2023/10/1

【イーロン・マスク】「心理的危険性」がもたらしたパワー

今年、最注目の新刊である、評伝『イーロン・マスク』(文藝春秋)
著者のウォルター・アイザックソンが、マスクに密着取材を敢行した2年間について語り尽くすインタビューの後編では、いまの世界において並ぶ者のない「権力者」になったマスクの葛藤と、彼の持つ「破壊力」の真相に迫る。
(聞き手はNewYorkTimes紙のテック記者であり、ポッドキャスト「Hard Fork」のパーソナリティでもあるケビン・ルースと、ジャーナリストのケイシー・ニュートン)
INDEX
  • 戦争にスターリンクは「使わせない」
  • 人情の機微より「物理学」重視
  • 「心理的安全性」への反発
  • 「爆発」のリスクを取る

戦争にスターリンクは「使わせない」

──ハイテク企業の経営者をはじめ、短期間で大きな権力を手にした人たちを見ていると、何度も繰り返し目にするテーマがあります。
それは、彼らが手にした権力の大きさをひどく持て余すようになるということです。例えばマーク・ザッカーバーグがそうです。
イーロン・マスクは、いまや世界で最も権力を持つ人物のひとりです。富はもちろんのこと、スターリンク衛星や民間宇宙旅行まで掌握しているからです。
あなたから見て、彼はこれほどの権力を実際に求めているのでしょうか?
ウォルター・アイザックソン(以下W.I) マスクは自らの権力と格闘していると言えるだろう。
ときどき彼が、本屋の片隅でスーパーヒーローのコミックを読みながら、パンツ一丁で世界を救う自分を夢想するような子どもに見えることがある。
彼が実際に口にしたこともあった──スターリンクをつくったときは、人々がくつろいで映画を見たり、ビデオゲームをしたりするためのもので、戦争をするためのものではなかった、と。