2023/2/1

日本人の英語上達を妨げる「2つの誤解」

News Picks Brand Design Senior Editor
 実は日本人の英語学習時間は、国際的に見て決して少なくない。
 にもかかわらず、なぜほとんどの人が英語を話せないのか。
 根底にあるのは、日本人の多くが抱えている英語に対する誤解だ。
 DMM英会話の坂根健太郎氏とLuke McCrohon氏は、日本人の場合、英語を話すための基礎はすでに仕上がっていると語る。
 私たち日本人の英会話力向上を妨げる勘違いと、それを踏まえた正しい学習法について伺った。
坂根健太郎氏:東京都生まれ。青山学院大学・大学院にて経営工学を専攻。大手SIerにてシステムエンジニアとして従事後、不動産投資会社で経営企画・投資業務に携わる。2012年より創業メンバーとして「DMM英会話」立ち上げのため、フィリピンに渡る。以後、フィリピン法人代表を務めながら、経営企画及びDMM英会話の海外ブランド「Engoo」 の立ち上げ等に従事。2021年4月よりDMM英会話代表に就任。
Luke McCrohon氏:ニュージーランド出身、日本在住。2007年に日本に来日し、東京大学にてコンピューターサイエンスと言語学博士号取得。現在はDMM英会話のシステムや教材開発チームの統括、経営に携わっている。

「苦手」を生む2つの誤解

Luke 日本人に「英語を話せますか?」と聞くと、英語のレベルに限らず「ちょっとだけ」と答えます。
 海外留学経験者でかなり英語を話せる人でも、「あまり上手じゃないですが」と前置きをする。
 これは国際的に見てもかなり特殊です。
坂根 「英語はネイティブレベルではないと、得意とは言えない」という誤解を持っているせいで、日本人全体が過度な苦手意識を持っている状態です。
 私は日本人の英語に対する「苦手意識」って、誤解によって生まれている部分が大きいと思うんですよ。
──誤解ですか。
坂根 そうです。
 日本人は英語について、二つの大きな誤解をしていると思います。
 この誤解が「話せない」原因になっているのです。
 一つは「英語を話せる=ネイティブと同じように綺麗な発音でペラペラしゃべれる」という誤解です。
 もう一つは「英語を中学、高校、大学で合計10年も勉強してきたのに、話せるようにならなかった」という誤解です。
 一つ目の誤解についてですが、日本人は「英語を話せる」という目標の設定をかなり高い水準に設定しているんです。
 多くの学習者が、「ネイティブと同じように綺麗な発音でペラペラしゃべれる人は、英語を話せる」、「それに至っていない人は、英語が話せるとは言えない」と定義しています。
──「苦手意識」を持っていることが、「苦手」になることと、どう関係があるのですか。
坂根 苦手意識って、「英語を使いたくない」「使う場面を避けたい」という行動につながってしまうんですよ。
 具体的に言うと、会社の英語プレゼンはできる人に代役をしてもらったり、旅行は通訳付きのパックツアーで行ったり。
 使わないことが経験不足につながるし、経験不足によって実力がつかないという負のスパイラルに陥っていると思います。
Luke「苦手」を解消するために、まずは「苦手意識」から変えてほしい。
 立場を逆にして考えてほしいのですが、コンビニで働いている外国人店員さんたちの日本語って、十分通じてますよね。
 彼らに「ネイティブみたいな日本語じゃないからダメだ」なんて誰も言わないじゃないですか。
 だから、日本人も英語を学ぶにあたって「英語のネイティブのように」なんて考えは捨ててほしい。
坂根 そもそも英語って、非ネイティブ同士で話す機会がすごく多い言語です。
 GAFAMのようなテック業界では、多くの非ネイティブが働いています。
 彼らの英語は単語や文法が洗練されているわけではありませんが、それでも意思疎通をして素晴らしいアウトプットを作っている。
 英語は欧米の言語で、それを完璧に話せなければ、というイメージは時代遅れになりつつあると思います。

「英語を10年も勉強してきた」という嘘

──もう一つの誤解についても教えてください。
坂根 よく、「英語を中学、高校、大学で合計10年も勉強してきたのに話せない」って言葉を耳にしますが、ここに大きなミスリードがあると思うんですよ。
 確かに10年間、英語を勉強したかもしれません。
 でも、何をやったかと言うと、読み書きと文法が中心の受験対策メインで「can=be able to」を機械的に覚えたり、答案用紙にbe interested ( )って書いてあって、inって前置詞を埋めるテストをやったりですよね。
 あらためて多くの方に思い出してほしいのですが、中学、高校、大学の10年間の英語の授業で、話す練習を何時間しましたか。
 おそらく、授業で当てられたとき、隣の席の人と英語で話すワークショップをやったとき、外国人講師を招いての授業など、全部足しても10時間もないんじゃないでしょうか。
Luke 世界的に見たら、日本人の英語の勉強時間ってかなり多いほうです。
 でもそのわりに英会話力が低いのは、話す経験が少なすぎるから。
 ただ経験が足りないだけで、少しトレーニングを積めば、英語で一般的なコミュニケーションは取れるはずです。

初級を脱したら、練習はやめるべき

──では、話せるようになるために、何から始めたら良いでしょうか。
Luke 多くの日本人の場合、単語や文法の基礎はできていると思います。
 なので、これ以上の座学による勉強はあまり必要ありません。
 おそらく、多くの日本人にとって、TOEICやTOEFLのようなスコア追求型の学習は、大学受験などで慣れているし、結果もわかりやすいと思うのですが、日本人にはあまり必要じゃない。
 それよりも、楽しく、役立つという軸で学習したほうが、成果が出やすいと思います。
 他国の場合、外国語を学ぶ際に、ある程度の基礎が身に付いたらそこで座学中心の勉強はやめるんです。
 勉強の代わりに、英語を使うことを意識します。
 例えば、動画や記事をその言葉で見たり読んだり、「カッコいいな」と思ったセリフを真似して口にしてみたり、その言葉を話す人と友達になったり。
 そうやって使ううちに、どんどん話せるようになっていくんですよね。
坂根 学習のアプローチとして、好きなコンテンツから入るのはとても効果的です。
 DMM英会話のフィリピン人講師で、日本に一度も来たことがないのに日本語がペラペラの人がいます。
 どうやって日本語をマスターしたか聞いてみたら、アニメと漫画だと言うんです。
 彼らはスラムダンクとかNARUTOとか、翻訳されたものより作家が書いた言葉でその世界を体感したいから、日本語で見たり読んだりする。
 シリーズ全話を見るだけで、数百時間の日本語に触れることになります。
 教材の知らない単語を調べるのは面倒かもしれませんが、好きなコンテンツのセリフや単語を調べるのは、モチベーションが上がるはずです。
 彼にとってはそれが日本語の「勉強」だという意識はないでしょう。
Luke 楽しくてワクワクするような気持ちで勉強すると、記憶力も高まるという研究もあります。一方で、あまり興味がないのに勉強を続けるのは誰でもきついし、成果も出にくい。
 英語のドラマや映画を1回目は日本語字幕、2回目は英語字幕、3回目は字幕なしで観るといった方法で、少しずつレベルを上げていくのが良いでしょう。

好きなものから学ぶ方法

──好きなコンテンツから学ぶと聞くと、肩の力が抜ける気がします。ただ、コンテンツを見るだけだと、話せるようにはならないのではないでしょうか。
坂根 そうですね。
 先ほど話した「英語を使う」ための場として、オンライン英会話があるというのが、私たちの考えです。
 楽しみながらのインプットが、コンテンツを使っての学習だとすると、アウトプットが英会話という立ち位置だと考えてください。
──DMM英会話の講師は非ネイティブが主と聞きましたが、理由はあるのでしょうか。
Luke ネイティブ講師は英語がペラペラで発音も完璧ですが、英語を外国語として勉強した経験はありません。
 だから無意識のうちに、非ネイティブには馴染みのない単語を使ったり、話すスピードも速くなったりして、上級者でない場合はついていくのが難しいと思うこともあるかもしれません。
坂根 その点、非ネイティブの講師は初級者・中級者レベルに対して非常に相性がいいんです。
 自身が第二外国語として英語を身に付けているので、英語を話せない側の気持ちも察してくれますし、こちらの反応を見て語彙や話すスピード、表現などのレベルを合わせてくれます。
 対人コミュニケーションは、誰でも最初は緊張するでしょうし、恥ずかしいという気持ちを抱くと思いますが、講師側も通った道ですから、そこは安心してほしいですね。
 日本人は学校教育のせいで、英語を「正解をしないとバツがつけられる世界」と認識していますが、英会話のレッスンでは「間違えても良いから、とにかく話してみよう」と考えてください。
Luke DMM英会話ではここ5年ほど、日本人講師を積極的に採用しています。
 おそらく、多くの日本人は英語を話すときに「英語を話す」という心理的抵抗感と、「外国人と話す」という非日常感の両方があると思うんです。
 その点、日本人講師だと、英語を話すことだけに集中できます。困ったときには日本語で質問したり、日本語で文法や単語のアドバイスをもらえたりします。
──おすすめのレッスンの受け方はありますか。
坂根 毎日、少しずつ続けるのがベストです。
 オンラインのレッスンなら家でできるので、1回25分のレッスンをお風呂や食事の時間のように毎日の習慣にすると、1週間に3時間くらいになる。これを1年間続けると150時間ほどになります。
──日々忙しい中で、英語学習が続くのか心配です。
坂根 コンテンツを楽しみながら、英会話に取り組む「デイリーニュース」という教材がお勧めです。
 デイリーニュースはDMM英会話が運営する無料の英語ニュースサイトで、記事は科学技術、文化、エンタメ、経済、ビジネス、ヘルスケア、教育などあらゆるジャンルを幅広くカバーしています。
 記事の本数は年間で1100本以上あります。
DMM英会話「デイリーニュース」では、無料でさまざまなジャンルのニュースを読むことができる。記事は語彙や表現の難易度で分けられており、自身の興味関心やレベルに合わせて学習に活用できる。
Luke 最近ではウクライナ情勢のほか、ビジネスパーソンの間では睡眠やヨガなど、ヘルスケアのトピックも人気です。
 キーワード検索すれば、自分が好きなこと、興味がある記事を英語で読むことができます。
 記事は難易度で分けられており、難易度に合わせて語彙や表現を再編集しているため、どのレベルの人も学習に役立てることができます。
坂根 記事ページには記事内で知っておきたい単語や、記事についての内容を問う質問なども掲載しており、これを毎日読むだけでも英語力は格段に変わってくるでしょう。
 また、興味を持った記事について、講師とディスカッションするというレッスンも用意しています。
「デイリーニュース」の記事は25分間のレッスンに合わせて編集しているので、時間がないビジネスパーソンでも読みやすいと好評です。
──TOEICやTOEFLなどと違い、英会話って上達がわかりにくいですよね。どこで上達を測れば良いのでしょうか。
Luke 英会話がどれくらい上達しているかを知るには、自分が話す英語を録音してみるといいですよ。
 最初は下手で聞くのが嫌かもしれませんが、半年、1年と続けてみてから、英語の学習を始めた頃の録音を聞くと「かなり上達したな」と自信が湧いてくるはずです。
 DMM英会話には録音機能があるので、ぜひ活用してみてください。
坂根 あとはリアルなコミュニケーションですね。
 語学ってそもそも相手とのコミュニケーションなので、本来はTOEICスコアのような数字で測ったり別の指標を追求したりする必要はないじゃないですか。
 結局、外国人相手に「伝わった」という経験が、日本人には圧倒的に足りていない。
 DMM英会話には世界120カ国に講師がいて、日本人も含めて非ネイティブの講師もたくさん在籍しています。
 別にビジネスで使う表現を学ぼうとか、どこかに遊びに行くシチュエーションを教わろうなんて考える必要はありません。
 サッカーのW杯見た?とか、この季節だとどれくらいの気温なの?とか、あなたの国の観光名所は?といった話題で良いんです。
 レッスンを受講すると、講師の国の国旗のメダルがオンライン上でもらえる「メダルコレクション」という機能があり、このコレクションを楽しみに続けている人もいますよ。
レッスンを受けた講師の国が記録されていく「メダルコレクション」。同じ英語でも、相手の国によって日常会話の内容や表現の仕方もさまざま。120カ国コンプリートを目指す人も多いという。
 あのニュースについてあなたの国の人はどんなことを考えているのかを講師に尋ねる人もいますし、小学生で「あなたの国のことを教えて」なんて使い方をしている人もいます。
 人気のアメリカドラマや韓国映画の話で盛り上がれる講師を探して、それをテーマに英語で話すという人もいます。
 どのような使い方であっても、上達のプロセスは楽しいものであってほしいと思いますね。
Luke 普通に生きていたら、世界120カ国もの人々と話す機会はありません。
 DMM英会話を通じて、いつか行ってみたい、どんな国か知りたい国の人たちと交流し、世界とのつながりを肌で感じてもらえたら嬉しいです。