2023/1/7

【2023年の経済】小さくても働く人に選ばれる組織になる習慣

記者・編集者/MIT経営学修士(MBA)
「2023年大予測 中小企業がおさえるべき2023年の経済トレンドとは?」。NewsPicks+dとNTTコミュニケーションズが共催するオンラインセミナーが2022年末、開催されました。人材登用やトップの意識変革、情報発信の習慣など、ヒントいっぱいの対談です。
INDEX
  • 企業経営で注目すべき5つの論点
  • 2023年は「前年より鈍い景気」に
  • 人手不足に「10年で辞める」若手続出
  • 「従業員が企業を選ぶ時代」に
  • 事業承継や人材入れ替え「先手が成長に」
  • 「社長と心中するわけにはいかない」
  • 社長は「社員の入れ替え決断も」
  • 情報を選んで来る社員。発信の習慣を
左/木下斉さん(エリア・イノベーション・アライアンス代表理事)
右/後藤達也さん(経済ジャーナリスト)

企業経営で注目すべき5つの論点

オープニングでは、経済ジャーナリストの後藤達也さんが、激動の2022年を振り返りながら、2023年のマクロ経済の見通しを解説しました。
後藤さんは、中小企業が注目すべき論点として5つを挙げました。
1つ目は2022年に進んだ「円安」です。
iPhoneの価格が日本では1年前から2万〜4万円の値上げがあった事例を紹介。アメリカでは同じ機種が「お値段据え置き」だった一方、日本では海外製品を買うには円をたくさん払わなければならない急激な円安によるインフレ(物価上昇)が進んできました。
この「記録的なインフレ」がポイントの2つ目。10%以上の価格上昇があった品々を並べると、食品やエネルギーといった輸入に依存する生活必需品が多いことに気づきます。
後藤達也さん提供
では、こうして日々の暮らしを直撃するインフレは、どれくらい続くのでしょうか? 後藤さんは「2023年の前半はまだまだ値上げもあるし、厳しい。うまくいけば後半から2024年にかけて落ち着くのが基本的なシナリオ」と、民間エコノミストたちの予測を紹介しました。

2023年は「前年より鈍い景気」に

ただ、インフレが落ち着いたとしても、物価は数年前と比べて高いまま。ここで気をつけるべき点が、3つ目の「物価と賃金の関係」です。
「インフレ手当」とも呼ばれる一時金で社員を支えようとする経営者が増える一方、物価上昇率に比べて賃金上昇率は低い傾向。そうすると不満は溜まりやすいほか、個人消費も鈍くなり、景気後退が進みます。
後藤達也さん提供
アメリカでもリセッション(景気後退期)が噂されており、2023年の日本経済は「2022年よりも景気が鈍い状況という基本的な意識を持っておくことが大切」だと後藤さんは見通します。

人手不足に「10年で辞める」若手続出

「悪いインフレ」や景気の低迷が今年も続くなか、4つ目の鍵となるのが「人手不足」です。円安でインバウンド熱も高まるなか、新型コロナの流行前のように再び「人手が足らない」状況となっています。
中小企業ほど大企業より人手不足を感じる企業が多く、春闘も見据えながら、中小企業は「景気が厳しいなかでも、賃金をしっかり上げていかないと人手を確保できない」と、後藤さんは指摘します。
後藤達也さん
意識を向けたい5つ目のポイントが「若手の変わる価値観」です。
2022年 新入社員の意識調査」(マイナビ)では、「10年以内に退職予定」と答える新人が半数を超えました。「給料がいまいち」「仕事がハード/厳しそう」といった待遇面ややりがいも理由に挙がります。

「従業員が企業を選ぶ時代」に

後藤さんは「従業員が企業を選ぶ時代」と題して、中小企業が取り組むべき5つの対策を示しました。
後藤達也さん提供
「昔と違ってあっさり辞められてしまっても、人手不足なので、なかなか採用ができない。利益を圧迫するけれども賃上げをしないと、人手不足で事業が回らない、という辛い状態に陥る。これらは経営リスクとして意識しなければならない」と強調します。
解説を隣で聞いたエリア・イノベーション・アライアンス代表理事の木下斉さんは、「値上げで利益を増やしながら、給料もしっかりと払う。この30年、社長が一度も経験してこなかった状況に戸惑いも大きいが、健全な企業経営に切り替える段階では」と語りました。

事業承継や人材入れ替え「先手が成長に」

高校3年で起業し、全国を回って地域再生に関する会社経営と研究をする木下さん。「健全な企業経営」という点で、値上げや事業承継、人材の入れ替えで「先手を打っている中小企業ほど、その後の成長率が圧倒的に高い」として、地方での成功事例をいくつか紹介しました。
欧州からの観光客で人気を集める宿坊は、円安が進んだ際、経営者が為替差を価格に乗せるよう素早く決断したといいます。
日本では長らく「値上げは悪」のイメージが広がっていました。ただ、木下さんは「お金を安くするよりは取れるようになり、マイナスはない。むしろ5千円で出していた商品やサービスを、7千円や1万円のラインで考える企画力を上げる方向で捉えてほしい」。

「社長と心中するわけにはいかない」

新たな企画力で会社を引っ張っていくには、人材が鍵を握ります。ただ、古い考えの幹部ばかりだと「成長のイメージが描けない」「社長と心中するわけにはいかない」と若手は離れていきかねないと、対談で2人は口を揃えます。
対談する木下斉さん(中央)と後藤達也さん(右)
2004年に入社した日経新聞を2022年に離れた後藤さんは、「会社に長くいることが前提で入った私のような40代と比べ、今の20〜30代の若手は全然違う世界」と変化に驚きます。
そして、大企業ブランドが若者の間で落ちていると見て、やりがいやワークライフバランスの面で魅力が伝われば、中小企業にもチャンスは大いにあると考えます。

社長は「社員の入れ替え決断も」

人材の観点で木下さんは、事業を次世代に早くバトンタッチすることが大切であるほか、「社員の入れ替えも社長が決断しないと、会社は大きくならない」と指摘します。
愛知県の麹会社では、発酵市場が拡大するなか、世界中のレストランからメニュー開発の依頼が殺到しています。ただ、社員のだれも英語をしゃべれませんでした。そこで海外の食事情に詳しい人材を採用します。わずか1年で販路を一気に拡大。管理職に抜擢されたそうです。
木下斉さん
また、熊本・上天草で水運事業・マリーナ事業を展開するシークルーズは、観光船が大打撃を受けるなか、ヨットやモーターボートの係留場「マリーナ」事業が好調なほか、コロナ禍で立ち上げたグランピングサイトも高収益で経営に寄与しています。新規領域で付加価値の高いサービスに挑戦するスピードが経営の成否を分けます。
木下さんは「会社の財務状況や営業内容、SNSも全部チェックして、自分が働くに値する会社かを見てくる人が増えている。このチャンスを中小企業経営に大いに生かすべき」と語りました。
ただ、社長が社員任せにせず、人材研修やセミナーに自ら足を運ぶ習慣をもって、「今まで通りではダメ」と実感していなければ成功しないとも言い切ります。

情報を選んで来る社員。発信の習慣を

「選ばれる会社」になるには、どうすれば良いのでしょうか。鍵を握るのが「情報発信の習慣にある」と2人はみます。
先ほどのシークルーズは、熊本に本社を構えながら全国で採用活動ができている点に、木下さんは注目します。SNS投稿や採用サイトへの丁寧な書き込み、自社サイトも充実させています。「情報発信の投資や努力がちゃんと報われる時代になっている」と木下さん。
さらにSNS発信の成功例として挙げたのは、北海道のウトロ漁港で漁師をしている26歳の青年です。独自ブランドで酒のつまみの加工食品を販売する会社を経営しています。
販路の拡大は、ショート動画のTikTokから。北の絶景を短い動画でパッと撮って流し、数万人のフォロワーから人気を集めているといいます。
後藤さんは、マスメディア頼みだった情報発信が、SNSで大きく変わった現状に改めて言及し、盛り上がるTikTokをはじめ「多くの中小企業がその可能性に気づいていなければ、早めにいろいろなチャンネルで手を打てば成功する可能性も低くはないはず」とみています。
ツイッターで48万人のフォロワーを抱える後藤さんによると、SNS発信のポイントは、簡潔でビジュアルなメッセージ性で「短い時間でアピールしないと勝てない」。ツイッターでも肝心なのは最初の5〜10文字で、その対極にあるのが「会社概要の長々とした説明」だといいます。
発信するコンテンツで2人が注目するのは、海外からの注目度も高い地方の観光や文化、歴史の価値、体験です。
地元では当たり前とされる風景が突如、大人気となって拡散することもあり得ます。「意思決定から実行まで小回りが利きやすい中小企業こそチャンス」と、2人は最後にエールを送りました。
中央/後藤達也さん(経済ジャーナリスト)
右/木下斉さん(エリア・イノベーション・アライアンス代表理事)
左(進行役)/吉永庄吾(株式会社ニューズピックス)
NewsPicks+dでは、今後もビジネスに役立つインタビューやレポート記事、セミナーの実施を予定しています。ご期待ください!