2023/2/15

【岡山】地方の中小企業の未来を変える「デザイン経営」

編集オフィスPLUGGED
岡山県西粟倉村は人口約1400人ですが、実は起業家やクリエイターなどの移住者が約150人もいます。中小企業のブランディングデザインを手掛けるnottuo(ノッツォ)株式会社もそのひとつです。2011年に西粟倉村に本社を移転し、昨年東京事務所を閉鎖し、西粟倉村に統合。名実ともに村の会社となりました。

ベンチャー企業の地方移住のメリットや、地方の中小企業との信頼の構築、事業の拡大方法について代表の鈴木宏平さんに伺いました。(全2回の後編)
INDEX
  • デザイン経営が地方の企業を飛躍させる
  • 地方で生きるなら経営者と同じ視点を持つ
  • 地方から「世界一」の会社を目指す

デザイン経営が地方の企業を飛躍させる

人口1400人の小さな村、西粟倉村を拠点に事業を行うデザイン事務所nottuo(ノッツォ)のメインの仕事はブランディングデザインです。社長である鈴木宏平さんの強みは、グラフィック、プロダクト、Web、建築、すべてのデザインが手掛けられること。それがそのまま、nottuoの強みであり、企業の風土になってきているといいます。
nottuo株式会社代表取締役兼CCO鈴木宏平さん
鈴木 「クライアントは全国各地の中小企業です。多くの場合、『売り上げをアップしたいからWebサイトを作り直したい』というような部分的な依頼からはじまりますが、経営者さんと膝を突き合わせてお話をしていくうちに、Webサイトだけでは事足りないことが明らかになってくるんです」
企業のロゴマークや制服、パッケージデザイン、Webサイトのデザイン、さらには、店舗や空間設計など、多岐にわたるツールをデザインしていくことで、企業の世界観やキャラクターを根本的に言語化することから始まり、最終的には視覚的にも変えていくといいます。
鈴木 「デザインは目的ではなくて手段です。『デザイン経営』という経営の手段なんです。クライアントさんの事業が成長するために、デザインで何ができるのかを考えて、実装していくのが僕らの仕事です。かっこいいものを作るのはデザイン会社をする上では既に必須条件になっていて、必要なのはその先です。企業を表す共通認識をデザインで生み出していくことだと考えています」
直島に新しく生まれた「直島旅館ろ霞」。建築物を含めたすべてをデザインするのがnottuoの仕事(写真提供:nottuo)
クライアントの業況を良くしていくための手段としてデザインを使う。地方の中小企業にこそ、「デザイン経営」を広めていきたいというnottuoの挑戦が続いています。
鈴木 「これまでデザインを活用できていなかった地方の企業って、売り上げ30%、60%増っていうものすごい成長率が出てくるんです。より多くの経営者さんに、デザインの力に気づいてもらいたいですね」

地方で生きるなら経営者と同じ視点を持つ

2021年に古い小屋をフルリノベーションし、事務所兼ショールームをオープンしたnottuoでは、地域の中小企業の経営者に寄り添うためのある実験的プロジェクトが行われていました。
鈴木 「実験的にプロダクトやイベント、店舗の企画運営をする『drill project』というプロジェクトをスタートしました」
ドリルには2つの意味を込めていて、ひとつは工具のドリル。既成概念に風穴を開けるという意味だといいます。もうひとつは算数や漢字のドリル。反復して練習をするという意味が込められています。
ショールームはカフェとしてもオープンしていて、コーヒーやスイーツが楽しめる
鈴木 「僕らが目指しているのはデザインを基にして経営にコミットしていくことです。だから、デザインの意味、価値をきちんと伝えられるデザイナーでなければ、経営者さんと本当のパートナーにはなり得ない。僕らが、『デザイン経営』を実現させ、経営者と共通言語を持つためには、社員全員で実際に製造業や小売業などのリアルビジネスを知らなくてはと思いました」
プロダクトや、クライアントワークでデザインした商品を展示。建物や内装自体がnottuoの作品でもあり、デザイン経営のあり方をその場で体現しています。
セミDIYプロダクトシリーズ「Rn」は購入者が組み立て自由に色付けできる
鈴木 「プロダクトは、ショールーム兼店舗で見てもらえるようにしています。素材の調達やコスト管理など、すべての流れを社のデザイナー全員が肌感覚で知ることができるようになりました」
もちろん、ひらめきを形にするとき失敗はつきもの。直近では食器や家具などを作っているといいますが、コストと市場価格の折り合いがつかないこともあったといいます。
鈴木 「市場には結局出せなくなったプロダクトもあります。失敗できる場所を持ち、練習を重ねられることが、僕らの最大の強みになっていると思います」

地方から「世界一」の会社を目指す

東京にいた頃、締め切りに追われながら大手代理店から次々に流れてくる仕事をしていたという鈴木さんは、常に疑問やフラストレーションを抱えながら仕事をしていたといいます。
田舎から世界を見つめる
鈴木 「広告やプロモーションなどで使うものの一部をデザインし、ローンチしたり、クローズしたりして仕事が終わる。その繰り返しに、デザインの意味がわからなくなっていたんです。自分が寝る暇を惜しんで費やした半年はいったい何だったのか、誰を幸せにしているのかという疑問がありました」
地方で中小企業のブランディングデザインをするようになってから、その疑問への明確な答えが見つかったといいます。
鈴木 「目の前にいる社長さんの悩みや不安が全部見える中で、パートナーとしてデザインを使って『どう未来をよくできるか』という問いに答えを出していく。それは、その会社の人たちや商品を手にする人全員を幸せにすることにつながっています。この楽しさを知ったらやめられません」
nottuoの掲げるビジョンは「世界一かっこいい(田舎の)デザイン会社」になること。
鈴木 「実現のために、世界的なデザインの賞を取り知名度をあげることにも挑戦中です。海外を視野に入れ、より多様な会社として成長していきたいので外国人デザイナーの採用も検討中です」
世界を目指す小さな企業では、ダイバーシティ&インクルージョンの考えも備わっているように見えました。
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