2023/4/25

【新世代】ドローン革命に挑む26歳「成長は居場所で決まる」

NewsPicks コミュニティチーム
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コメントを通じて「新しい視点」を提供するプロピッカーは、自らの持つ専門知識をどう身に付けてきたのか。

オリジナルなキャリアを築くプロピッカーたちの「学びのプロセス」をひも解きながら、ユニークな知恵を仕事人生に生かすヒントを探る。
1社目はドイツ企業。2社目は米国ドローンメーカー初のユニコーン(時価総額が10億ドル以上の未上場スタートアップ)となったSkydioの日本法人。
新卒から世界を股にかけて奮闘する日本人、それが4月にプロピッカーに就任した中新健太さんだ。
ドローンという新産業の拡大に向けて、官公庁などとルールづくりを進める中新さんは、日本の閉塞感を払拭する若者代表の1人と言える。
「普通の学生だった」と語る中新さんは、どうやって産業発展の一翼を担うまでになったのか。その経緯から、未来を切り開くキャリアのつくり方を探っていこう。
INDEX
  • “Japan as No.1”という幻想
  • キャリアはレバレッジで考える
  • 環境をフル活用して成長する
  • 空を自由に飛びたいな

“Japan as No.1”という幻想

── 一貫してドローン産業に携わってきたのは、何か理由が?
それで言うと、完全なるミーハー心ですね(笑)。
就職前は、産業用ドローンの関連サービス・ソフトウエア開発を手掛けるテラドローンでインターンをしていたので、もちろん関心はありましたが、そもそもミーハー心で選んだ業界です。
インターンをする際は、3つの基準で企業を選びました。
  1. 最先端の技術を扱っていること
  2. 海外進出に本腰を入れていること
  3. カルチャーマッチ
この3つの基準を満たしていた企業が、偶然見つけたテラドローンで、ドローン産業でなければいけない理由はなかったんです。
── その3つの基準は、どうやって決めたのですか?
簡単に自己紹介をすると、私はもともと、東京理科大学で建築を専攻していた学生です。
専攻を生かすなら、例えばゼネコンのような企業で働くのが一般的で、私もそうしたキャリアを歩むつもりでいました。
ただ、ミャンマーで海外インターンを経験したことがきっかけで、建築業界で働くキャリアを考え直しました。
「僕の働きたい場所はここではない」と確信する機会があったのです。
ミャンマーでインターンをしていた当時の中新さん(本人提供)
当時ミャンマーは、日本による円借款などにより経済が急成長していて、街や経済特区には新しい建物、工場が次々に建設されている時期でした。
日本企業が国全体の発展を盛り上げていると想像していて、大学1年生になるまで海外に行ったこともなかった私はそれを間近で見たかったのです。
しかし、実際はそれ以上に中華系企業が躍進しており、想像していた以上に日本企業のプレゼンスが失われつつあると感じました。
そこで見た光景は、「世界に影響を与えられる仕事がしたい」「世界をつくっていく新しい産業をつくりたい」という私の職業観を浮き彫りにしました。
ミャンマーの都市部でよく見かける中国式の寺院(AP / アフロ)
そのために必要なのは、例えばミャンマーで建設・インフラ開発をリードしていた日本以外の企業で働くことなのかもしれないし、もしくはまだ小さくとも未来を大きく変えるスタートアップなのかもしれないと考え、キャリアに対する意識をリセットしたのです。
── そのタイミングで生まれたのが、企業選びの「3つの基準」だったのですね。
ちなみにテラドローンでインターンをするきっかけになったのは、当時のNewsPicksに掲載されていた徳重徹さん(テラドローン代表取締役)のインタビュー記事(編集注:同社の求人記事)です。
最先端の技術を扱っていて、海外進出に本気だった。話を聞いてみたら、パッションが合うと感じられ、ここから私のキャリアが本格的にスタートしました。
(※テラドローンの詳細は下の記事参照)

キャリアはレバレッジで考える

── テラドローンでのインターンを経て、現在に至るまでに、どのようなキャリアを歩んできたのでしょうか?
就職活動でも「3つの基準」を意識していたので、ファーストキャリアはドローン関連の企業以外も選択肢として考えていました。
また、本気で海外進出を目指しているスタートアップは日本にそれほどないようにも思えたので、そういう企業は選択肢から外していました。
すると、条件を満たす企業の多くは海外のスタートアップになるのですが、経験のない学生に期待をしてくれる企業は少なく、就職活動にはそこそこ苦戦した記憶があります。
新卒入社したドイツのスタートアップに拾ってもらえたのは偶然で、大使館で通訳のバイトをしていた時に、たまたまCEOと話す機会があったからです。
「テラドローンでインターンをしていたんです」という話になり、「じゃあうちで働いてみなよ」と。
ビジネスをかじった程度の学生が、スタートアップで活躍できるだろうかという不安はありましたが、それでも入社を決意したのは「言語化できない期待感」があったからです。
「世界をつくっていく新しい産業をつくりたい」という職業観を満たす仕事ができると思いましたし、リスクを負って挑戦した人間は、たとえ失敗してもどこかで評価してもらえるだろうという希望もありました。
結論、レバレッジの利くキャリアになるイメージが、確かにあったんです。
── 実際に働いてみて、どのようなことを感じましたか?
小さな企業は個人のパフォーマンスがダイレクトに会社の成長に影響するものですが、私の貢献は微々たるものでした。
その意味で、求められる以上の成果を出せたかでいえば、個人的には物足りなかったと思います。
転職を決めたのは、そうした経緯があったからです。もっと地盤が整った環境で、個人の力を身に付ける必要性を感じ、現在働いているSkydioに移りました。

環境をフル活用して成長する

── Skydioでは、どのような業務を担当しているのですか?
日本法人の規制・官公庁の渉外担当として、航空法や電波法といった規制・関連法に対する対応や、官公庁全般に自社のソリューションを周知、提案する役割を担っています。
現在の法規制では、ユーザーがドローンを飛ばすには一定程度の規制理解や解釈が必要になります。
そこで、便利かつ安全なドローンを開発しながら、産業をさらに促進できるよう、機体メーカー視点から官民さまざまな組織に働きかけていくのが私の役割です。
最近のビジネスシーンで言うところの「ルールメイキング」に必要な業務全般となります。
多くのドローンは、航空領域の中で「低空域」と呼ばれるところを飛ぶのですが、旅客機などが行き交う高い空域と違うルールが適用されます。
国をまたいで共通のルールが必要となるエアラインとも異なるため、本社のある米国と日本、さらには各国のルールを理解することも求められる。
なので、私としては「新しい物理レイヤーを開発している」ような感覚です。
(iStock / TuiPhotoengineer)
── 官公庁でやりとりをするのは、具体的にどこなのですか?
メインは国土交通省の航空局です。
ただ、自社製品の提案を行う先は、各地のインフラを管理する国交省の地方整備局であったり、消防庁、警察庁なども提案先となります。
── そういう相手とやりとりするには、高度な専門性が問われるのでは?
おっしゃる通りで、私の上司たちは、いわゆる航空業界・ルールメイキングに関する“ガチガチ”のバックグラウンドを持つ経験豊富な方々です。
有人航空機メーカー出身であったり、イェール・ロー・スクールを卒業後に米国司法省に勤めていた者であったり......。
そんなチームの中では、私は言わば「門外漢」です。私のような若者が戦っていくには、やはり学ぶことに愚直でなければいけません。
分からないことを分からないと正直に言えること、また、門外漢だからこその視点で新しいルールづくりに貢献すること。
私はこの2つを強く意識しています。
簡単な仕事は1つもありませんが、このやり方で自分なりのキャリアをつくり始めることができているので、「新卒で海外のスタートアップ」という言葉のイメージほどハードルは高くないのではないかとも感じています。
海外に飛び出したことで語学力を身に付けられましたし、何よりもスタートアップで働いたことで場数を踏めました。
場数というのは、「手触りのあるビジネスの場数」です。会社の看板を借りながらではありますが、成長産業に身を置いたことで、それを利用しながら自分の成長速度を早められました。
(iStock / Nuthawut Somsuk)

空を自由に飛びたいな

── ここまでのキャリアで「もっとこうしておけば」ということはありましたか?
難しいですが、前提として後悔はしていません。
大学を卒業して建築業界で働く選択肢もありましたが、少なくとも私は、スタートアップで働くのと同じ年数では、現在のような責任ある仕事を任せてもらえなかったと思います。
小さな会社で、かつ成長産業で働いたからこそ、打席に立てる回数が多かったのは間違いありません。
また、新しいものを世の中にどんどん生み出していくという過程そのものが、本当に楽しかった。
ミャンマーで目にした「ビルがどんどんできていく景色」よろしく、これまでになかったプロダクトが世に生み出され、それが世界を変えていく光景を見てこられたのは、「世界をつくっていく新しい産業をつくりたい」という職業観にもマッチしていました。
夜のミャンマー、ヤンゴンの眺め(iStock / Khin Nan Zin)
── 今後は、どのようなキャリアをつくっていこうと?
短期的には、国会議員の政策秘書の資格取得に興味を持っています。
外交・内政・経済・安全保障など多岐にわたるルールメイキング・企画力に関する総合力が求められる資格で、現在の業務にも関連するからです。
無論、政策秘書になりたいわけではなく、直近で目指しているのはドローン産業のさらなる発展に貢献することです。
ライト兄弟が初めて動力飛行機を開発したように、「あったらいいな」を夢想して、それを実現してきたのが人類の歴史です。
『ドラえもん』の歌詞ではないですが、ドローン産業が発展すれば、「空を自由に飛びたいな」の世界観だってつくれるはず。そう考えると、これほどエキサイティングな仕事はないと思っています。
ちなみに今、ルールメイキングの仕事に携わる身としては、日本全体が「良いモノをつくれば買ってくれる」というマインドから、「製品の市場競争力はあって当たり前、その上でルール形成を制する者が有利となる」というマインドに変わっていく必要があるとも思っています。
そうしないと、私が学生時代ミャンマーで見た光景しかり、今以上に中国など勢いのある国の後塵を拝してしまいます。
ドローンは、国の安全保障問題にも関係する重要な産業です。だからこそ、微力ながら日本の国力向上にも貢献できればと考えています。
答え合わせはまだ先ですが、今の仕事が「世界をつくっていく新しい産業をつくりたい」という私の職業観を実現するものだと信じて、明日からも身の丈に合わない仕事に挑戦していきます。