2023/5/9

上司は辛いよ!令和のリーダーシップ対談

Freelance Writer / Editor
 働き方や組織のあり方が大きく変化するなかで、従来型のトップダウンスタイルでチームを先導すると部下がついてこない一方、かといって放任主義を貫いてもパフォーマンスは下がらないか不安。そんなジレンマの狭間で思い悩むリーダーも少なくないかもしれません。
 では一体、マネジメントをする上で何を心がけたら良いのか。どのようなチーム作りが理想なのか。トピックスオーナーの南和気さん、荒木博行さんが対談を実施。南さんが人事のプロとして実務的な視点や経験から、荒木さんが概念や内省的な視点から、新しいリーダーシップを模索するヒントをお届けします。
INDEX
  • 相手によってリーダーシップを使い分ける時代
  • 「仕事を教える」のではなく、「信頼関係を築く」
  • 上司は弱さをみせるべき?
  • 理想のリーダーとは

相手によってリーダーシップを使い分ける時代

南和気さん(以下、):荒木さんの名刺には馬のマークが描いてあるんですね。
荒木博行さん(以下、荒木):実は札幌の会社(COAS)と一緒に馬を使った人材育成プログラムの開発をやっています。このプログラムの大事な訴求ポイントは「心身一致」です。例えば、優秀にみられようと虚勢をはったり、弱さを隠して振舞うことがありますよね。馬にはそれが一切通用しないんです。
 馬は「ミラーニューロン」という神経細胞の働きで、目の前にいる存在の内面を敏感に読み取る能力があります。馬と向き合うことで、例えば、自分では相手(馬)に心を許しているつもりなんだけれども、馬がなかなか寄ってこないことから、実は防御反応をしているといったことに気づかされる。馬のリアクションを通じて、自分自身を理解することが、このプログラムの本質なんです。
:それはニーズがあると思います。特に、日本の経営者は、今もマッチョなリーダーシップスタイルの人が多いので、部下からのフィードバックには耳を貸さないでしょう。むしろ馬からのフィードバックの方が、心を開いて素直に受け取れるかもしれないですね。
荒木そうしたマッチョなリーダーシップスタイルは、今後変化を求められるのでしょうか。
:マッチョであることは必ずしも悪いとは思いません。日本企業はこれまで極めて同質性の高い組織でした。社長の号令のもと、皆でたくさん働いて成果を出す。そういうシンプルなマッチョさが通用する組織だったら、全然問題はないと思います。
 でも今は仕事の価値観が多様化しています。皆が出世したいわけじゃないし、ガッツを出して働きたいわけでもない。そういう人たちも含めて、うまく動かして成果を生みだすスキルがリーダーシップです。でも今の多くの経営者は、組織で自分一人だけがマッチョになってしまっている。それでは部下は動かないでしょう。
 動かす対象の人が多様化しているならば、相手に応じてリーダーシップを使い分けないといけません。これは「SL(Situational Leadership)理論」と呼ばれています。海外だと約20年前から導入されていますが、日本ではこの2、3年でようやく取り入れられてきました。
 トピックス「リーダー育成の真実(2) 優れたリーダーは「4つの顔」を持つ」でも取り上げましたが、SL理論では、指示型リーダーシップ、コーチ型リーダーシップ、支援型リーダーシップ、委任型リーダーシップといった、4つのリーダーシップのタイプがあり、これらを相手や状況によって使い分けられる人が優れているとしています。日本はよくロールモデルとしてひとつのスタイルを追い求めがちですが、今の時代それは通用しません。目の前の部下に合わせて、スタイルを使い分けることが大切です。

「仕事を教える」のではなく、「信頼関係を築く」

荒木:僕は大学で1、2年生を教えているんですけど、学生たちは僕が知らないことをたくさん知っています。僕はインタビュースキルやデータベースの検索方法など、ハードスキルとしてのリサーチ方法を教えます。しかし学生たちは柔軟に、アプリ経由でリサーチするスキルを持っていたりする。今ではChatGPTもあるでしょう。テクノロジーが進んでいるから、情報のアクセススキルは一気に逆転してしまうこともある。
:おっしゃる通りですね。これまでのリーダーは、仕事のやり方や手順といったハードスキルを教えていました。でもハードスキルは誰でも使えるようにマニュアル化されていく。テクノロジーを駆使すれば、いくらでも手に入るようになるでしょう。
 では、リーダーの価値とは一体何なのか。仕事のやり方はネットを使って簡単に学べるようになるでしょうが、それを実際に実行できるかどうかは別問題です。部下にうまく経験をさせて、頑張らせて、はやく成長するように導いていくための、日々のコミュニケーションや信頼といったソフトスキルが大事になってきます。本当に強いチームというのは、リーダーが愛されてるチームだと、僕は信念として思っています。メンバーがこのリーダーを信頼してリーダーのために最後のひと頑張りができるか、ということですね。
荒木:面白いですね。『THE CULTURE CODE ―カルチャーコード― 最強チームをつくる方法』という本をご存知ですか? その中で、組織についての面白い実験があります。
 それは、組織の中に1人仕掛け人として怠惰な人を入れるとどれくらいパフォーマンスが落ちるか、という実験でした。結果、仕掛け人の影響は大きく、多くの組織はたった1人の怠け者により、明らかにパフォーマンスが落ちていったのです。しかし、ある一つの組織だけがまったく微動だにしなかった。どれだけ仕掛け人が怠けても、組織のパフォーマンスが落ちなかったのです。なぜか。その組織では、リーダーが些細なコミュニケーションを欠かさなかったんです。目配せ、ボディランゲージ、アイコンタクトを欠かさない。会議中には部下の話にしっかりと相槌を打っている。そういうリーダーがいる組織だけは、なかなか切り崩せなかったそうです。
 リーダーシップ論というと、大きな話に捉えられがちですけど、実は会議室の中から変えることができる。他の人に話を振ってみる、人が話している時は目を見て相槌を打つ。些細なことなんですけど、すごく重要なことなんですね。
:おっしゃる通りだと思います。私もリーダー育成のコーチングをする時に、最初に「部下のいいところを20個書けますか?」と質問するんです。
 少しでもいいから書けたら、それに関して自分が見た事実も書いてもらいます。するとほとんど書けないんですよね。皆、自分が思いたいように思っているだけなんです。つまり、「この子はいい子」だというのは、「いい子だ」と思いたいということ。願望を語っているに過ぎないケースが多いんです。
 そもそも、部下のホンネを知らないし、理解していない。でもそれでは部下が話を聞くわけがないんですよ。改善する方法としては、僕も簡単なことしか言いません。例えば、ミーティングではどんな時でも必ず笑顔でスタートすること。部下が何か意見を出してくれたら、最初に「ありがとう」と言うこと。ミーティングで部下の個人的なことを聞く質問をすること。「朝ご飯は何食べた?」「昨日どんなテレビを見た?」など何でもいい。でもそうした些細なことを1ヶ月続けたら、関係がまったく変わるんです。リーダーシップが人を動かす力である以上、相手を理解しないでどうやって動かすのかと思います。命令すれば動くという時代ではないんですね。

上司は弱さをみせるべき?

:一方で部下の立場で考えた時に、部下が上司のことをよく知らないケースもあります。リーダーとして、どれだけ苦労したり、悩んだりしているのか。ホンネが見えにくいリーダーはいますよね。そうした弱さは、「バルネラビリティ」と言われます。ただそれを語るのが得意な人と不得意な人がいるんですよ。
 得意な人ならば、自分の弱さを話すことで、部下と打ち解けてホンネも聞きやすくなるでしょう。一方、マッチョなタイプはあまり得意じゃないんですね。かっこよくスマートに見られたいという欲望が強いので、弱さを見せると尊敬されなくなるかもしれないという恐れを抱いているんです。
 僕はそういう人に対しては、無理に弱さを見せる必要はないと言います。無理をするとそれすらとりつくろっているような変な感じになってしまいます。
 部下のほうも、弱さを見せられると頼りないなと思ってしまう人もいるんです。だから本当に相手や状況次第でしょうね。ただ、相手が困っているときや弱っているときこそ、リーダーの方から弱さを開示したほうが良い場合が多いです。荒木さんは弱さを見せること、裏を返すと完璧さとリーダーシップについてどのように考えますか?
荒木:僕はかつてめちゃくちゃ優秀な人の下で働いたことがありました。優秀だから学べることは多くあり尊敬していましたが、一緒にいて、劣等感しか感じませんでした。ある時気がついたのは、この組織に自分はいなくても大丈夫だなと。その人が完璧そうだから、僕の役割はないと思ってしまったのです。
 今思えば、本当はそのリーダーにも欠点や苦しさがあったはず。もしそこを認められていれば、僕も居場所を見出せていたかもしれません。たとえば、この人はすごい人なんだけど、数字感覚がないから、自分がサポートしないとなど。デコボコがあるからこその、凹みのところに自分がはまることによって、組織が機能する。それを自分のストーリーとして感じられたら、お互いにとって幸せになると常々感じています。
:部下が育つという意味でも、トップが高圧的で「私がすべて正しい」と押し通すような関係より、リーダーと部下が互いに支えあう組織の方が強さが持続しますよね。
 俺が正しい、最高だ、完璧だと考えているリーダーがいる、もしくは周りからそう思われてしまっているのは、終わりの始まりだと思っています。組織の能力がリーダー個人の能力の限界値を超えないので、会社全体としてはリスクが高いんですよ。
 それよりも、何が正しいかを組織全体で作っていける人が強いです。経営判断をはじめ、難しい決断をすることはリーダーの大事な仕事ですが、決断する時点では未来は見えないので、その決断が本当に正しいのかは誰にもわからない。しかしそこで「みんなでこの決断を正しくしたい」と言えるリーダーは強い。するとチームのみんなで互いを補いながら、リーダーの決断を正しくしようという方向に頑張ることができるんですね。
荒木:僕はいろんなスタートアップに関わっているんですけど、そこでの僕の一つの役割は、経営者を神格化させないこと。だから時としていじるようなこともあります。「すごい人」として見られることで本人が気軽に話しづらくなってしまっていることもある。そこを崩してあげるなど、第三者がちゃんと設計してあげることは重要だと感じています。
 コミュニケーションが予定調和にならない切り崩し方はいろいろあります。例えば、これはこの前教えてもらったことなのですが、自己紹介の時などに、「3歳のときにしていた名もなき小さな遊びを教えてください」という質問をすると、すごく場の雰囲気が和むし、その人の本質が見えてくる。そういうことを互いに話すときの表情や語り方というのは、他者の目から解放されていて今の自分が何者であるかを意識していないんですね。普段見せていない側面は、実はその人の人間的魅力であふれている。だから第三者がいかに良い質問をするかが大事になってきます。

理想のリーダーとは 

荒木:「理想のリーダーは誰ですか」とよくきかれますが、答えづらいんです。僕が悩む理由は明白で、ミスリードになってしまうからです。この前、大学の授業に深井龍之介さんをゲストで呼んだときにも、学生から「尊敬する歴史上の人物は誰ですか」という質問をされていました。その時の彼の答えは、「歴史上の人物はあまり注目していない。歴史を考える上でより重要なことは構造である」でした。「織田信長がすごい」と考えるのではなく、彼が活躍した構造を捉えないと理解することはできない。信長と同じスタイルがいつの時代でも通用するわけではありませんから。
 僕もどちらかというと、構造に着目したいんですよね。その人が誰かというよりは、なぜその人が光り輝いたのかが大事だと思います。トピックス「Vol.25 変革が進まないのは「あのバカな役員のせい」なのか?」でも書きましたが、「属人主義」と「構造主義」という物の捉え方があります。私たちはつい「属人」の方に目がいきがちで「あの人はすごい!」と思ってしまうんだけど、その人は永遠にすごいわけじゃなくて、ある会社のある環境において、たまたま活躍しているということなんです。その裏側にある構造をちゃんと理解することに価値がある。
:僕もよく「理想のリーダーは誰か」と聞かれますが、完璧なリーダーは存在しないと答えます。相手によって状況によって、適切なリーダーシップは変わる。完璧なリーダーはそれを全部使い分けられるリーダーであると。だからロールモデルは存在しないんですよ。僕も色々な人の色々な部分を尊敬しているんですが、人というよりは場面をたくさん記憶していて、それを引き出しているということですね。
 どんなリーダーであれ、一つ言えるのは、最終的にはリーダーは部下に愛されていないといけないでしょう。そしてリーダーも部下を愛していないとダメ。どんなリーダーでもいいと思いますが、そこができていないと、そもそもリーダーとして存在していけないのではないかと思っています。 
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