2023/4/4

【大問題】「日本の温泉」は、脱炭素の敵なのか

こんにちは、NewsPicks地球支局の岡ゆづはと、後藤直義です。
2023年4月、私たちはNewsPicksのジャーナリストでありながら、地球規模のグリーンビジネスを調査する、早稲田大学の招聘研究員(Researching Fellow)になりました。
シリコンバレーで勃興する気候テクノロジーの主人公から、ディープテック分野の投資家たち、新しい社会像を描くピニオンリーダーや作家たちまで。
自分たちで見たもの、聞いたものを、テキスト、音声、動画など、あらゆるフォーマットで「地球支局」として配信します。
本記事は、ポッドキャストと連動した新連載です。毎週、もっとも旬なグリーンビジネスをこのコンビでお届けします。
グーグルなどが投資する、注目の木材リサイクルロボットベンチャー「アーバンマシン」に突撃する、岡ゆづは記者(写真:Naoyoshi Goto / 米国カリフォルニア州)

温泉宿は、脱炭素の「敵」なのか

日本が誇る人気コンテンツ、それが温泉です。あなたにも、お気に入りの温泉はあるでしょうか。
全国には合計2万以上の温泉施設(宿泊施設 + 公衆浴場)があり、これは日本最大のコンビニチェーン、セブンイレブンの店舗数(2万1353店舗)にほぼ並びます。
つまり全国津々浦々、あっちにもこっちにも、数だけみればコンビニレベルで温泉があるわけです。
ところが、この愛すべき温泉こそが、脱炭素の「大問題」になっている。そんなレポートを、米ニューヨーク・タイムズが報じています。
ざっくり要点を言えば、日本は地熱大国であり、クリーンで、安価な地熱発電をするポテンシャルがある。
しかし、そこには開発に反対する「温泉宿」たちが、立ちはだかっている──。
そこでポッドキャスト番組『Green Impact ー地球を救う、ヤバいビジネスー』(第3回)では、この温泉オーナーたちと地熱発電について、語り合った内容などをお届けします。
温泉が湧いたのは、いまから1300年前の平安時代──。
福島県にある温泉旅館『大丸あすなろ荘』。人里離れた“秘湯スポット”のひとつだが、オーナーの佐藤好億さんには、もうひとつの顔がある。
それが、日本温泉協会の「地熱対策顧問」だ。
温泉ビジネスのコアである“源泉”を、地熱発電の開発プロジェクトから守るために、さまざまな活動をしているリーダーなのだ。
大丸あすなろ荘のオーナーの佐藤さん(写真:日本秘湯を守る会公式HPより掲載)
自らの温泉には、温泉の湯質などをリアルタイムでモニタリングする設備を設置しており、そうしたデータを研究機関などに共有。その他の温泉への導入も進める。
佐藤さんの口からは、日本の脱炭素について複雑な気持ちが漏れ出る。
日本では脱炭素のため、地熱発電を引き上げたい。そうすると、私たちの温泉が影響を受けるんです。そうしたことを防止するために、温泉の源泉のデータをチェックしているんです。
経産省は温泉の世界(地下500〜600メートルの層)と、地熱の世界(地下2000メートル以上の層)を、切り分けたい。でも地熱発電を始めてから、源泉の温度が下がった話も出始めています。
一般的に地熱発電と温泉は、お互いのリソースに影響しない。アクセスする層がまったく異なるからだ。
しかし、地中の仕組みがすべて解明されていないのも事実で、一部の温泉地(草津温泉、別府温泉)などでは、地熱開発を規制する条例制定などが進んでいる。
(写真: Bohistock / Getty Images)
クリーンな地熱発電が広まらないのは、温泉だけが問題じゃないと語るのが松原さん(環境エネルギー政策研究所・主席研究員)だ。
本質は「ビジョンなき(再生可能)エネルギー政策」にあるという。
そもそも日本は世界第三位の地熱大国といわれながら、歴史を振り返ると、明確なゴールやビジョンのないまま、やってきたという。
グラフを見ればわかる通り、支援をやめた2000年代には、地熱発電のインストールがピタッと止まっている。国の支援が、止まったからだ。
これを松原さんは、失われた10年と呼んでいる。
“地熱は調査から発電まで10年以上かかるので、すぐに拡大できない。なのにいま日本は、夏休みが終わる直前に、あわてて宿題を始めた子どもみたいな状態です”
現在の地熱発電は、日本の総発電量の0.3%にすぎない。2030年までに3倍にするのが公的な目標だが、だれもが達成は厳しいと、口をそろえるのが現実だ。
沼田昭二さんは、緑の看板が目印の「業務スーパー」(神戸物産)の創業者だ。
そんな1兆円企業の創業者が、2016年から情熱を注いでいるのが、実は地熱ビジネスだ。
動きがスローになる国の補助金は受け取らず、小型サイズの地熱発電所を、フランチャイズ方式で広める「ネクストビジネス」に張っている。
2024年には、その第1号となる発電所(熊本県)がついに動き出す。沼田さんを動かすのは、何なのか。
“地熱発電は、24時間安定して稼働できる大きなメリットがある。それに長寿命なんです。これからインフレと円安が進み、日本に燃料が入らなくなったらどうか。孫、ひ孫の世代のため、そうした備えをしたい”
足りないツール、足りない技術があったら、自分でやってしまえばいい。コストを削減するため、掘削機械まで自社開発したほどだ。

今週注目の「グリーンニュース」

1. GE日立などが、小型モジュール原子炉に約520億円を投資
コストが安くて、炭素を出さず、量産化しやすい。そんな期待を集めるSMR(小型モジュール原子炉)という、ミニサイズの原子力発電システムに、大きな投資がなされます。
2. 子どもたちは『酷暑の地球』を生きる🔥
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が第6次報告書の統合版を発表しました。若い世代が直面する「過酷な未来」を描いた、1枚のグラフィックスが話題です。
3. やっぱりガソリン車もOK?🚗
2035年までに、ガソリン車販売を禁じる欧州。しかし、炭素の排出を伴わない合成燃料であれば、ガソリン車を売れる「例外規定」に、EUとドイツが合意しました。
4. 冷や汗ものの「ESG投資」💰🌱
世界最大の資産運用会社、ブラックロックのラリー・フィンクCEOが2023年の「株主へのレター」を公開。しかし過去数年、強調していたESG(環境、サステナビリティ、ガバナンス)の3文字は、保守派による政治問題化によって消滅しました。
5. 飲料水に含まれる「怖いやつら」🚰
アメリカの環境保護庁(EPA)が、飲料水に含まれる化学物質PFAS(通称:フォーエバーケミカル)の規制強化を発表。レインコートの撥水加工や、化粧品のパッケージにも使われますが、ガンや免疫疾患など悪影響が大きいと懸念されています。
今週の地球支局からのレターは、ここまでです。
リアルタイムでの配信や、メッセージなどのやりとりは、ぜひ後藤直義岡ゆづはまでお寄せください。 ポッドキャスト番組(毎週月曜日、木曜日)は、下記から。