2023/3/26

【教えて編集部】ネット社会を一変させる「光無線」の未来は?

NewsPicks コミュニティチーム
電気消費量が劇的に減るから環境に優しく、しかもこれまでより断然速い。
インターネットの常識を覆す「光」を使った無線通信が、今年3月に商用化され話題になっています。
今回の【#教えて編集部】では、次世代の通信技術として日本で生まれた「IOWN(アイオン)」の普及構想について深掘り解説していきます。
(※コメント欄で読者の質問を募る「#教えて」シリーズの詳細はこちら
INDEX
  • 💡「未来の通信」普及の鍵は?
  • 🌍 IOWN構想、世界に広まる?
  • 📳 スマホでも使えるようになる?
  • 次回「#教えて」シリーズは4/2予定

💡「未来の通信」普及の鍵は?

取り上げるのは、3月7日に掲載したオリジナル記事【独占】スマホ充電が年1回?「日本発」次世代技術の正体に寄せられた質問です。

インターネットの普及で高まり続ける電力負荷や、まだまだ改善途上と言える通信の遅延問題......。これらを解消する一手として、NTTらが研究開発を進めているのが「IOWN」です。

この普及構想を取材した畑仁優鋭(はたに・うたい)が、IOWNが広まるために必要なポイントを考察します。
現在のインターネットは、電気信号を光信号に変換することでデータの送受信をしています。
それが、最初から最後まで光のまま信号を送れるようになれば、より高速かつ省電力な通信網を築くことができる──。
改めてIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想を説明すると、このようなイノベーションとなります。
私は2年半前に初めてIOWN構想を知り、何度か取材をしてきましたが、これまで「既存のインターネット網で十分なのでは?」と思っていました。
しかし、今回の商用サービス化で、IOWNがゲームチェンジを起こす未来がはっきりと見えたように感じています。
例えば今年2月、IOWN技術の実証実験として行われた合唱コンサートは、東京、神奈川、千葉、大阪での遠隔にもかかわらず、ズレがなく本当に違和感のない演奏でした。
下の公式動画では、合唱に参加した方々の声も紹介しているので、興味のある方は見てみてください。
この次世代通信基盤を、IOWN構想を推進するNTTは2030年代までに実用化したいと述べています。
その過程でさらなる進化と普及が求められるのが、「光電融合」と呼ばれる技術です。
今回はこの技術に焦点を当てながら、将来展望を深掘りしていきます。

🌍 IOWN構想、世界に広まる?

ご質問ありがとうございます。世界の動向を説明する前に、日本における光電融合技術の現在地を見ていきましょう。
まず光電融合の特徴をまとめると、下のようになります(※ご質問いただいた記事からの再掲なので、詳しくは元記事をご参照ください)。
ポイントは「チップ=半導体に光を導入する」という部分で、これを実現する技術をシリコンフォトニクスと呼びます。
「NTT技術ジャーナル(2020年8月号)」には、この技術を使った光送受信モジュールの開発について、次のように書いてあります。
シリコンチップ上に小型の光送信回路や、光と電気の変換機能を実現する光受信回路を集積し、これを電気の増幅器等のアナログ電子回路とコパッケージすることで、光電融合型の光送受信モジュールとなります。

(中略)このような光電融合技術は、光ネットワーク内の光インタフェース部分を大幅に小型化し、ネットワークの経済化や伝送システムの小型化に寄与できます。

──「シリコンフォトニクス技術による光電融合型光送受信モジュールの開発」より
平たく言うと、こうして作られる高度な半導体チップの研究開発が、IOWN構想のベースになるわけです。
NTTは、このシリコンフォトニクス分野で世界の先頭を走ってきました。
そして同社は2020年1月、ソニー、インテルと「IOWN Global Forum」という業界団体も立ち上げています。
IOWN Global Forumの公式Webサイト。メンバーリストはこちら
参画企業には、KDDIやトヨタ自動車といった国内企業だけでなく、マイクロソフト、ノキア、シスコシステムズ、サムスン、中華電信といった海外企業も名を連ねています。
ほかに、関連技術の研究を行う大学とも連携しながら、IOWN構想の実現に向けた包括的なアーキテクチャの議論を進めているそうです。
ここで、成田さんのご質問に戻りましょう。世界で似たようなプロジェクトがあるのかどうかについて、NTTは次のように説明しています。
NTT広報:光電融合やシリコンフォトニクスに関する研究は、世界でも国家プロジェクトの中で産学連携で研究されています。

米国では「DARPA PIPES」、欧州では「Horizon 2020」などが挙げられます。
DARPAとは米国の国防高等研究計画局で、2020年3月にインテルなどと新しい光電融合技術の開発に取り組む研究チームを立ち上げたと発表しています。
関連する通信技術の研究開発についても、OIF(光インターネットワーキングフォーラム)という国際標準化団体において、さまざまな企業が先端的な光技術の普及に向けたプロトタイプ化を進めています。
つまり、世界的な競争がすでに始まっているのです。
ただ、NTTはこれらの動きをキャッチアップしながら、「標準化における連携も進めている」(同社広報)そうです。
少なくとも現時点では、IOWN構想が日本だけに閉じた取り組みにならないように動いていると言えそうです。

📳 スマホでも使えるようになる?

ご質問ありがとうございます。光無線通信には光の波長による違いがあり、大きく
  1. 可視光を用いた通信
  2. 赤外線を用いた通信
に分類できます。
スマホのようなデバイス向けの光無線通信を実現するのを考えると、可視光を用いた通信で、Wi-Fiのような利用形態を目指す「Li-Fi(Light Fidelity / ライファイ)」などがあります。
Li-Fiとは、下図のような形でインターネットに接続する技術です。
ご質問いただいた「現在地」について、今は普及に向けてIEEE802.11bbという無線通信規格の標準化が進んでいるところだそうです。
海外の展示会などでは、昨年あたりからLi-Fi対応製品を出展する企業も出始めています(参照記事は以下)。
ただ、Li-Fiはこれまでの無線通信で問題だった電波干渉がないという利点がある一方、Li-Fi対応の照明機器や、専用の受信機が必要になります。
照明環境の整備には、小さくない設備投資費がかかるでしょう。
写真はエストニアのスタートアップが2010年代に研究開発をしていたLi-Fi対応照明(ロイター / アフロ)
なので個人的には、一般生活への普及当初は
  • Wi-Fiの利用が制限される施設(病院の病室など)でのネット利用
  • 屋内で行うライブやイベントの遠隔同時開催
  • VR・メタバース上でのマルチプレイ(大人数が同時アクセスして行うゲームや催し事)
など、利用シーンがある程度限られるのではないかと見ています。
ともあれ、超低遅延・超省電力という強みは絶大で、照明環境の整備という課題にもイノベーティブな解決策が出てくるかもしれません。引き続き注目していきたい領域です。

次回「#教えて」シリーズは4/2予定

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