2023/7/10

【神話を暴く】最強企業TSMCは「政府製」は真実か

NewsPicks 副編集長
日本政府はどうやら、本気で半導体産業を取り戻したいようだ。
最先端半導体の国産化を目指すRapidus(ラピダス、2022年8月設立)に、経済産業省は合計3300億円の支援を表明している。
ラピダスは民間企業であり、資本金73億円はソニーグループやトヨタ自動車など、国内大手企業8社が出資した。
だが最先端半導体に必須の製造装置(EUV露光装置)が1台約200億円することを考慮すれば、この資本金にほとんど意味はない
もちろん増資は可能だし、ラピダスは上場による資金調達にも意欲を示している。
だがそういった資金調達が可能になるのは、技術とビジネスモデルを確立し、キャッシュを持続的に生む企業だと投資家に信頼されてからのこと。
そこに至るまではほぼ全額、政府支援の丸抱えによって運営される政府プロジェクトなのである。
このラピダスが半導体受託製造の世界最大手、台湾のTSMC(台湾積体電路製造)にならったことは言うまでもない。
TSMCの第16ファブ(Photo:TSMC)
TSMCはハイテクや軍事に不可欠な最先端半導体の製造では、ずば抜けたシェアを持つ。
地政学リスクの高まりを受け、半導体が国家の戦略物資となる中、日本や米国、欧州の政府がTSMCの工場誘致にしのぎを削っている。
時価総額66兆円はこの希少性と、高い収益力への評価に他ならない。
このTSMCを巡って、日本政府とラピダス関係者は以下の神話にとりつかれている。
TSMCは台湾政府が作った国策会社である
この神話が日本政府の巨額支援を後押しするし、ラピダスの経営陣に安心感をもたらす。
だが本当にそうなのだろうか?
TSMCと台湾政府の関係とは、実のところどのようなものだったのか?
国家は政策によって、TSMCのような「最強企業」を作り出すことができるのだろうか?
ほとんど検証されないまま日本に流布する、TSMCと政府の神話の実相を、NewsPicksが追いかけた。

浮上する「トヨタと合弁」案の深層

台湾に出張して1週間ほど過ぎたころ。日本の政財界とも往来のある台湾人が、台湾料理をつつきながら記者にこうささやいた。
TSMCとトヨタ自動車を合弁させたいと、民進党(台湾の政権与党)の議員が言っています
INDEX
  • 浮上する「トヨタと合弁」案の深層
  • 確かに台湾政府が「生んだ」が
  • 「彼がいなければ政府は投資していない」
  • 優れた経営判断は誰が主導したのか
  • 知られざる「ミニ・モリス」たち
  • TSMCは「選ばれなかった企業」だった