2023/2/22

【奥多摩】地域の観光資源を「編集」、沿線をつなぐ旅

ライター
都内にありながら、緑豊かな自然が楽しめると人気の奥多摩エリア。その奥多摩エリアを走るJR青梅線・青梅駅から奥多摩駅間、通称・東京アドベンチャーライン沿線で、2023年度末に古民家ホテルが開業します。仕掛け人としてホテルを運営する「沿線まるごと株式会社」代表を務めるのは、嶋田俊平さん。嶋田さんは、地方創生コンサル「さとゆめ」代表として数多くのプロジェクトを手がけてきました。
INDEX
  • 自然体験と古民家ホテルステイの実証実験
  • 地域発のイノベーションを発信する「沿線まるごとラボ」
新宿から電車で約1時間。御岳山や奥多摩キャンプ場などの観光スポットに多くの人を運ぶJR青梅線。青梅駅を出ると終点の奥多摩駅までは「東京アドベンチャーライン」と呼ばれ、無人駅が点在しています。今、この無人駅を拠点に沿線をまるごとホテルにするというユニークなビジネスの準備が進んでいます。
(写真提供: JR東日本八王子支社)
「沿線まるごとホテル」という聞き慣れないフレーズについて、沿線まるごと株式会社代表の嶋田俊平さんは次のように語ります。
沿線まるごと株式会社 代表 嶋田俊平さん 京都大学大学院農学研究科森林科学専攻修了。環境系コンサルティング会社・プレック研究所を経て、2013年にさとゆめを創業。JR東日本との共同出資会社・沿線まるごと株式会社の代表取締役を兼務。ほかにも多数の地方創生ビジネスを手がける
嶋田 「沿線まるごとホテルとは、駅とその地域周辺に点在する地域資源を“編集”、地域全体をひとつのホテルに見立てたものです。無人駅の駅舎をホテルのフロントやロビーに、沿線集落の空き家をホテルの客室として改修。さらに地域住民にキャストとして協力してもらい、『沿線』を『まるごと』楽しめるようになっています」
(写真提供:沿線まるごと株式会社)
嶋田さんたちが目指すのは、単なるホテル業ではありません。沿線全体の観光資源を掘り起こし、ホテルの開業で地域を活性化。これらを地元と一緒に盛り上げることで、地域の新しい未来をつくりだすことが最終目標です。沿線まるごとホテルの中核をなす古民家ホテルは2023年度末に2棟、2026年度までには5〜8棟の開業を目指し準備が進められています。
嶋田 「青梅・奥多摩エリアに残る豊かな自然とそこで暮らす人々の風景の中に、観光客も溶け込んで楽しむ。“沿線”に広がる空間でそんな体験を提供していきます」
JR青梅駅から奥多摩駅までの無人駅を舞台にした「沿線まるごとホテル」

自然体験と古民家ホテルステイの実証実験

本格開業に向け、2021年2〜4月、2022年2月の2回にわたり、実証実験も実施しました。いずれも告知後の反響は上々ですぐに予約が完売。延べ125組、242人もの人たちが参加しました。実証実験では小学生以下をNGとしたこともあり、首都圏から参加する30〜40代の夫婦やカップルが目立ったといいます。
1日2組(大人2名)限定で実施した実証実験は大好評の結果に(写真提供:沿線まるごと株式会社)
ツアープログラムでは、地域住民がガイドとなり沿線の集落ホッピング、森林セラピーを体験。ホテルはまだないため、奥多摩町の隣、山梨県小菅村にある「NIPPONIA 小菅 源流の村」の古民家ホテルに滞在しました。
実証実験では、奥多摩エリアの魅力を存分に味わってもらえるよう、地域住民がガイドとなって、自然や食を紹介した(写真提供:沿線まるごと株式会社)
特に好評だったのは、「沿線ガストロノミー」と名付けて提供された料理です。奥多摩の鶏、卵、川魚、野菜、ワサビなどを使ってシェフが腕を振るい、参加者の舌を喜ばせました。料金は1泊2食体験付きで1人2万7000円(税抜き)。
「沿線ガストロノミー」の料理(写真提供:沿線まるごと株式会社)
嶋田 「実証実験の目的はこれから我々が提供しようとするプログラムと料金に対して、お客様がどれくらい満足してくれるかを測ることにありました。結果としては、おおむね高い満足度でした。特に1回目のアンケートでは、このプランが事業化されたら利用したいという声が100%で、大きな自信となりましたね」
体験者の事業化希望度は100%となった(データ提供:沿線まるごと株式会社)

地域発のイノベーションを発信する「沿線まるごとラボ」

開業に向けて着々と準備が進む中、JR鳩ノ巣駅に2022年6月オープンしたのが「沿線まるごとラボ」です。
駅舎の一部に沿線まるごとホテルのオフィスと、簡単なミーティングルームを設け、ここを拠点に地元の人と意見交換をしながら、イノベーションを生み出していきます。
「沿線まるごとホテル」の事務所兼フロントとなるJR鳩ノ巣駅
嶋田 「沿線まるごとラボは、地域と協業する事業のひとつです。ラボには地域と“つながる・うみだす・うごかす”という3つの機能を持たせて、地域発のさまざまな発信をしていきます」
ラボの開設には、ホテル開業前の今から地域住民と交流を深めてコミットしてもらうという側面が。すでに「沿線まるごとナイト」として、定期的に有志が集まる場も動き出しています。
ラボの中心メンバーが、3組の「沿線まるごとコンシェルジュ」です。メンバーは、奥多摩でワサビを栽培しているTOKYO WASABI BROTHERS(東京わさびブラザーズ)、「日本一観光用公衆トイレがきれいな町、奥多摩」を目指す清掃プロ集団の奥多摩総合開発(OPT)、奥多摩の自然体験ツアーなどを主催する一般財団法人おくたま地域振興財団です。
「沿線まるごとホテル」のコンシェルジュの面々。(左)TOKYO WASABI BROTHERS、おくたま地域振興財団(写真提供:沿線まるごと株式会社)
コンシェルジュは、沿線まるごとホテル事業と連携して体験型コンテンツ開発、観光客 への集落案内などのサポートを積極的に担います。いわば、沿線まるごとホテルと地元をつなぐ役割を果たす心強い存在。今後、さらにメンバーを増やして、地域とのコラボを盛り上げていくことになります。
嶋田 「例えば、奥多摩総合開発の愛称はOPTといって、『オクタマ・ピカピカ・トイレ』の略。奥多摩の観光トイレを寝そべっても平気なくらいピカピカにすることに、使命感を感じている会社です。テーマソングやダンスをつくったりして、エンターテインメント性もあります。
奥多摩の観光トイレをピカピカにするOPT。YouTubeで公開中のユニークな動画も注目だ(写真提供:沿線まるごと株式会社)
そういうポテンシャルを持つ地元の方たちの力を最大限借りながら、沿線まるごとホテルを“訪れてよかった”と思える空間づくりをしていきたいし、地元発の新しいイノベーションを実現していきたいですね」
コンシェルジュに就任したメンバーも、沿線まるごとホテルによる地域活性化に大きな期待を寄せています。
「奥多摩わさびは奥多摩町の魅力のひとつです。それをつなぐ『沿線まるごとホテル』のコンシェルジュになるのはいい機会だと思いました。ほかのコンシェルジュのメンバーも個性的で、一緒に何か面白いことができそうなのも楽しみです」(TOKYO WASABI BROTHERS・角井仁さん)
「たくさんのコンシェルジュや協力者がいるほど、さまざまな切り口やコンセプトで奥多摩の魅力を発信できるはず。面積が広く、施設や観光拠点が点在する奥多摩で、沿線まるごとホテルがハブとなって地域の連携が深まり活性化するのでは、と思っています」(おくたま地域振興財団・白田武司さん)
既存の鉄道施設と地元の資産をリンクさせた、地域発体験型の沿線まるごとホテル。本格開業に向けてまい進する嶋田さんは、これまでも多くの地方創生事業を立ち上げてきました。第2回では嶋田さんの地方創生にかける思いとその背景について伺います。
Vol.2に続く