2023/5/23

【要注目】意外なところにあった「金のなる木」

こんにちは、NewsPicks地球支局の岡ゆづはと、後藤直義です。
シリコンバレーで勃興する気候テクノロジーの主人公から、ディープテック分野の投資家たち、新しい社会像を描くピニオンリーダーや作家たちまで。
自分たちで見たもの、聞いたものを、テキスト、音声、動画など、あらゆるフォーマットで「地球支局」として配信します。
まずはポッドキャストの新番組『Green Impact ー地球を救う、ヤバいビジネスー』(毎週月曜、木曜配信)をお聞きください。
本記事は、ポッドキャストと連動した新連載です。毎週、もっとも旬なグリーンビジネスをこのコンビでお届けします。

リチウム抽出という「カネのなる木」

カリフォルニアの最貧困地区で、リチウムの「ゴールドラッシュ」が起きている──。
アメリカの大手放送局のCBSが5月上旬、そんな面白いコンテンツを看板番組『60 minutes』で放送した。
カリフォルニア州といえば、巨大テック企業たちが軒を並べるシリコンバレーが有名だ。しかし、今回の主人公は、それとは正反対のエリア。
州南部のもっとも貧しい辺境地であり、失業率も15%を超える土漠地帯。
(写真: Peter Unger / Getty Images)
実はそこにある湖の「塩水」から、電気自動車(EV)のバッテリーに欠かせない、リチウムという金属が、大量に採れるというのだ。
番組には、ここで巨大なリチウム生産工場を建てようという男が登場する。
元テスラの社員であり、リチウムを求めて世界を飛び回った後、エナジーソースという地熱発電の経営幹部になった男だ。
なぜ地熱発電会社なのか。それは、彼らが地中から大量の温水をくみ上げており、その水からリチウムを抽出する仕組みだからだ。
いままでは、地下からくみ上げていた温水(蒸気)を使って、タービンを回して発電するだけだった。水は、そのまま地下に戻していた。
ところが今年、ここに巨大なリチウム抽出プラントを建てて、リチウムを生産する。
「商業化は、2025年から」。そういう同社には、すでにアメリカの大手自動車メーカーが、長期購買契約を結びに来ていると紹介された。

「陰の主人公」に会っていた

実は、わたしたち地球支局が目をつけて取材していた、あるスタートアップがこの騒動の「キープレイヤー」になっている。
その会社が、ライラック・ソリューションズ(本社:オークランド)だ。
創業者CEOのデイビット・スニダッカー氏は、長らくバッテリー業界の「冬の時代」を、生き抜いてきた人物だ。
ライラックのもつコア技術は、塩水などの液体から、リチウムという貴金属だけを効率よく抽出することができる、ビーズの開発だ。
彼らが開発した小さい、白色のビーズを使って、不純物だらけの塩水をろ過すると、リチウムを取り出すことができるという。
ざっくりいうと、日本人の家庭にもよくある、浄水器と同じ原理だという。
ライラック・ソリューション社のウェブサイト(写真:公式HPより掲載)
実は彼らのテクノロジーが、このカリフォルニアの「リチウムバレー」において、実装されようとしているのだ。
「リチウムイオン電池の商業化から30年、はじめてアメリカが野心的な動きを見せた」。
スニダッカー氏は、わたしたちに興奮しながらそう語ってくれた。
米国では昨年、クリーンエネルギーに50兆円を投じるIRA(インフレ抑制法案)が成立して、EVの購入者にも最大で8000ドルほどの税控除が与えられる。
しかし、世界のバッテリー産業のサプライチェーンの大部分を担っている、中国を外すための条件がつけられている。
だからこそアメリカ国内で見つかった、リチウムバレーに沸いているというわけだ。
「米国でバッテリー産業が生まれるという、夢がいまは生まれている。だからこそ、多くの若い人たちを魅了するようになっている」(スニダッカー氏)
(写真: Bloomberg / Getty Images)
プラントを建設するエナジーソース社の幹部は、これから建設するプラントだけで、年間EV50万台分のリチウムが生産できると、番組に語っている。
また埋蔵ポテンシャルでは、世界の年間需要の50%以上をまかなうという。NewsPicksの地球支局も、またレポートしたい現場がひとつ増えたわけだ。

今週注目のグリーンニュース

NTTとJERAが、3000億円で再エネ企業を買収 💨💡
…… NTTと、日本の火力発電最大手のJERAが、グリーンパワーインベストメント社(GPI)を3000億円で買収します。2004年に創業したGPIは、陸上風力発電で国内ナンバーワンで、洋上風力にも注力。再エネ企業の買収で、最大級のディール。
アメリカが、発電所のCO2排出削減計画を発表 ⚡🇺🇸
…… アメリカの環境保護局(EPA)は、アメリカにある3200基の石炭・ガス火力発電所を対象にした、温室効果ガスの削減計画を発表。これから発電所のCO2回収設備の導入や、水素燃料を使うことを求めていきます。
エクアドルが、「ガラパゴス債」を発行 🐳
…… 南米のエクアドルが、海洋保全をするための債権を発行。ガラパゴス債というネーミングで、約6.5億ドル(約900億円)を調達します。発行にあたり、エクアドルは自国の債務を割り引いて買い戻す、世界最大級の自然保護債務スワップを実施しました。
パリ協定の目標「1.5度以下」は、まもなく突破という予想🥵
….. 国連の世界気象機関(WMO)は、2023年からの5年間で、地球の平均気温は1.5度以上も上がる(産業革命以前比)という予想を公表。その確率は66%で、パリ協定の目標をオーバーしそうな現実をつきつけました。
京都の核融合スタートアップ、105億円を調達 💲
…… 世界でもホットな分野になっている核融合ですが、日本発のスタートアップ、京都フュージョニアリングが105億円を調達しました。出資者には関西電力、三菱商事、三井物産の名前もあり、核融合への注目度をさらに高めました。
今週の地球支局からのレターは、ここまでです。
リクエストなどは、ぜひ後藤直義岡ゆづはまでお寄せください。 ポッドキャスト番組(毎週月曜日、木曜日)は、下記から。