2022/8/27

【トヨタ自動車】会社員でスタートアップCOO。「異例」を実現した小さなきっかけ

大手自動車メーカー

トヨタの社員でスタートアップのCOOで

はじめまして。私はトヨタ自動車で新しい事業を作る仕組みである「事業創生プラットフォーム」の企画運営を担当している、土井雄介です。現在、トヨタ自動車に入社して8年目の31歳。
社員として働きながらも自身で起業し、越境による価値創出をしたり、社内新規事業の支援会社で多数の大企業の事業開発を支援したり、スタートアップ企業のCOO(最高執行責任者)として多数の大企業の協業支援をしたりしています。
今でこそ新規事業開発というキャリアを歩んでいますが、元々は自動車販売店さんの物流改善から始まり、ボトムアップでやってきた「有志活動」がきっかけで社内でもちょっと異例のキャリアを歩むようになりました。
僕は、続けてきた有志活動で2つの重要なことを学びました。それは「タテ・ヨコ・ナナメの関係性をつくることで会社生活が変わること」「大きな変革には、まずは小さな自分の一歩が必要なこと」です。

社会に貢献できる仕組みがある

仲間と活動してきた取り組みを話す前に「なぜ自分が大きな組織にいるのか」という根幹の部分をお話できればと思います。
それは、①価値を社会に届ける仕組みや考え方、仕事の進め方が確立されていること、②世のため人のために働く人が数多く存在していること。この2点です。
「失われた30年」とよく言いますが、ほんの30年前、日本が世界中に価値を発揮し、社会に求められていた時代がありました。ということは諸先輩方が作り上げてきた仕事の進め方や価値を社会に届ける仕組み、またその前提にある考え方を時代に合わせて少しでもアップデートしていけば、これから先も絶対に大企業ならではの価値を届けられるはずだと信じています。

アセットを活かせば社会のために働ける

私が新卒採用の時に感じたこと、またトヨタ自動車に入った現在も変わらず会社に対して思っていることは「個人の利益を超えて、世のため、人のために仕事をしている人の多さ」です。
トヨタ自動車には「産業報国」という創業の精神の一つがあります。これは組織や立場を超えて、社会のために、世のため人のために価値を出せているのか……ということだと私は理解しています。
この哲学が脈々と受け継がれている企業が、会社のアセットを活かして世の中の課題解決に本気で取り組めば、確実に社会は良くなっていくと思いませんか。
想いある優秀な人材がたくさん存在し、社会のために少しでも価値を創出したいと願っている。そんな挑戦者が現場には本当にたくさん存在し、日々挑戦し続けています。
だから私も、トヨタ自動車という大きな組織を今自分のできることから変えていきたいと、心に決めています。

最初の一歩をどう踏み出すか

そうはいっても、自分1人で組織を動かそうなんておこがましいですし、いきなり大きな変化を起こすのは難しい。中には、会社の中で自分の気持ちを発信することすら、躊躇している人もいるかもしれません。
だけど、自分の行動を変えて一歩でも前進することはできる。毎日を愚痴だけで終わらせたくないんです。
まず、私が大事にしている「タテ・ヨコ・ナナメの関係性をつくる」ということについて、説明します。会社が大きくなればなるほど、効率化のために部署や仕事を細分化するため、どうしても遠い部署の人とは出会わなくなると思います。
ここで大事になるのが「ナナメの関係」です。単純な飲み会などでは部署の先輩でもなく、違う部署の同期でもなく、全く関係ない部署の年齢が違う「ナナメの人」に出会ったとしても、強い関係性を作るのは難しいと思います。
一方で、同じ志を持つナナメの人などに出会った時に、会社内の情報やこれまでの経験が一気に繋がることがあります。

顧客へ会いに行くビジネスコンテスト

その思いが顕著に現れたのが「A-1 TOYOTA」の活動です。入社2年目の時、私は仲間と一緒に「A-1 TOYOTA」という有志活動を立ち上げました。この活動では主に「A-1 CONTEST」というトヨタグループ社員を対象とした就業時間外の有志活動で行うビジネスモデルコンテストを運営しています。
テーマは自由で、自動車・モビリティ領域に限らず、なんでもOKです。例年、想いある方が「こんなことを実現したい!」と手を挙げ、2人以上の仲間を集めて約3ヶ月間最終プレゼンまでチームで活動します。チーム活動期間中は、メンターへ相談しながら「とにかく顧客に会いに行く」ことを実践し、顧客と課題の明確化に取り組みます。
A-1 CONTEST事務局は、この運営だけでなく、活動のサポートとして社外者との交流や講演会、イベントの開催などを行っています。A-1 CONTESTでは、「志を同じくするタテ・ヨコ・ナナメの出会いを生む”場”」を提供することで、本業にも還元し会社生活が劇的に変わるような出会いを生み出せるようにしています。
(Photo by gremlin/ iStock)

会社生活を変える「ナナメの関係性」

私自身も、2年目の新入社員研修が終わってすぐに人生が変わる「ナナメの出会い」をしています。
私は学生の時からプライベートでビジネスモデルコンテストなどに出場していた一方で、2年目なので会社のことについては全く詳しくありませんでした。
その頃出会ったのが製造から企画、戦略まで経験している10歳年上の先輩や、人事、調達などで働く少し上の先輩でした。
こうした先輩たちから「大きな会社の中には、絶対に想いある人がいる。人生が変わる出会いがあるから面白い」とアドバイスをいただいたおかげで「A-1 CONTEST」をスタートしようと動き出すことができました。

変わる主体は自分自身

次に、A-1を立ち上げた経験から大事にしている「大きな変革には、まずは小さな自分の一歩が必要なこと」についても、説明します。
私自身もA-1を立ち上げる前から「新規事業に関わりたい」と思っていましたし、会社内に「新規事業提案制度があればもっと挑戦者が増えるはずだ」と思い、制度の提案もしていました。
しかし、自分の部署は「改善の部門」であり、まだ若手の私は、周りから社内で新しい提案ができるとか、ビジネスコンテストの出場経験がある人間だという風に見られてもいませんでした。
正直、自分の想いを実現するには「役職が上がるまで待つしかない」と考えることもありました。でも、よく考えればそれは当たり前です。
自分のプレゼンスや評価を上げるために我を通したいわけではなく、「会社」であり「組織」を変えられたらと思っている以上、一定の権限を自分が持たねばならないのは至極当然です。
ならば何かを一気に変えようとせずに、その一歩目を「自分自身でできる範囲の行動変容」にしてみると、今の状況が少しずつ動き出すと思いませんか。

愚痴をやめ、未来をつくる行動に変える

実際この時期、愚痴を言うのはやめて未来を語り、ただ飲んでいただけの毎日を飲み会とセットの社内勉強会や外の人に会いに行く活動へと変えました。
同期には「意識高いやつ」と思われていたかもしれませんが、自分の行動を変えた瞬間に会える人も変わり、考え方も変わっていきました。そして前述した「ナナメの出会い」が起きたのです。
この一歩を踏み出すときに私が参考にしたのが、目的思考と手段思考という考え方です。私の場合は一般的な仕事と同様に目的思考で考えるタイプだったので、手段思考に視点を変えてみて「自分ができること・知っていること・すぐ相談できる関係性とは何だろう」と考えてみました。
何かを変革させようとしている時に、あるべき姿と現状のギャップを問題ととらえ、それを一気に変えていくのではなく、自分のできることから段階的に変えていく。その一歩目を「自分自身でできる範囲の行動変容」にしてみると、大きく世界が変わるきっかけになるかもしれません。
そして、小さくても自分が「一歩行動」した後に、再度目的を設定すると、全く違う世界が見え、大きな変革が起こせるかもしれない、私はそう思うようになりました。
今でこそ私はトヨタ自動車の新規事業の仕組みづくりに関わり、まさしく「想いある挑戦者を支援」できるようになりました。しかしその一歩目は、行動を変えて、会う人を少し変えただけでした。
行動を起こした当時は、今のようにビジネスコンテストを運営したり、スタートアップのCOOになれたりするなんて考えていませんでした。

大企業、だからできることがある

 大企業は大企業であるが故の「可能性」に満ちています。一方で、大きいが故の「課題」もたくさんあると思います。この可能性を最大化するために、ナナメの関係性をつくってサイロ化を打破し、変える主体を「自分」にすることで、私は変革の一歩を踏み出していきたいと思っています。
私も道半ばですが、大きな会社を少しでも変えてみたいと思っている方とぜひ一緒に「一歩行動」を続けていけたらと思います。
本連載は、学びとつながりを生むNewsPicksの法人向けソリューションNewsPicks Enterprise編集部によるものです。AlphaDrive/NewsPicks VISION BOOK『Ambitions』にも掲載しています。
AlphaDrive/NewsPicksは、2022年5月にすべての企業人・組織人に捧げる新レーベル『Ambitions』を創刊しました。個人が輝ける時代に、組織で働く醍醐味とは何なのか。企業変革や組織づくり、ビジネスパーソンに新たな選択肢をもたらす一冊を目指しています。