2022/11/22

業務改善の盲点。「発注」がビジネスの効率を爆上げする

NewsPicks Brand Design / Editor
 多くの企業が人材不足に悩む中、柔軟かつ円滑にビジネスを推進するために欠かせないエッセンスの一つが「発注」だ。

 高い専門性を持つ外部パートナーと協業することで、自社にはないアイディアや、技術、人的リソースを得ることができる。

 しかし新しいプロジェクトにおいて、適切な発注先の選び方がわからない。発注先の仕事の質に満足していないものの「なぁなぁ」な関係になっている……。そう悩むビジネスパーソンも少なくないだろう。

 そんな悩みを持つ発注元と発注先を最適につなぐビジネスマッチングの分野で、急成長している企業が「レディくる」だ。

 デザイン、システム開発、経営コンサルなど幅広いパートナーを持ち、「人」を介したマッチングを行うことで、上場企業の60%超が利用、7年連続で取扱高150%成長を達成しているという。

「レディくる」を柔軟に活用し、軽やかにビジネスを前進させた「アートネイチャー」「千葉銀行」の証言から、最適な「発注先」を探すための工夫を探る。

顧客第一主義の反動

──2021年に、自社のサーバールームからデータセンターへの移管を決意されたと聞きました。どんな悩みがあったのですか?
村田 弊社は長年、自社のビル内でサーバーを管理していましたが、そもそもビルの建物自体が老朽化。耐震性に脆さがあり、災害が起きた際に電気系統が耐えられないのではと、問題視され始めていました。
 災害はいつ起こるかわかりません。サーバーが止まってしまえば、お客様へのサービスも滞り、われわれの根本である「顧客第一主義」が守れなくなってしまう。
 バックアップサーバーを置くなどのBCP対策は構築していたものの、より堅牢で物理的な距離も近いデータセンターに移管しようと、プロジェクトが動き始めたのです。
 ご存じの通り、アートネイチャーは長年にわたってお客様の「髪の悩み」を解決してきました。髪の悩みは一人ひとりまったく別物です。ウィッグを一つ作るにしても、オーダーメイド対応になります。
 この「顧客第一主義」という理念はシステム開発にも浸透し、基幹システムや顧客管理システムも、店舗スタッフが扱いやすいよう、柔軟に改良を重ねてきました。
 しかし、長年カスタマイズを重ねてきたシステムですので、新しいサーバーに移行することで、不具合が起きる懸念も大いにありました。だからこそ、発注先選びにはかなり慎重になっていました。
 まずは既存の取引先や新規の取引先に相談しました。しかし、現在利用しているシステムを動かすためにはサーバーのシステム改修が伴うため、かなり高額になることが判明。金額的に折り合いをつけづらいとの結論に至りました。
 クラウド型のサーバーについても調べましたが、こちらはわれわれの求める「堅牢性」を担保するのが難しかった。
 コストと自社の求めるセキュリティのレベルが釣り合わず、データセンターへ移管をしたくてもどこにも発注できない。そんなジレンマに苦しんでいたのです。

発注には第三者視点が必要

──その結果「レディくる」の活用に至ったということですが、なぜビジネスマッチングサービスを活用しようと思ったのですか。
 きっかけはテレアポをいただいたためです。その時は「レディくる」も、ビジネスマッチングという言葉も知りません。
 ただ、発注先のネットワークをたくさん持っていて、紹介料も相談料も無料となれば、話を聞かない理由はありませんでした。
──テレアポがきっかけで、このような大がかりなプロジェクトを任せるという例はあまり聞いたことがありません。
 珍しいですよね。ただ発注先を何度も探すにあたり「第三者」に相談したいという思いが募っていました。
 例えば既存の取引先に相談をすれば、こちらの要望を基に、彼らは自社のサービスでどう解決できるかを軸に提案しますよね。弊社も自社の条件に合わなければお断りする。これだけでは、自社の問題の解決の糸口がどこにあるのか見つからない。
 われわれの要望のハードルが高いのか、適正なのかわからずにいたため、第三者視点からはどう映るのだろうと感じていました。
──「レディくる」からはどのような会社を紹介されたのですか?
 大手電鉄系のグループ会社で、データセンターを運営し、情報システム部を担っている会社です。
 社名は知りませんでしたが、鉄道という、絶対に止まってはいけない社会インフラを担っており、同レベルのセキュリティ対策ができると聞き、興味を持ちました。
 実際にデータセンターも物理的な距離が弊社と近く、災害対策も強固なものだったことが発注の決め手になりました。現在、各種サーバーをデータセンターへ移管中で、基幹システムの移行も問題なく進んでいます 。
──そうした会社はご自身では見つけにくいものなのでしょうか?
 弊社が紹介を受けた会社は、新規の営業をほぼ行わないビジネスモデルでした。売上の母体は、グループである大手電鉄からの受注業務が中心です。
 売上の拡大のために新たな販路を見つけたいものの、営業部隊が少なく、広告を出稿する予算もかけられない。
 また確度の低い与件に、工数を割くこともできず、自社の強みに合わない相談をされても困るという悩みがあったそうです。こうした企業を0から探し出すのは困難です。
 「レディくる」はこうした会社を適切に判断し、紹介してくれました。複数社の中から絞り込むのだろうと思っていましたが、そのフェーズを踏まず、ピンポイントで紹介に至ったことに驚いています。
 データセンターの一件があってから、発注に対する考え方が変わりました。システムの専門家という自負はありますが、自分一人の知識には限界があります。
 既存の取引先との関係はもちろん重要ですが、弊社とのお付き合いに慣れていると、「なぁなぁ」になってしまい新しい提案をいただきにくくなることがあります。こちらも叶えられそうな要望しかお願いしなくなっては、お互いのレベルが高まっていきませんよね。
 自社のビジネスを推進するためには、自社の要望を俯瞰して見てくれる存在も必要なのではないでしょうか。

個人情報がわかっていても、適正な広告が打てない

齋藤 「ちばぎんアプリ」をリリースしたのは2020年、その背景にはお客さまとの接触機会の減少がありました。「ちばぎんアプリ」では、スマートフォンで入出金管理や残高照会などが行えます。
 実際、ここ10年で窓口を利用されるお客さまの数は減少していました。さらにコロナ禍が到来し、窓口に来ることも困難になった。
 そんなお客さまとの新たな接点を速やかに作りたいという思いから、アプリのリリースに踏み切ったのです。
 リリース時の目標は、弊行のデジタルチャネルを活用するユーザーを50万弱から150万まで伸ばすこと。150万というのは普段から弊行をご利用いただいているお客さまの約半数にあたります。
 スマートフォンが普及し、ユーザー登録も無料であることから「自然と広まっていくのではないか」と楽観的に考えていました。
 しかし蓋を開けてみると思うようには進んでいかなかった 。そこから紙のDMや窓口・対面営業でのご案内などのプロモーションも行いましたが、目をみはるような結果は見られませんでした。
──プロモーションと聞いてデジタルの施策を想像しましたが、紙のDMや対面での紹介という手法をとったのですね。
 「ちばぎんアプリ」は口座と紐づけることで利用できます。そのため、口座を既に持っている方に限定して、プロモーションを行う必要があり、デジタルでのプロモーションには不向きでした。
 弊行では口座の開設のほとんどが対面の窓口で行われており、デジタル上での接点は少数です。
 住所・氏名・年齢、住宅の所持、お子さまの有無などの個人情報を預からせていただいているものの、すぐにデジタル広告に活用できるデータではありません。
 例えば、年齢、性別、居住地、興味関心などに基づいてターゲティングし、SNS広告を実施することはできます。しかし、弊行の口座登録の有無は含まれておらず、無駄なリーチが生まれてしまう。
 窓口でのご案内や電話セールス、紙のDMの方が精緻にリーチができます。ただし、電話セールスでは日中不在のお客さまも多いですし、紙のDMは一通80円~100円と費用が高いため、頻繁に実施することが難しい。
  その結果、プロモーションの打ち手がなくなってしまったんです。

忖度のない壁打ち相手を探せ

──発注の打ち手がかなり限られていた中「レディくる」からどんな提案があったのですか?
 「レディくる」には、デジタルプロモーション、リアルプロモーションを問わず、複数社紹介いただきました。
 アプリの登録者数を増やしたいという大きな目標はありましたが、プロモーションの予算も明確に決まっていない段階から相談したため、「レディくる」の営業担当者との対話を通じて、要件を固めていきました。
 発注するポイントになったのは、予算の部分です。「ちばぎんアプリ」は無料でご利用いただけます。
 アプリを新たな顧客接点にすることは、弊行にとっても非常に重要な施策ではあるものの、ユーザー数の拡大がそのまま売上につながるわけではありません。それ故あまり大きな予算はかけられず、どうしてもスモールスタートになります。
 その中で、スモールスタートでも有効な提案は何か、どの程度の予算感なら実施できそうかを見極めるため、良いと思った提案を都度上司に伝え、実現可能性を探らせてもらったんです。
──紹介を受けた企業からは、どんな提案がありましたか?
 イベントや展示会、SNS広告もありましたし、運用型のデジタル広告もありました。先ほどデジタル広告が不向きだというのも、こうした提案を受けて理解を深めた部分です。
 「レディくる」は自社の膨大なネットワークから企業をピックアップしてくれるため、イメージを広げることや、アイディアのブラッシュアップにつながりました。
 最終的には、ATMの周辺にPOPや什器を設置し、アプリの告知を行いました。ATMは銀行の窓口よりも利用頻度が高く、大切な顧客接点です。ここを告知に活用するというのは盲点でした。
 また、その会社に発注すると決めたのは、提案内容や予算以外に、担当者の「人柄」の部分も大きい。
 千葉県の遠方の支店まで自主的に視察に行ってくださり、ATMの現地の様子などを盛り込んだ提案書をいただきました。
 スモールスタートからいい信頼関係を築けそうという点で弊行にマッチしていましたね。
 そうしたプロモーションのおかげもあり、現在はアプリ単体で60万を超えるお客さまにご利用いただいています。
──様々な企業と会うことが、アイディアを広げることにつながったということですが、発注における大切なエッセンスは何になるのでしょうか?
 発注で大切なことは、目標をぶらさず、頓挫させないことなのではないかと考えています。意志がぶれてしまい頓挫してしまえば、発注元と発注先の双方にとって非効率で、不幸な結果を生むことになる。
 今回は「ちばぎんアプリ」のユーザー数を拡大するという目標があり、必ずプロモーションをやるという強い意志がありました。これが重要なポイントだったと思いますね。
 また、気軽に相談できる相手と、忖度なしで壁打ちをし合えたことも、今回のプロモーションの実施につながったと考えています。
 銀行は信頼や安定を重視する傾向がある。その良さはありつつも、外に目を向けず自分たちで話し合うだけでは、なかなか新しいアイディアは生まれづらい。
 「レディくる」や外部パートナーの斬新なアイディアにはその壁を乗り越えられる可能性があります。銀行だけでなく、新しいチャレンジを進める企業にとって、そうした存在も必要なのではないでしょうか。