KDDI_森岡

シンドット構想の仕掛人、森岡康一氏が語る(上)

KDDI「お祭り男」の仕掛けるスマホコンテンツ革命

2014/12/9
10月16日にKDDIが発表した新たなネットサービス「Syn.(シンドット)」。13サービス12社を集結させ、キャリアの枠にとらわれない「スマホ時代の新たなネットサービス」を掲げる。今回のプロジェクトを仕掛けたのが、「自称・KDDIのお祭り男」森岡康一氏だ。ヤフーに入社、その後フェイスブックジャパンの副代表をつとめ、スマホ黎明期から、ネットコンテンツの在り方を見つめてきた森岡氏。今回の構想で何を実現しようとしているのか、話を聞いた。

大企業に緊張を、スタートアップに希望を

シンドット構想の発表から約2カ月経ったが、ネット界隈の人からはかなりうがった見方をされる。今回のプロジェクトには12社、13サービスが集まった。そう聞くと、「いろんなサービスを囲い込むことでEZwebやiモードをやろうとしているのか」とか言われる。

だが、掲げているのは徹底した「オープン化」。ひとつの世界に囲い込もう、という意識はまったくない。イメージしているのは山手線。中心となるページやサービスがあるわけではなくて、カテゴリごとのサービスがサイドメニューでスムーズにつながっている。発想としてはディープリンク。

PCの世界ではコンテンツ間の移動が自由に行き来できるのに、スマホになるといちいち別のアプリを立ち上げないといけない。それは変なことでしょう? だったらスマホの世界でもブラウザで見ているコンテンツとアプリコンテンツが連動していて、すぐにアプリが立ち上がる。そういうスムーズなコンテンツ体験をユーザーに提供したい。

グーグルやフェイスブック、米国版ヤフーではサイドメニューのインテグレーションが始まっている。すでに海外ではユーザー体感値として、サイドメニューから回遊できることが当たり前になりつつある。だからここで海外の潮流に追いつくためにも大鉈を振るうことが必要だった。

このまま海外から遅れを取って、日本の各サービスがバラバラになっているとあっという間に「黒船」に呑まれてしまう。すでに今も、知り合いができたらフェイスブックを使って友達申請をして、買い物はAmazon、日常会話はTwitterという風に「気づいたら」なっている。

「黒船だ」と警鐘を鳴らせば焦って手を打つのかもしれないが、ネットサービスは真綿で首を締めるようにじわじわと入ってくるのが恐ろしい。この危機感があった。

日本の企業にはまだまだ伸びしろはある。LINEがアジアで成功をおさめたのがいい例。にもかかわらず、国内のみでパイの取り合いをしていてはもったいない。だったら僕たちから仕掛けてみよう。「大企業に緊張を、スタートアップに希望を」と僕の中では思っている。

シンドット構想を発表して「ポータル戦争再来」という言い方もされるが、国内の競合と戦おうとは思っていない。ヤフーもLINEも競合だなんてまったく思わない。むしろ一緒に戦いましょう!と海外を見据えたサービス展開をしていきたい。
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サービスの枠を超える「モリオカーニバル」

連盟の「契り」はたったひとつで超シンプル。「強いコンテンツをもとに、ユーザーが満足するネットサービスを作る。そしてスマホ上でのネットサービの在り方を変えよう」という意思だけ。加入している各サービスの中身をKDDI主導の元、ひとつに統一することはしない。

もちろん、サービス間で回遊できて終わり、ということはしない。まだ話せないような「隠し球」もいっぱい準備している。当面の目玉のひとつは「DMP」というデータベースの蓄積だ。加盟各社がいままでとれなかったようなユーザーの属性、行動をフィードバックして、それを広告戦略に生かす。

ただ、これだけでは当たり前すぎる。今回、DMPは、ユーザーにもフィードバックしていきたい。どういうことかというと、DMPで蓄積したデータをコンテンツの進化にも使いたい。

例えばルクサでハワイ旅行を探していたらサイドメニューにナナピのコンテンツがサジェストされるとか。ユーザー属性を把握して、ひとつの記事の中に各サービスからのリコメンデーションが入っている、サービスの枠を超えて一番興味のあるコンテンツを融合させることでユーザー体験を上げる。これだけでもできたら面白い。

現在は1カテゴリ1社だが、これから続々と手を組むところは増やす。ゆくゆくはユーザー自身がカテゴリごとのサービスをカスタマイズできるようになるかもしれない。構想発表からすでに40社以上、中には驚くような名前の企業からアプローチがある。

以前なら、こうした取り組みは、ポータル側がサービスを買収しないとできなかったが、まずサイドメニューでの提携なら買収しなくてもできる。方向性さえ合致すればさまざまなサービスと手を組んでいきたい。

言うならば、今回のプロジェクトは「お祭り」。面白そうな奴らはどんどん集まって来てほしい。実際僕も社内では「お祭り男」ですから笑。この「モリオカーニバル」にどんどん巻き込んでいきたい。(後半に続く)

(撮影:齋藤誠一)