【実録】社員が止められなかった「疑惑のがん検査」
- 再現できない論文
- 検査に「上手い」「下手」がある
- 「目隠ししたらボールに当たらない」
- 自動検査装置、試運転の深刻な状況
- 進言した社員が受けた仕打ち
- 「私は科学者ですよ」
- 都合の悪いデータを削除
- 「法の抜け穴」豪語
- セラノス事件との酷似
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疑いを晴らすために必要なことは、NewsPicksとこの企業の間の"討論"ではなく、外部の医療機関・研究施設が同じ検査方法を、ブラインド条件下で行い、この線虫検査の感度・特異度を測定し、結果を公表することだと思います。
この記事にあるような線虫検査に関する不正の疑いに関しては、一部の医師が2021年11月の時点から声をあげていました。前回の記事では、3つのクリニックで、N-NOSEで陽性と出た375人をPET検査を含む検査をしたところ、がんと診断されたのはたったの8人(2.1%)、さらに、宮崎鶴田記念クリニックでがん患者10人にN-NOSEを行ったところ全員が低リスクという結果だった、と書かれており、この第二回の記事と合わせて考えると元々の学術論文の結果の再現性は怪しく、何かしらの操作が行われた可能性は考えられます。
セラノスと比較されていますが、セラノスは学術論文を発表しないことで批判されていました。もし仮にこの記事にあるように、学術論文の段階で何かしらの不正が行われていたとしたら、より厄介な問題であると感じます。陽性と判定された多くの人は不安を感じたでしょうし、(第1回の記事にあるようなPET検査等)不必要な医療資源が投入されてきたことを考えると、この問題は疑惑が晴れるまで検証していただきたいと感じます。
本記事ではブラインド検査を創業者が嫌がっていると書いていた。
新規薬剤の認可でも、薬剤効果を確認する二重盲検試験(ダブルブラインドテスト)では、よほど毒性の強い薬剤でない限り、投与される人間も投与する人間も、本物の薬と偽薬が判別出来ない状態で投与される臨床試験が組まれることが多い。
投与する人間の態度で、投与される側も本物か偽薬か分かってしまうため、効果の差が出るからです(プラセボ効果)。
実際偽薬に勝てない新規薬剤はごまんとあります。それほどプラセボ効果は強力です。
それと同じ構図で、がん患者の尿かどうかが事前に分かってしまうと、操作者の印象、解釈が偏ってしまうのは当然でしょう。
むしろ創業者はそれを分かっていて、うまく利用してきたかのように感じますね。
ちなみに当方の運営しているYouTubeがん防災チャンネルでは、第1回記事の動画解説「線虫検査の本当のがん診断率が暴露された!【専門医解説】医事問題シリーズ」を公開しています。
ここではなぜ会社公表の感度特異度が実地診療と乖離しているか、腫瘍マーカーでの類似事例を挙げて解説しました。
このような問題のある(益以上に実害をもたらす可能性の高い)医療行為が実際に行われ続けるまでには、記事で取り上げられている「社員が止められなかった」企業構造のみならず、何重にも間違いを防ぐことのできなかった問題点が指摘できるはずです。
今回取り上げられている線虫がん検査も米国のセラノスの件もそうですが、これは間違いなく盛んなヘルステック業界において氷山の一角であり、同様の問題は複数の企業に散在しているはずです。このような衝撃的なスクープを目にすると、個人や一企業の体制の責任に話が帰結しがちですが、それでは同じことがまた別の場所で繰り返されるだけです。
社会としてどのように再発を防ぐのかを明らかにする上で、問題の上流で何が起こっているのかを一つずつ明らかにしていく作業は、社会の未来を守る上で重要です(本記事もその一端を担うものになると思います)。そうした際に、ついつい個人への批判目線になりがちですが、このような記事を読むにあたっては、「ひと」ではなく「こと」を対象に批判的に解釈する視点が大切です。そのような視点を忘れないように記事を読んでいただくことで、より生産的な議論につながるのではないでしょうか。
特集1回目の記事では、線虫がん検査の実態に焦点を当てました。本日の2回目の記事のテーマは、「サイコロを振るような」検査がなぜ世に出てしまったのか。元社員に取材を重ねていくうちに、まさに「日本版セラノス」と言えるような、HIROTSU社の驚くべき内情が浮かび上がりました。
それにしても、世界初のがん検査を開発するという夢を抱いて入社した方々の感じたであろう失望を思うと胸が痛みます。記事に登場していない方を含め、取材に協力してくださった皆様に心から感謝します。
【追記】HIROTSUバイオサイエンス執行役員の水島俊介さんがコメントされていますが、その中で触れられている私の経歴に誤りがあります。依頼を頂き「週刊文春」の書評欄に何度か寄稿したことはありますが、ライターだったことはありません。なお、「再現性の論文」については明日以降の記事で解説する予定です。
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