イスラエルが強大化するにしたがって、この目標はどんどん現実的ではないように見えてきました。
  　1988年ころは、ハマースはムスリム同胞団の一翼でしたが、エジプトのムスリム同胞団本体が、アラブの春で一時的に選挙で政権を取ったものの、その後エジプト軍のクー・デタで壊滅してしまいました。
  　現在のハマースは、イランの支援で成り立っている、イランの手駒です。
  
  イランもまた、イスラームに基づく国家として1979年のイスラーム革命で成立した国ですが、国是としては、ムハンマドとその後継者たちがやったように、イスラームに基づく国家を拡大していくことになっています。
  　ただし、そういう革命当初の理念を本気で実現したがっているのは革命防衛隊などの政権中枢だけで、大多数の国民は生活がよくなる方が関心事ですが。
  　イランは、まず自国第一、次いでイラク、シリア、レバノン、イエメンといった、すでに影響下に置いている国を維持することが優先で、ハマースはそのための手駒として使われています。
  　ハマース自身がイスラーム国家をつくるのは、イランとしては、できればいいですが、それよりも、イスラエルをかく乱してイランを攻める余裕を無くすための手駒に使っています。
• 川端 隆史

  ジョーシス株式会社 シニアエコノミスト

  ・2023年10月14日

  ハマス憲章をメディアが取り上げることには意義があります。この手の原典にメディアで立ち返る記事は、あまりみることがありません。また、日本語翻訳が紹介されており、訳者の鈴木さんはパレスチナ研究者。今、フォローすべき研究者の一人。
• 森川 潤

  NewsPicks NY支局長

  ・2023年10月14日

  日々痛ましさが増すイスラエス・ハマスの戦争。ハマスの「真の狙い」は一体何なのか？その「原典」を読み解いてみました。