2023/2/17

【サンリオ小巻×ポーラ及川】キャリアと生活のバランスに悩む30代へ伝えたいこと

Newspicks Studios Senior Editor/NewsPicks for WE編集長
女性のキャリア構築はライフステージごとに「仕事以外」のさまざまなハードルがある。
今まさに、ライフとキャリアの狭間で悩みを抱える「forWEメンバー」5名が、ポーラ代表取締役社長・及川美紀氏、サンリオエンターテイメント代表取締役社長・小巻亜矢氏にお悩みを相談。第一線の女性リーダーとして活躍する先輩として、また企業のトップとして、リアルな悩みに回答してもらった。

モヤモヤを抱える30代5人、丸の内に集まり…

「Work is Life」の時期があってもいい

小巻 仕事ってそれくらい魅力的なんですよね。
及川 私はワークライフバランスにそれほどこだわらなくていいと思いますよ。「バランスを取らなきゃ病」で自分を追い込むくらいなら、「私は仕事が好き!」って振り切っても、決して悪いことではないはず。今は、思う存分仕事をしていい時期なんだと思います。
小巻 ワークライフバランスって「50/50じゃないといけない」ようなイメージがありますよね。でも、それは人それぞれでいい。
及川 Work is Lifeのときがあってもいいんじゃないかな。誰しもそういう時がある。それくらい仕事に邁進できるのは、人生の中でも限られた時期だけですし。
その代わり、遊ぶときは思いっきり遊んでください。すっごい仕事をした後、南の島に3日間行くとか。もちろん、パソコンは持っていかないで(笑)。
小巻 そういう時期があるのは、ある意味、すごく幸せなことですよね。
私は学ぶのが好きで、社会人になってからも大学院に通っていたりしたので、そのための時間はなんとか確保していました。「何曜日の何時から何時までは授業がある」と周囲にも伝えておけば、配慮してくれるはずです。
及川 時間のルールをつくって周囲と共有するのは大事だと思います。
例えば夜来たメールにも即レスしていると、「あの人は好きでやっているから」って周りにも思われちゃったりするじゃないですか。私も以前はそうしていたんですが、必ずしも急ぎの用件とは限らないし、即レスすることで相手を追い込むことにもなると気づきました。
それで今は「メールを夜に送ってもらうのは構わないけれど、夜10時以降は自分の時間にするので、返信は翌朝にします」と宣言。どうしても緊急の連絡のときは、LINEに入れてもらうようにしています。
小巻 そういう周囲とのルールがあると、お互いストレスを感じなくて済みますよね。

健康診断は「社長面談だと思って必ず行く」

及川 仕事にすごく充実感があると、自己投資の時間を後回しにしがちですが、そこは「自分が変わるべき課題」かもしれません。
及川 「変わるんだ」って意思を持って挑戦してみると、意外と自分の中に新しいスペースができて、仕事にもいい影響があるはずです。
小巻 リーダーとして多様な働き方を見せることも時には大切ですしね。仕事は大好きだけどやりたいこともやっている姿は、後輩にとってもきっと大きな励みになりますよね。
及川 あと、ヘルスケアが後回し、というのは心配ですね。今は仕事最優先でも全然いいと思いますが、健康管理だけは絶対に必要ですよ。
健康診断もおろそかにしがちとのことですが、それが重要な会議や社長面談なら、絶対休まないですよね。健診はそれくらいの重要案件です。検査室で社長が待っていると思って(笑)、オプションも全部つけて、しっかり検査してもらってください。
小巻 本当にそう。病気になったらワークライフバランスなんて取れないし、大好きな仕事もできなくなりますからね。

手放す必要なし!「チーム育児」で乗り切る

及川 仕事はあきらめたくない、子どもも大好き! すごくわかります。私も、子どもが保育園の頃はまったく同じでした。お迎えに行かなくちゃいけないのに仕事で行けなくて、会社で泣きながら仕事をしていた自分を思い出しました。
小巻 及川さんとも話していたんですが、「何を手放せばいいか」と聞かれたとき、私たちはひとつもあきらめてこなかったね、と。
及川 はい、まさに。
村松さんの今の状況を解決するには「チーム育児」をつくるのがいいと思います。チーム育児といっても夫や親だけじゃなくて、ベビーシッターや家事代行の方も巻き込んでサポーターになってもらうのはどうでしょう。
もちろんその分、支出は増えます。時には「なんのために働いているんだろう」と思うかもしれません。でも長い目で見ると、子育てで使ったお金は、のちのち自分のキャリアにふさわしい年収という形で返ってきます。私なんて、お給料ほぼ全部がシッター代、みたいなときがありました。
小巻 「意味報酬」という言葉があって、お金が残らなくても仕事の充実感や子どもと向き合った時間はちゃんと残りますからね。
だから村松さんも、何も諦める必要はありませんよ。諦めたり手放したりというよりかは、優先順位をときどき入れ替えながら、周囲の力も借りてバランスをとっていく、と考えるのがいいかもしれませんね。

「自分とのアポイント」でひとりの時間を確保

及川 「子どものそばにいないとかわいそう」と感じることもあるかもしれませんが、子どもへの愛情は時間の長さではありません。病気のときや、遠足や運動会など「大事なタイミングだ」と思うときにそばにいてあげたら、愛情はちゃんと伝わります。
いつも頑張りすぎなくてよくて、ここは外したくない、という時にはしっかりやる。普段はコンビニのサンドイッチをお弁当箱に入れていた私ですが、遠足の時は不格好なおにぎりを頑張って握ったりしていました。25歳になるうちの子は、成長してからも「すごく忙しいのに、遠足のときはお弁当つくってくれたよね」と覚えてくれています。
手作りにこだわってストレスがたまるなら、お惣菜を買って子どもと「おいしいね!」って食べるほうが、豊かな時間を過ごせるはず。
あと、子どもに対しては、いつも大変そうにして仕事のグチを言ったりイライラして見せないようにするのは大事かも。「仕事が大変だったけど、今日もがんばったよ」ってギューッとしてあげるほうが、絶対に嬉しいはずだから。
小巻 子どもにとって一番大切なのは、お母さんが元気で笑顔でいてくれること、というのは本当にそう。今は食事の準備や掃除などピンポイントで頼めるシッターや家事代行業者もいます。それらをうまく利用して、自分だけの時間をつくるのも大切です。
育児と仕事で疲れがたまっているとなると、健康状態も心配です。みなさん、忘れてしまいがちですが、健康は仕事や育児よりも優先度が高いものです。
小巻 私自身、過労で倒れた経験があるだけに、そこは強くお伝えしたいですね。どうしても自分が後回しになる時期だと思いますが、健康でないと仕事も頑張れないし、子どもの世話もできません。
ちゃんと健康管理をするためにも有効なのが、「自分とのアポイントメントを取る」こと。スケジュールにあらかじめ自分が休息したりリフレッシュする時間を確保するんです。そこはわがままとは思わずに、1カ月に1回くらいは「自分とのアポ」を意識して取るようにしてみてくださいね。

上司を変えるより味方をつくる

及川 これは難しい問題ですが、パートナーである男性がこういう問題を一緒に考えてくれていることが、まずは素晴らしいなと感動しました。
小巻 本当にそうですね。上司ガチャとおっしゃったけど、上司に恵まれないときにどうすればいいのかというのは、男女問わずある問題です。
意識がアップデートされていない上司をこれから教育するのは、現実的になかなか難しいですよね。
及川 私は上司が変えられないなら、味方のネットワークを社内外につくるしかないと思います。
産休・育休中の人、これからそうなるかもしれない後輩、過去に産休育休を取って大変だった先輩。性別や年齢を問わず、そういう人たちとネットワークをつくっていくんです。仲間が少しずつ増えれば、それがみんなの意見だという流れができるはずです。
小巻 横のつながりがあると本当に心強いですよね。
仲間と「これはおかしい」と話して声を上げることで、未来を少しずつ変えていけるはずです。今すぐ結果を出すのは無理かもしれないですが、それは決してムダではなく次の世代の人たちの力になります。

ひとりが声を上げることで広がる輪

及川 パートナーの方は悔しいと思いますが、退職することはその会社に一石を投じることにもなります。女性はこれまでもそうやって、誰かが上げた声を誰かが受け取ってつなぐことで、少しずつ壁を壊してきました。だからこそ、横だけではなくて縦のつながりも必要です。
ポーラの話を例にあげると、ある社員のTwitterがきっかけで「産育応援プロジェクト」というネットワークが誕生しました。産休・育休中の悩みや、復帰後の家事・育児、キャリア形成などの幅広い話題を共有し、どうしたら働きやすい環境になるかという情報をやりとりしています。
男性社員も参加して盛り上がっているんですが、初めはたったひとりのつぶやきからのスタートでした。
小巻 海達さんのように、パートナーの男性側から声が上がることもすごく貴重だし、大きな力になりますよね。
大変なことではありますが、パートナーの方のキャリアとしては、いま踏みとどまって戦うより、一回リセットして、これからの自分の人生を考えるチャンスになったんだと思えるといいですよね。
海達さんも「大変だったね」と共感してあげたり、怒っているときはクールダウンをしてあげることも時には必要でしょう。そして、新しい一歩を踏み出すときは、ぜひ背中を押してあげてくださいね。

いい仕事には「切れ目がない」

及川 とても難しい問題ですが、やはり「産みたいときが産みどき」なんじゃないかな、と。
仕事って、いい仕事をしていればいるほど切れ目がなくて、「今なら産める」なんてタイミングはずっと来ないんですよね。今のパートナーの子どもが欲しいと思っているのなら、産む選択をしてもいいんじゃないかなと思います。
私は28歳で出産したんですが、当時は小さい事業所にひとりで出向していて、私がいないと回らない状態だったので、妊娠がわかったときは正直、焦りもしました。
でも、妊娠というものは、判明してから出産まで半年以上は時間があるので、会社も自分も、休職から復職までいろいろ準備や計画を立てられるんです。そう考えれば、意外となんとかなるはずですよ。

両立へのチャレンジに舵を切ってみては?

小巻 私は、妊娠・出産を迷っているなら、1年でも早いほうがいいと思います。もちろん、40代、50代の出産は可能ですが、それにはやはりリスクが伴います。また、産みたいと思ってもすぐ妊娠するかはわからないもの。
今35歳で、いずれ子どもが欲しいなら、私個人の考えとしては、妊娠・出産の優先度を上げることをおすすめしたいですね。
妊娠・出産の時期を迷うより、自分なりのやり方で、子どもも仕事も手に入れる方法をつくっていくことを考えたほうがいいと思うんです。両立への自分なりのチャレンジに舵を切ってみてはどうでしょう。
及川 さきほども少し言及しましたが、仕事とプライベートのちょうどいいタイミングで産みたいという人は多いですが、そんなタイミングは来ないと断言してもいいくらい。
「今が正念場だから」と妊娠・出産を躊躇するかもしれませんが、仕事の正念場なんて何歳になってもやってきます。私もつい先日、「今が正念場ですね」と言われたばかり(笑)。
小巻 仕事に対してそれだけ強い思いがあるのだから、きっと妊娠や出産を経ても、キャリアが途切れることはないですよ。
それに、育休中や子育てをしながらでも、いろいろな働き方が選べる時代なので、いざとなればいろいろな方法でキャリアを積む手段もあると思います。

チームで一緒に復帰後の心構えをつくる

及川 私も自分の妊娠・出産では、川口さんと同じことを考えました。人間って自分のペースが変わるのがすごく不安なんですよね。
じゃあ、どんな心構えが必要かというと、自分だけではなく、チームと一緒に心構えをすることが重要だと思うんです。
例えば育休中に会社とどうコミュニケーションを取るのか、というのもそのひとつ。月に何回か情報をキャッチアップする、slackはそのまま残してもらう、というのもありです。逆に子育てに専念したければ、そういう仕事の情報から距離を置くのもいいですよね。
場合によっては、育休から1ヵ月、3ヵ月、半年後など、定期的なコミュニケーションの機会があるといいかもしれません。ポーラでも3カ月後面談や復職前面談などで、会社に子連れで来る社員が多くいます。
そういうコミュニケーションをとりながら、自分が子育てをしながらどんなふうに働きたいか、会社やチームメンバーと共有することも大事ですよ。

育児の経験で、仕事にもいい影響が

小巻 産後、仕事優先だった自分の感覚が変わるかもというのは、産んでみないとわからないですよね。
その感覚の変化は人それぞれだから、そのときの自分の感情を一番大切に考えるのでいいと思います。たとえ半年で復帰予定だったのを1年に延ばしたとしても、後悔しないほうが大事だし、1年先に延ばしたところで復帰できないわけじゃありませんから。
復帰後にペースを取り戻すのには、少し時間がかかるかもしれませんが、そのうち馴染んでいくものですから。親になると世界の見え方も変わってくるので、新しくやりたいことが見えてくるなど、仕事でもプラスの影響がきっとあるはずです。
及川 確かに自分の感覚は変わることもありますよね。
以前は30分でできたことに2時間かかるとか、集中力が続かないとか。私自身がそうでした。気分は、石川啄木の「友がみな われよりえらく 見ゆる日よ」です。そこは、もう折り合いをつけてやっていくしかない部分。
そういう気持ちも、長い人生ではすごくいい経験です。出産や子育てに限らず、どうにもできない状況で自分に自信を失うことってあると思うんです。親の介護や、自分が病気になったときもそうですよね。そういう渦中にいる人に対しても、同じような悩みの経験者として親身になれるのではないでしょうか。
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