2023/1/9

【予言】今年、日本のエンタメは凄まじいことになる

フリーランス ジャーナリスト
この記事は、日本にいると逆に見えてこない、日本のポップカルチャーの世界でのポテンシャルをお伝えする連載「Japan Rising」の最新回です。
INDEX
  • 2022年、種はまかれた
  • 2023年、6つのポイント
  •  ①日本の音楽が「本気」になる
  •  ②最強アニメは「次のステージ」に
  •  ③VTuberが世界で爆発する
  •  ④世界が「過去の日本」に共感する
  •  ⑤ミャクミャク様、ばんざい!
  •  ⑥成功の鍵は「アメリカ」じゃない

2022年、種はまかれた

2022年はこれまでで最も華やかな年だったとまでは言えないものの、世界の舞台における日本のポップカルチャーにとって重要な年となった。
この1年間、日本ではさまざまなエンターテインメントが花開いた。
世界的に最も売れたゲームは、日本のフロム・ソフトウェアが手掛けた「ELDEN RING」だ。同作は、近年発表されたゲームの中で最も高い評価を獲得し、「今年のゲーム(Game of the Year 2022)」に選ばれた。
アニメは、「鬼滅の刃」や「SPY×FAMILY」などのシリーズが海外で注目を集め、映画「ドラゴンボール超 スーパーヒーロー」が北米で初週末興行収入1位となるなど、日本のコンテンツはいまも世界的な影響力を持ち続けている。
2022年は、アニメシリーズのおかげでさまざまなJ-POPの楽曲がストリーミングバイラルチャートに登場するようになった年でもある。
...だが、シンガーソングライターの藤井風はアニメと関係なく世界的にバズり、Jポップの旗手である宇多田ヒカルは最新アルバム「Bad Mode」で絶賛された。バラエティー番組「はじめてのおつかい」までもがNetflixで話題となり、視聴者を魅了し、そして、ジャーナリストや学者の間でオタクっぽい議論を巻き起こすこととなった。
2022年は、日本発のコンテンツが世界を舞台に輝いた年だったが、同時に、ニッチな分野でも、メインストリームでも、現代においてどうやって成功するエンターテインメントを作ればいいのか、という青写真を示した年とも言えそうだ。
かといって「日本のエンタメがたまたま世界の消費者に受け入れられた」とまで言うと、これはちょっとミスリーディングかもしれない。
特にゲームは、世界の消費者向けに作られているからだ。
だが、一方で、そもそも今年ヒットしたコンテンツの多くは、海外の消費者を意識してデザインされたものでなかった
そして、それこそが、実は日本のエンタメ戦略の一部と言えるのかもしれない。

2023年、6つのポイント

2022年が驚くべきブレイクスルーの年であり、長年にわたるクリエイティブの底力を思い知らされた年でもあったとすれば、2023年は日本のポップカルチャーが世界に新たな基盤を築くチャンスの年となるかもしれない。
道はすでに彼らの目の前にあり、あとは、その力を発揮するために必要な手順を踏むだけだ。
これからの1年で、日本のポップカルチャーはどんな世界展開を果たすのか。新年を前に予測した。

 ①日本の音楽が「本気」になる

日本の音楽は、実のところ、世界的に注目されていないわけではない。大ヒットよりも、瞬間的なヒットが多いだけなのだ。
お隣の韓国が、(決定的なヒット曲がなかったとしても)世界的に愛される注目のグループをいくつも売り出すことに成功しているのに対し、J-POPもTikTokやサブスク配信、YouTubeなどで急上昇するバイラルヒットを生み出したという意味では、かなりうまくやっている。
2022年は、TikTokでバズった藤井風の「死ぬのがいいわ」、Adoがウタ名義で歌う「ONE PIECE FILM RED」の主題歌「新時代」、ネット界の新鋭・なとりの「Overdose」などが注目を集めた。
こうしたナンバーのヒットは、J-POPやアニメにタイアップした曲への世間の関心がいまも高いことを示すと同時に、生身のアーティストを世界の舞台で売り出すことの難しさも物語っている。
日本の音楽レーベルは、2023年にはこうした状況を変えようとするだろう。
Adoは、本格的な世界進出に向けてアメリカの音楽レーベル、ゲフィン・レコードとパートナーシップを締結した。ジャニーズ事務所所属のTravis Japanは、アメリカのテレビ番組出演をきっかけにキャピトル・レコードと契約した。
YOASOBIの2人も、最近、同じような形で世界進出を果たしている。
日本の音楽レーベルは、ストリーミングがいかに世界進出への道を切り開いてきたのか、気づきつつある。
そして、個々のナンバーをヒットさせるのではなく、どうやってアーティストそのものを世界に知ってもらうのか、そのための方法を真剣に模索し始めている。
ワイルドカードとして注目したいのが、2023年の年明けにデビューするYoshiki、MIYAVI、Hyde、Sugizoの日本人パフォーマーによる新しいロック・スーパーグループ、THE LAST ROCKSTARSだ。
東京での2公演の後、ニューヨークとロサンゼルスで公演を行う。
注目すべきは、彼らの音楽が世界の音楽チャートを席巻する…ということではなく、いまこそビジュアル系がブレイクする時なのかもしれない...という意味で、彼らが世界市場にどうアプローチしていくかということだ。
彼らは、それが可能だ示す、炭鉱のカナリアのような存在なのかもしれない。

 ②最強アニメは「次のステージ」に

2020年代に「日本で最も強力なポップカルチャー」として世界に輸出されてきたアニメの立ち位置は、2023年も変わらないだろう...。
おなじみのシリーズや新しい作品は、世界で最もクールな人びとにも受け入れられているが、同時に、世界中の視聴者を魅了し続けるはずだ。
そして、2023年に起こる変化として、アニメが、(ファンだけでなく)映画などの批評家にも認められる機会が増えることになりそうだ。
スタジオジブリが先頭を走り続けているように、日本発のアニメには常にチャンピオンがいた。2023年はアニメの普及により、より多くの批評家がアニメに(世界進出の)チャンスを与え、また、お気に入りのシリーズを見つけることになるだろう。
その転換点になる可能性があるのが、2023年春に海外で公開予定の新海誠監督の最新長編映画「すずめの戸締まり」だ。
この映画は、新海監督のこれまでの作品の中で最も野心的であり、観客を驚かせる可能性を秘めている。
しかし、批評家から称賛される可能性のあるアニメコンテンツは、この映画だけではない。アニメがこれだけ注目を集めるようになったことで、より多くの人がアニメに触れることになっていく...。
そして、作品の内に潜む優れた芸術性を見出すはずだ。

 ③VTuberが世界で爆発する

近年、日本発の最新カルチャーとして注目されているのがバーチャルYouTuber(VTuber)だ。
日本では、こうしたアニメーション・アバターは、ライブストリーミングや他分野のメディアや音楽にも手を出し、新たな形の「タレント」となっている。
VTuberは海外では、タコベルの広告やアニメのコンベンションに登場し、何百万人ものフォロワーを獲得するなど、強力かつニッチな人気を確立している。
ただ、これまでのところ、メディアで大きな話題を呼んだVTuberはまだいない。
2023年は、VTuber(おそらく、「森カリオペ」や「がうる・ぐら」のような日本を拠点とする英語クリエイター)が、音楽や総合エンターテインメントのアウトプットで注目を集め、エンタメの「未来」を示す一例として取り上げられるようになれば、状況は変わっていくだろう。
それは、「メタバース」やその他の新しいテクノロジーに向けられた関心とより深い関連性を持った形での変化になるだろう(実際、2022年には、バーチャルラッパーのFN Mekaがキャピトル・レコードと契約したものの、わずか数日で打ち切られている)。
しかし、彼らは偶然にせよ、過去5年間で最も強力なサブカルチャーのひとつであるVTuberが発展していくのに出くわしたわけで、今後、メインストリームのクロスオーバーという、避けることのできない局面に向けて、このカルチャーにさらなるエネルギーを与えることになるだろう。

 ④世界が「過去の日本」に共感する

近年、日本のポップカルチャーが勢いづいている理由のひとつは、海外の人びとが日本の古いエンタメコンテンツを掘り起こしているためだ。
シティポップやジャパニーズ・アンビエント、「はじめてのおつかい」といったコンテンツは、さまざまなアニメ作品とともに世界中の注目を集めている。
この流れは止まらないだろう。
NetflixやAmazon Primeのようなストリーミング・ビデオ・プラットフォームは、過去の作品に目を付けることで成功してきた。これからは、日本のさらに古いコンテンツが新たに掘り起こされるか、より高い可能性としては、新しい時代に向けてリメイクされることになるだろう。
この分野で最も攻めているAmazon Primeは、海外ですでにカルト的な人気を誇る「風雲! たけし城」の新バージョンを2023年に全世界独占配信する予定だ。
しかし、この動きはAmazonに限ったことではない。
いずれ、動画ストリーミング配信会社は、オリジナル番組にお金をかけるよりも、ほとんどの人が知らないコンテンツをテレビの歴史から発掘すればいいということに気づくだろう。

 ⑤ミャクミャク様、ばんざい!

日本のマスコットが、久々に世界を驚かせた。
2025年大阪・関西万博の公式キャラクター「ミャクミャク」は、そのグロテスクな(でも、かわいい!)見た目ですでに注目の的だが、さらなる称賛と恐怖の声を集めたいと考えているようだ。
2023年、人びとはミャクミャクにお参りし、関西のビッグイベントを盛り上げる。

 ⑥成功の鍵は「アメリカ」じゃない

国際的な成功について語るとき、誰もが 「成功する」 とはアメリカ、少なくとも 「西側諸国」 でうまくやることだと考えがちだ。
しかし、実際のところ、これは現代社会における「成功」の捉え方としては、限定的なものだ。
インドネシアやベトナム、タイなど、人口が急増し、かつてないほど可処分所得も増えているアジアにこそ、未来はある。
アメリカでヒットを飛ばすことの方が権威ある「成功」に見えるかもしれないが、もっと大きな大陸に目を向けることで、より良い(そして持続可能な)成功を収めることができるのだ。
2023年、日本のエンタメ全体がそのことに気づき、アジアによりフォーカスしていくことになるだろう。
その指針になり得るのが、音楽だ。この1年でさまざまな日本のアーティストがタイのアーティストとコラボレーションし、2つのマーケットが持つあらゆる可能性を示した(THREE1989とInk WaruntornRepezen FoxxとSpriteChelmicoとLussのコラボがその例だ)。
また、タイの人気番組「T-Pop Stage」が2022年に東京で開催され、こちらにも関心が集まった。
2023年は、日本のアーティストが海外の同世代のアーティストとコラボしたり、ベトナムのPhùng Khánh Linhが全編にわたってシティポップに触発されたアルバムを制作したように、日本のアートに目を向けるアーティストも出てきて、国を超えたコラボはさらに続いていくだろう。
このようにポップカルチャーがクロスオーバーすることで、エンタメの興味深い展開につながっていく。そして、日本は自分たちのコンテンツを大陸に持ち込むことで利益を上げ、他のクリエイターたちにも力を与えることができるはずだ。