2022/12/27

社員の“お口”のケアが健康経営を加速する

NewsPicks / Brand Design 編集者
 口や歯への健康意識が世界的に高まっている。日本政府も2022年6月、国民皆歯科健診を具体的に検討すると発表した。
 企業の健康経営においても歯科への注目が集まっているなか、オーラルケアのリーディングカンパニーであるライオンは、口から従業員のウェルビーイングな生活を支援するため、情報発信やセミナー、唾液検査などのサービスを手がける。
 この法人向けサービス「おくちプラスユー」を立ち上げたライオンの武藤美穂氏と、長年にわたり企業の健康経営に携わってきたイブキの平井孝幸氏が、健康経営を促進するためのオーラルヘルスについて語り合った。

企業の健康経営にオーラルヘルスが求められている理由

──歯と口の健康の重要性が世界的にも注目されています。
武藤 歯周病などの口腔疾患の有病率は世界的にも高いといわれています。ただし、その多くが予防できることから、WHO(世界保健機関)でも2021年、口腔保健に関する決議が採択されるなど、口腔健康の重要性が改めて見直されています。
 口腔健康は全身健康にも関わりがあることが指摘されています。日本でも、今年6月、骨太の方針にて、歯科健診受診率の向上、いわゆる「国民皆歯科健診」の具体的な検討開始について言及されました。
 ライオンでは、家庭のみならず、多くの接点で、お口から全身健康とQOL向上を支える、「オーラルヘルス」の大切さを広めていく活動を行っています。
 その中でも我々は、歯科健診受診率が低い、20~60代の現役世代へのアプローチとして、企業という接点に着目しました。
 法人の健康経営の取り組み状況を調べる経済産業省の「健康経営度調査」でも、21年度から従業員の健康意識向上施策として「歯と口の健康」の項目が加わりました。
 世界的な潮流を受けて、企業においても、「オーラルヘルス」への注目度が高まっていることを感じています。
──企業の健康経営において、オーラルヘルスの重要性をどう考えていますか。
平井 企業の健康経営を支援するなかで、オーラルヘルスの重要性はとても高いと考えます。
 ただ、睡眠やフィットネス、メンタルヘルス、食生活などと比べて情報が少なく、学ぶ機会も少ないため、歯が痛くなってから手を打ったり、歯科医院を受診したりする人が多いのではないでしょうか。
 私自身、健康経営を推進させていくなかで歯や口に注目するきっかけとなったのは、以前在籍していた会社で、「会社の近くでいい歯医者さんを教えてほしい」という従業員からの問い合わせが一番多かったことでした。
 健康リスクによる生産性の損失を健康経営では「プレゼンティズム(疾病就業)」といいますが、歯が痛いとそれだけで集中力を要する業務ができなくなることがあります。
 個人的に、睡眠不足や食べ過ぎよりも、歯の違和感は仕事に影響があるのではないかと思います。

コロナ禍で歯への投資は活発化

──ビジネスパーソンが歯やお口のケアの大切さを「自分ごと化」するには。
平井 歯や口の健康が全身に影響するという認識はもちろん大事です。歯周病になると、生活習慣病リスクが高まる、あるいは妊娠中であれば赤ちゃんへの影響があるといった指摘もあります。
 オーラルケアをおろそかにして生じる口臭や歯の黄ばみにより、予期せぬマイナスがあることも、知っておく必要があります。寝不足や運動不足であっても営業成績を上げることはできるかもしれませんが、口臭が強ければ営業機会を損失する可能性もあります。
武藤 今はマスクをする機会が多くなったため、自分の口臭が気になるようになったという声も聞きます。マスクをつけていると、口呼吸になりやすいため、唾液が出にくくなり、口が渇くことで、口臭が発生しやすくなります。
 また、オンライン会議のときに自分の顔を見ることで、歯並びや歯の色が気になり、矯正やホワイトニングに興味を持つ人も増えていると聞きます。
 歯や口元は、初対面の印象を左右するというデータもあるので、ビジネスを円滑にする上でも重要なパーツだと考えます。
平井 コロナ禍で予防や矯正など歯科投資が活発になっている印象がありますね。また、むし歯などになってから対処しようとすると、治療費が高額になるというデメリットもありますね。
武藤 治療費だけでなく、歯科医院に何度も通わなければいけなくなり、時間のロスも大きくなります。急に痛くなって、仕事を抜けざるを得ない人もいるかもしれません。
 定期健診を受けていれば、重症化する前に対策できます。忙しいビジネスパーソンだからこそ、「なる前に予防する」行動は大事ではないかと思います。
──健康管理とセルフマネジメント力の向上には相関関係があるといわれます。セルフマネジメントとオーラルケアに対する意識の高さの関連性についてはいかがですか。
武藤 歯科医院でのプロケアと、こまめな歯みがきやフロスや歯間ブラシの使用などのセルフケアに取り組んでいる人は、「トラブルが起こらないよう先回りして対処できる」傾向が強いというデータがあります。
 「病気になる前の予防を心掛けている」割合も高く、事前にコツコツと自分のお口や体をメンテナンスできる人は、計画的に物事を進められる方が多いのではないかと考えます。
平井 企業の担当者から、オーラルケアにしっかり取り組んでいることと礼儀正しさが相関するというデータについて聞いたことがあります。歯や口に意識を向けている人は、口臭も含め、身だしなみやさまざまな配慮ができる印象がありますね。
 オーラルケアとビジネスのパフォーマンスの関係は今後も明らかになってくると思います。そういった観点からも、今後オーラルケアに取り組む企業が増えてほしいです。

自分に合ったケア製品を選ぶことができればライフスタイルが充実

──オーラルケアへは意識の差もあると思いますが、ビジネスパーソンが意識を変えて習慣化する秘訣はありますか。
平井 自分自身は、健康経営を始めた2015年までは「歯をみがかなければならない」と義務的に考えていました。それが「心身を豊かにするウェルビーイングな時間」ととらえるようになってから、意識が大きく変わりました。
 きっかけは、「オススメの歯科医院を教えてほしい」という従業員からの要望に応えるため、歯科医院通いを始め、歯科受診したときに、奥歯に厄介なむし歯が見つかり、デンタルフロスや歯間ブラシなどをいろいろ使ったことでした。
 努力の甲斐もなくむし歯は治らず結局治療したのですが、オーラルケア製品を数多く試して、ハブラシ一つでもヘッドの形状も違えば、毛の硬さも異なることがわかり、歯をみがく時間が楽しくなりました。
 今では約20種類のオーラルケア製品を状況に合わせて使い分けています。ハミガキ剤も朝はミントが強め、夜は穏やかなタイプを使っています。
 口の中は感覚が鋭いため、直接当てるハブラシは自分に合うものと、合わないものがありますし、感覚的な快や不快もあると思います。
 家族に選んでもらって使うのはもったいないですね。心地よいケア製品を状況に応じて選ぶことができれば、ライフスタイルがさらに充実します。
武藤 我々が実施するオーラルケアセミナーでも、ハブラシの選び方のコツを伝えると大変好評です。
 たとえば短時間で効率的にみがきたいときは、歯に当たる面積が大きいワイドヘッドタイプのハブラシ、逆に細かい部分まで丁寧にみがきたいときは、コンパクトヘッドのハブラシを選ぶのがオススメです。
 他にも、歯の着色汚れを落としたいときは、コシがある毛のハブラシが適しています。歯と歯ぐきの間の歯垢を落としたいときは、超極細毛のハブラシを使うと良いと思います。
 さまざまな情報を知ってもらうことで、ケアすることが楽しくなってもらえるとうれしいですね。

一本ずつ意識して歯を磨くと、マインドフルネスの状態になる

平井 歯をみがくことに集中する時間も大切です。急いでみがく人もいるかもしれませんが、歯を一本ずつしっかりみがこうとすると、意識を集中しやすくなり、マインドフルネスをしている時のような状態になります。
 極端なイメージになりますが、私は坐禅をする感覚で10分ぐらいかけて歯をみがくことに没頭します。口の中だけではなく、頭の中もすっきりして、その後の仕事へ集中しやすくなっています。
 オーラルケアに目覚めていくなかでの意識変容は、ビジネスパーソンにぜひとも伝えていきたいポイントです。
武藤 私は、頭が整理できないときやアイデアが足りないとき、気分をすっきりさせるために歯みがきをします。いったん頭の中をリセットする感覚ですね。

口の中の状態がよくなれば、食生活やメンタルに好循環が生まれる

平井 また、歯や口のケアをすることによって、食生活が変わったという方もいました。歯と歯の間にひっかかりづらい食品を探ったり、口内に違和感を感じる食品を減らした結果、野菜を選択する機会が増えたとのこと。
 私自身はオーラルケアに気を付けるようになってから、ジャンクフードが口に合わなくなり、食べる機会が減りました。むし歯予防のため、飲み物も砂糖の入ったものではなく、水やお茶をとる機会が増え、結果としてメタボリスクも減っているかと思います。
 口の中の状態がよくなるほどに食生活もメンタルも、良好な循環が生まれてくるのではないでしょうか。
武藤 舌には味覚を感じる味蕾(みらい)という組織があるので、食事を楽しむ上でも、舌をキレイにするのもオススメですね。舌クリーナーと専用のジェルを使うと汚れが目に見えて落ちるので、一度使うと習慣化される方も多いですよ。
──ビジネスパーソンにオーラルヘルスの重要性を広めていくライオンの法人向けオーラルケアサービス「おくちプラスユー」に期待することを教えてください。
平井 これまで企業の歯科取り組みといえば歯科健診が中心でした。
 歯科医院でのプロケアだけではなく、セルフケアも両立させていくのが、従業員の自立的な健康管理を促す上で重要ですが、「おくちプラスユー」は両方を支援して、お口から始まるウェルビーイングを実現するサービスだと思います。
 130年以上続くオーラルケアのリーディングカンパニーとして、ライオンの方々には私たちがますます使いたくなるオーラルケアの製品やサービスをこれからも世に出し続けていただきたいと思っています。
武藤 「おくちプラスユー」では、セミナーや唾液検査、e-learningなどを通じて、ご自宅ですぐに実践できるケアのコツを伝え、オーラルケアをポジティブに感じてもらえるように気を付けています。
 歯みがきをするのは数分ですが、365日毎日に関わることです。歯やお口のケアをする時間が前向きな時間になり、生き生きと働く方が増えるよう、企業の健康経営をご支援していきたいと思っています。