再生電力最先端のヨーロッパも頭を抱える
欧州に大規模停電リスク。皆既日食が映し出す、太陽光発電の問題点
2015/3/13
Weekly Briefingでは毎日、ビジネス・経済、メディア・コンテンツ、ワークスタイル、デザイン、スポーツ、中国・アジアなど分野別に、この1週間の注目ニュースをピックアップ。Weekly Briefing(ワールド編)では、世界で話題になっているこの1週間の読むべきニュースを各国のメディアからピックアップします。
今月20日の朝、ヨーロッパは1999年以降最大の皆既日食に遭遇する。周知の通り、皆既日食とは、月が完全に太陽を覆い尽くすことを意味し、この日、ヨーロッパの一部は日光の90%以上が減少、スコットランドやフェロー諸島周辺は午前中にもかかわらず、真っ暗になるという。ヨーロッパにいる人々は、この“天文学的”な景色を楽しむことだろう。
しかし、この日食を楽しんでばかりはいられない。皆既日食により、ヨーロッパの電力インフラは大変な困難に直面する可能性がある。なぜなら、ドイツなどでは、現在、電力の7%を太陽光発電に依存しているからだ。
Pick 1:太陽光発電に依存する送電網に大規模な停電の可能性
From Zeit and the Financial Times.
ドイツやベルギーでは、太陽光発電を行う企業や家庭に莫大な補助金を与えている。だからこそ、ドイツでは、今回の日食が深刻な問題につながるおそれがある。通常、ドイツを含めたヨーロッパの国々では、太陽光パネルから生まれた電気は、直接、送電網に送られる。
欧州電力系統運用者ネットワーク(ENTESO−E)によると、もし20日の朝の天気が晴れだった場合、皆既日食に突入する1時間の間に、電力出力が1万2000メガワット(MW、1200万キロワット)も激減する可能性が高いという。この1万2000メガワットという発電量は、ヨーロッパの中型発電所が同時間内に供出する発電量の80施設分に相当する。また、日照時間の短い冬や雨の日など発電量がもっとも少ない日と比べても、発電量は約3分の1に減るという。
しかも、電力が激減することだけが問題ではない。太陽光発電大国であるドイツは特に、月が太陽とすれ違う瞬間、さらに大きな問題に直面する。日食は月の影から太陽が出てくる瞬間、強烈な太陽光線を放つ。すると、太陽パネルにすさまじい電力が集まり、送電網は突然に約1万9000MWを吸収する必要がある。この強烈な電力パワーを一気に送電網が吸収するのは、当然、負担がかかる。
つまり、皆既日食により、一日の間で電力出力が大きく上下し、電力出力が不安になるのである。従って、停電リスクが発生する。
2月23日、ENTESO-Eは、「停電のリスク管理を徹底する」と発表し、このように注意換気した。
「我々(欧州)の相互接続された(国をまたいだ)世界一の送電網で、未だかつてこれほど大きなイベントを管理した前例はない」
Pick 2:皆既日食による太陽光発電リスクを回避する3つの施策
From Süddeutsche Zeitung.
だからといって、ヨーロッパが空前絶後の停電パニックに襲われるとは考えにくい。
日食は、十分予想可能な自然現象であり、ドイツの研究所は事前にリサーチを行っている。ドイツのメディア「Süddeutsche Zeitung」は、ベルリンにあるHTW Berlin大学のリポートをもとに、「blackout」(停電)を防ぐ3つの施策を挙げた。
一つ目は、「Pumpspeicherkraftwerk」(揚水発電)を活用することだ。ドイツの送電網を運営する会社は、電力需要が少ない夜にも回転する風力タービン(風力原動機)などから得た余剰電力を使って、山の上に水をくみ上げておく。そして、電力需要が大きいときには、その水を一気に落として電力を発生させて発電させる。
二つ目は、電気需要を調節することだ。今回の日食は、企業や家庭の電気需要が高まる時間帯に訪れるので、特に電力を食う工場などに、この時間内に節電するよう促す。そのためにも、電力消費を抑制した企業には補助金を出すという方法だ。
三つ目は、ガス発電所を再始動すること。ドイツには、普段は使用していないガス発電所もある。もっとも、ドイツは多くの天然ガスをロシアに依存する。だが、今週のWorld Briefingでもリポートしたように、ドイツとロシアの現在の関係は必ずしも良好とは言えない。
従って、ドイツをはじめとするヨーロッパにとって、長期的な施策としてガス発電そのものを続けることは好ましくない。そこで、ドイツはフランスなどの隣の国々から電力を輸入するオプションを検討している。
皆既日食はレアな現象だが、このような現象は、再生可能エネルギーに大きく依存することのリスクをも映し出す。
次回のヨーロッパで皆既日食が見られる2026年には、ヨーロッパが太陽光発電に依存する割は現在より3倍近くの5万5000MWにまで増加すると予想されている(ちなみに、2026年の皆既日食は日照が強い真夏の8月なので、光起電の出力は今回より高いと考えられる)。
ドイツのメディア「Zeit」は、ステークホルダーが今回の問題にどのように取り組むのかどうかに、太陽光発電の将来がかかっていると報じている。
Pick 3:「アヒルの曲線」と送電網の“戦争”
From Ozy.
ドイツは、2030年までに、太陽光発電出力を約38ギガワット(3380万キロワット)から66ギガワットに拡大することを目標にしている。だが、太陽光発電出力を拡大すればするほど、大規模停電のリスクは高まる。国民が夕方、一斉に仕事から家に帰ることで、太陽光発電が太陽光を吸収出来ない日没の時間帯に、照明や電化製品の使用で電気需要が一気に増すからだ。
この問題は、the duck curve(アヒルの曲線)と呼ばれる。以下の表を見てほしい。
これは、太陽光による発電量が一日の間で増減することに伴い、太陽光発電以外の電力出力も急激に上下することを示している。なぜなら、太陽光パネルが光をキャッチする量が減ると、送電網はその他の電力で不足分を補う必要があるからだ。
また、太陽光が強い昼も発電力が増すことで、この時間帯の過剰な電力が送電網に流れ、クラッシュしかねないリスクも示している。そして、アヒルの曲線は、太陽光発電出力が拡大すればするほど、曲線の形はボトムがくびれてさらに“アヒル“らしい形になる。つまりボラティリティが高まるのだ。
もっとも、これは太陽光発電の将来性に待ったをかけるほどの致命傷ではない。アメリカの“緑(エコ)”のメディア「Greentech Media」は、このハードルを乗り越えさまざまな施策があると報じた。いわゆる“アヒル曲線”を平らにするアイデアだ。
例えば、電力会社は、夕方の需要ピークの間、太陽光パネルが光をキャッチする効率を上げるため、一部の太陽パネルを西に向かわせる。
「The New York Times」によれば、パネルは現在、南向きに設置される場合が一般的だ。これは太陽パネルの出力を最大にする一方で、アヒルの曲線も悪化させる側面も持つ。さらに、太陽光発電を大型のフライホイールに蓄電したり、揚水発電や大型の電池を活用したりし、エネルギーの蓄積能力を拡大して、日中は太陽光発電を蓄積する。そして、需要がピークに向かう夕方や夜に放出する。そして、イギリスのFinancial Timesは電力需要がピークになる時間帯に、企業に節電や電気消費量を遅らせる施策を促進・拡大すべきだと報じた。
いずれの施策を採用するにせよ、送電網を運営する会社や電力会社は、この問題について、ますます真剣に考えないといけない。今回の皆既日食は、この問題解決の力量を試す良い機会になるに違いない。