2023/4/11

【新金脈】アメリカで見た、未来の電池がすごい

こんにちは、NewsPicks地球支局の岡ゆづはと、後藤直義です。
シリコンバレーで勃興する気候スタートアップの起業家から、気鋭の投資家、新しい社会像を描くオピニオンリーダーや作家たちまで。
自分たちで見たもの、聞いたものを「地球支局」として配信します。
ぜひ、私たちのポッドキャストの新番組『Green Impact ー地球を救う、ヤバいビジネスー』(毎週月曜、木曜配信)をお聞きください。
本記事は、ポッドキャストと連動した新連載です。毎週、もっとも旬なグリーンビジネスをこのコンビでお届けします。

今週のトピック:不思議な「電池」に会ってきた!

今週ご紹介するのは、米カリフォルニアで出会った不思議な電池スタートアップ、Antora(アントラ)です。
皆さん、「電池」と聞くと何を思い浮かべますか。スマホやEVでおなじみのリチウムイオン電池を想起する方も多いでしょう。
でもこのアントラという会社が作る電池はもっと原始的。大きな炭素のブロックをアツアツに熱して、その熱エネルギーを貯めるという仕組みなのです。
(写真:Antora Energy提供)
そして電気が欲しいときは、高熱にした炭素ブロックから熱を取り出して、それによって発電をします。
その最先端の工場ラインに、私たちは取材で入ることが許されました。現場の映像は、このNewsPicksの動画でも見ていただけます。
現場で触らせてもらったのですが、まるで鉛筆の芯のように、手が真っ黒になってしまいました。
アントラがエネルギー貯蔵に利用する炭素ブロック(写真:Naoyoshi Goto)
「リチウムイオン電池があるのに、なぜそんな変わったものを作るの?」
そう思われるかもしれません。実はリチウムイオン電池には、2つの大きな弱点があります。
ひとつは、リチウム、コバルト、ニッケルなどの希少金属を使っており、コストが高いということ。特にリチウムはここ1年で価格が10倍に跳ね上がり、大問題になりました。
直近は、少しだけ価格が落ち着いていますが、それでも“奪い合い”は続くことが予想されています。
貴金属高騰がネックになるリチウムイオン電池(写真:Naoyoshi Goto)
もうひとつは、長期間のエネルギー貯蔵に適していないこと。リチウムイオン電池の場合、充電した電気を貯めておけるのは4時間程度と言われています。
なぜ長期間のエネルギー貯蔵が必要かというと、太陽光や風力といった再生可能エネルギーは、時間帯や季節によって発電量が変動するためです。
これから再生可能エネルギーを普及させていくには、日中と夜間、季節ごとの発電量の差を埋めないといけません。
12時間以上、24時間以上、ひいては100時間以上と、長期間エネルギーを貯蔵できるシステムがセットで必要です。
(写真: Sean Gallup / Getty Images)
そこで、長時間にわたってエネルギーを貯められるLDES(long duration energy storage)のビジネスがいま、大きな盛り上がりを見せています。
ぜひ「エルデス」と、覚えてみてください。
冒頭に紹介したアントラは、LDESに挑むスタートアップのひとつ。あらゆるアプローチを吟味した上で、炭素ブロックを熱する手法に落ち着いたそうです。
COO兼共同創業者のジャスティン・ブリッグスは、炭素ブロックというコモディティを使うことで、格安のソリューションにすると説明しました。
一方で、貯めた熱を、電気にあらためて変換するコアデバイス(TPV半導体)の性能は、世界トップであることが勝負の鍵といいます。
(写真:Naoyoshi Goto)
「つまらない、格安のコモディティと、たったひとつのイノベーションの組み合わせこそ、スケールするビジネスになる」と、同社に投資をしている人物は語ります。
LDESには他にも、バベルの塔ばりにブロックを高く積み上げて、それを落とすときに生じる重力エネルギーを利用する会社もあります。
他方、空気を圧縮してその圧力を使うスタートアップもあり、世界中で多様なソリューションが生まれています。
どのソリューションが勝つかはまだ未知数です。
気候テックの調査会社のCTVCによれば、直近5年(2018年-2023年)にて創業したLDESスタートアップは、グローバルで累計51社。投資額も、同期間で累計23億ドル(約3000億円)に積み上がっています。
私たちが知らない、新しい電池ビジネスが、いまたくさん生まれているわけです。

今週注目の「グリーンニュース」

1. 悪質な「カーボン・クレジット」を駆逐せよ👮
温室効果ガスの削減効果をクレジット(排出権)として取引するカーボン・クレジット。しかし質の悪いものが混じっていると問題に。ここに対処すべく、3月末に業界団体が「良いカーボン・クレジット」の基準を示す新ガイドラインを発表しました。
2. リチウム調達に苦しむヨーロッパ🔋
電気自動車(EV)化を推し進めるヨーロッパで、電池の主要原料であるリチウムの調達が問題に。「ヨーロッパには質の高い資源が十分にない」として、EV電池向けリチウムの生産で世界最大手の米アルベマールは欧州の採掘プロジェクトを断念しました。
3. イギリスの気候変動対策が公開に
約50兆円という、アメリカ史上最大規模の額の気候変動対策のインフレ抑制法(IRA)を追うように、イギリス政府も気候変動対策プランを公表しました。合計200億ポンド(約3兆円)規模の投資は、アメリカに見劣りがするとの声が出ています。
4. 気候テック投資が減速💰⤵
ベンチャーキャピタルによる、気候変動分野のスタートアップへの投資額が、2023年に入って大きく落ち込んでいます。2021年のピーク時は、3カ月で130億ドル(約1.5兆円)を突破していたのですが、直近ではその半分以下となっています。
5. ツイッターで、気候変動の偽情報が急増中🐦
「気候変動には科学的な根拠がない」と思わせるような誤情報がツイッター上で急増しています。2022年にイーロン・マスクがツイッターを買収後、その度合いが悪化しており、その数は3倍にもなったと報じられています。
今週の地球支局からのレターは、ここまでです。
リアルタイムでの配信や、メッセージなどのやりとりは、ぜひ後藤直義岡ゆづはまでお寄せください。 ポッドキャスト番組(毎週月曜日、木曜日)は、下記から。