2023/8/16

【新哲学】時代に疲弊せず、長く繁栄する「商い」をする方法

NewsPicks NY支局長

疲弊しない、心地よい商い

これまで培った「ビジネスの常識」を揺さぶられる経験だった。
京都、河原町六条に居を構える「開化堂」。明治8年の創業から、ずっと「茶筒」を作り続けてきた小さな工房だ。
その6代目の八木隆裕さんは、存亡の危機に瀕していた開化堂に自ら参画し、今や文字通り世界中で推されるブランドへと押し上げた。
開化堂の茶筒「ひとりでにふたの閉まる、使っていて気持ちのいい、保存性も高い容器」として評価される
これだけ聞くと、「時代遅れになった老舗を抜本的に改革したコンサル出身後継ぎ」みたいなイメージを思い浮かべるかもしれない。
だが、八木さんがやったことはほぼ真逆だ。
一言で言えば「時代の変化を後追いして疲弊するのではなく、長く、相変わらずに商いを続けること」ということだ。
実際、開化堂の「商いの哲学」は、すべて逆説的だ。
成長(グロース)、効率化、マーケティング、ジョブ型雇用──など、近年いくつも生まれてきたバズワードの強迫をしなやかに乗り越える心地よさが、開化堂の商いにはある(大事なことだけど、八木さんはそういう資本主義の理は否定していない)。
今や、スターバックスのCEOが、八木さんの話を聞きに京都を訪れるほど。
「これからの時代、世界中で有名だけれど、小さな会社というスタイルの方が長く生存できる」
と提案する八木さんに、開化堂の商いを通じて、時代に疲弊せずに長く繁栄するビジネスの秘訣を余すところなく聞いた。
INDEX
  • 疲弊しない、心地よい商い
  • 今は「言語化」を重視しすぎ
  • 「作る上限」を決める
  • 働く仲間は家族。だから20人まで
  • ファンではなく、推し、共犯者
  • GAFAを目指さず、忍び込め

今は「言語化」を重視しすぎ

「家訓はありません。あるとしたら、この茶筒です」
取材の冒頭、八木さんはこう話した。明治時代から引き継いできた、ひとりでに閉まる茶筒の「開けたり、閉めたりする感覚」こそが家訓だというのだ。
この話、トンチみたいだが、実はとても奥深い。
僕らは、手から手へつむいできた感覚があるなと感じています。

茶筒作りは、オヤジ(先代の八木聖二さん)から『見て覚えろ』だった。だから、言葉化されていないんです。

もちろん伝えるという意味では、言葉化は必要なのですが、でも今はChatGPTが登場して、あれも全部言語化がフリーになっているんだと感じています
八木さんが開化堂に入ったのは2000年のこと。
その3年前、聖二さんの代で、大口の顧客から注文を打ち切られ、売り上げの3分の1が消えてしまい、店をたたむことを考えていた。「サラリーマンしといた方がいい」。父の言葉を受け、八木さんも一度は伝統工芸品など、免税品を販売する会社に入った。
だが、その免税店で開化堂の商品を取り扱ったときに気付く。