2023/9/30

【密着2年】イーロン・マスクの「素顔」に最も近づいた男

つい先日、世界中で待望されていた新刊が発売された。あのイーロン・マスクの伝記である。
マスクの人生を取り上げた本はこれまでにも何冊か出ているが、本人の公認のもと、2年にも及ぶ密着取材を経て完成した本書は、間違いなく決定版といえる。
しかも著者が、ベストセラー『スティーブ・ジョブズ』などを手掛けた当代随一の評伝作家、ウォルター・アイザックソンとあってはなおさらだ。
(Ying Tang/NurPhoto via Getty Images)
今回は「今週の1冊」の番外編として、NewYorkTimesの人気ポッドキャスト「Hard Fork」でのアイザックソンのロングインタビューを、独自翻訳でお届けする。
「イーロン・マスクの世界」にどっぷり2年間漬かった体験とはどのようなものだったのか──。
(聞き手はNYTのテック記者であり番組のパーソナリティでもあるケビン・ルースと、ジャーナリストのケイシー・ニュートン)
INDEX
  • そばにいるだけで血圧が上がる男
  • ジョブズをも上回る「気分屋」
  • サバイバル合宿でケンカを学ぶ
  • ひとつのことだけに「超集中」
  • 「子煩悩」な一面も
  • 不可能を可能にする「悪魔モード」

そばにいるだけで血圧が上がる男

──あなたはこれまで、そうそうたる人物の評伝を手がけてきました。アインシュタイン、ダ・ヴィンチ、スティーブ・ジョブズ、CRISPRの発見に貢献したジェニファー・ダウドナ……他にもっといたかもしれません。
存命中の人もそうでない人も含めて、あなたならこの地球上の誰の伝記だって書けるはず。なぜ、今回イーロン・マスクの本を書こうと思ったのですか? その結果、あなたの血圧はどのように変化しましたか?
ウォルター・アイザックソン(以下W.I) まず2つ目の質問に答えると、血圧を下げるクスリを飲まなければならないと思う(笑)
私が2年前にこのプロジェクトに着手したとき、イーロン・マスクはテスラを史上最も価値のある自動車メーカーへと成長させた人物だった。彼は私たちを電気自動車の時代へと導いた。さらに、再使用が可能な垂直離着陸型のロケットを打ち上げた。
なんと偉大な技術者だろう、彼の創造性の秘密を覗くことができれば面白いに違いない……私はそう考えた。
(Todd Anderson/The New York Times)
ところが1年後、彼はひそかにツイッターの株を買っていた。あのころから、ますます破天荒になっていったんだと思う。
マスクは毎週毎週、私をそばにいさせてくれた。その間、彼の気分はころころ変わった。とても気まぐれなんだ。
私は普段は穏やかな男なんだけど、おかげで血圧が上がってしまってね。何度も深呼吸しなくてはならなかった。