[東京 20日 ロイター] - 日銀の黒田東彦総裁は20日、長期金利の許容変動幅拡大を決定したことについて、市場機能を改善するためであり「利上げではない」と明言した。この措置により、イールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)を起点とする緩和効果がより円滑に波及していくとの考えを示した。

日銀は19─20日の金融政策決定会合で、YCCの枠組みを維持しつつ、長期金利の許容変動幅をプラスマイナス0.5%程度に拡大した。黒田総裁は決定会合後の会見で「金融緩和の持続性を高めることで、物価安定目標の実現を目指していく」とした。

このタイミングで運用を見直した理由については、このところイールドカーブのゆがみが厳しいものとなり、今後、企業金融を通じて経済にもマイナス影響を与える恐れがあるためと説明した。

<政府・日銀の共同声明、現時点で見直す必要ない>

政府・日銀が2013年に結んだ政策協定(アコード)に見直し論が浮上していることについて、黒田総裁は、この共同声明によって日本の経済・物価は着実に改善し、デフレではない状態を実現したと強調。「現時点で見直す必要があるとは考えていない」と述べた。

日銀の金融政策については「効果が明らかに副作用を上回っている」と指摘し、現行のYCCの枠組みを維持していく考えを示した。

黒田総裁は、原材料コスト高の価格転嫁で年末にかけて物価上昇率が拡大するものの、来年に入ってからは押し上げ要因がはく落し、23年度全体では2%を下回る可能性が高いと繰り返し指摘。賃金上昇を伴って2%の物価安定目標を実現するには「なお時間を要する見通しであり、金融政策の枠組みや出口戦略などについて具体的に論じるのは時期尚早だ」と語った。長期金利の許容変動幅拡大は、出口戦略では「全くない」と強調した。

<催促相場の可能性、「あまり考えられない」>

金融政策は現状維持がコンセンサスだったため、金融市場にとって日銀の決定は「サプライズ」となった。債券市場では長期金利の利回りが一時0.460%まで上昇。外為市場ではドル/円が急落し、株式市場では株価が大きく下げた。

市場とのコミニュケーションについて問われた黒田総裁は、日銀はあくまでも物価安定目標を早期に実現するために金融政策を運営していると説明。「金融資本市場の動向や経済物価の動向が変われば、それに応じたことをやるのは当然」との見解を示した。

債券市場で10年金利の許容上限0.5%を試す動きになる可能性については、米国のみならず欧州の物価上昇率もピークアウトする見通しを踏まえれば「あまり考えられない」と述べた。

(杉山健太郎、和田崇彦 編集:田中志保 石田仁志)