2023/3/1

【超マクロ解説】賃上げしないと、日本は若者を雇えない

フリーライター
高い賃金を目当てに、海外で「出稼ぎ」する若者が急増している。
これを「若者たちの静かなストライキ」と表現するのが、ベストセラー『世界インフレの謎』の著者である東京大学の渡辺努教授だ。
つまり、日本では「25年にわたって賃金が上がらない」という状態が続いており、インフレを続けてきた各国との間に生まれた賃金差が、若者たちの「海外流出」という形で表出しているのだと。
その間に、日本はむしろ「安い国」となり、労働者で取り負けるどころか、その供給源になりつつある。
「これは日本にとって深刻な問題です。ですが、この若者の海外出稼ぎは日本の停滞した賃金の現状を変えるという意味では大きなインパクトがあります」
NewsPicksでは、そう話す渡辺氏に、出稼ぎ問題と日本の賃金との関係についてマクロ経済の観点から、徹底解説してもらった。
INDEX
  • ①若者が「Exit」を選ぶ理由
  • ②「労働生産性」が低い裏の理由
  • ③賃金差の「アービトラージ」
  • ④「25年」を取り戻すしかない
  • ⑤出稼ぎが与えるインパクト

①若者が「Exit」を選ぶ理由

──日本の若者が海外へ出稼ぎに行く動きを、どう見ていらっしゃいますか。
データを見ると、日本の名目賃金(企業から従業員に支払われる金額)は1990年代の終わりごろから全く変わっていません
それまではきちんと右肩上がりに増えていたのが、97年の山一證券の破綻を機に金融危機が起こると、雇用維持に不安を抱くようになった消費者は生活を切り詰めるようになり、経営者も値上げができないことから守りに入ったため、賃金が凍結されました。
2000年代に景気が回復した後も賃金は動かず、現在に至るまでおよそ25年間にわたって日本の賃金はほぼ同じ水準です。
これに対して、欧米などほとんどの国は、程度の差こそあれ着実に名目賃金が上がっています。こうして、日本と各国の賃金差は徐々に開き、いまとなっては同じ仕事内容でも賃金に3、4倍の開きがあるという職種もあります。