KDDI_森岡

シンドット構想の仕掛人、森岡康一氏が語る(下)

”勘違いグロースハック”から脱却せよ

2014/12/10
シンドット計画の仕掛人としてスマホ時代に最適化したサービスを模索する森岡康一氏。彼はなぜ、フェイスブックジャパン副代表という立場からKDDIという大企業に転身したのか。彼の抱くインターネットへの危機感とは。フェイスブックジャパンの副代表として、月間アクティブユーザーを80万人から2000万人に拡大した「グロースハッカー」として今のネット産業へ切り込む。
前編:KDDI「お祭り男」の仕掛けるスマホコンテンツ革命

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孫さんの危機意識、KDDIの問題意識

ネットサービスのオープン化、ということはヤフーに在籍していた時から考えていた。その後、フェイスブックジャパン副代表を経て、自分の中で考えを熟成できた。

今回のアライアンスを組むことでわかったのは「コンテンツはやっぱり強い」ということ。携帯キャリアがハードでの差別化ができなくなってきたから、ユーザーをつなぎ止めるのにコンテンツレベルでの戦いになってきた。そういう点でも孫さんの最近のインド通販会社への出資も僕と同じ問題意識だろう。

こうした流れの中で、ネット業界で革命を起こすにはキャリアしかない。もはやキャリアは単なる「土管屋」ではなくなった。数千万のアクティブなユーザーベースに決済機能、コンテンツまでも持ち始めた。

KDDIという“ベンチャー企業”

3社しかないキャリアの中でKDDIを選んだのは「人」と「文化」が大きい。僕はKDDIに移って1年。この短期間にここまでの「お祭り」を立ち上げられた要因が「人」と「文化」。田中社長・高橋専務をはじめ、KDDIはコンテンツへの理解があった。

「キャリア主導のインターネットサービスではなく、“インターネット文脈のインターネットサービス”を目指すぞ」と言ってくれたのは大きな決断だった。だってサービスをキャリアから切り離すわけだから。

こうしたことはKDDIという企業だからできること。社内にいて感じているのはKDDとDDIという企業が合併してできたという背景を持つ、ベンチャー的要素があるということ。それに加えて人材も豊富。一つのプロジェクトに各所からいろいろな才能を持った奴らがドッと押し寄せる。こうした「役者の多さ」が大企業の強み。KDDIには大企業の組織力とベンチャースピリッツが備わっている。

3つの競争軸

では今後、コンテンツを備えたキャリアの競争軸は何になるか。3つのレイヤーに分かれる。

まず一つ目はベースメント。スマホサービスで言うならOSレベルの話だが、当面、アンドロイドとiOSが盤石だろう。

次のユーザー接点というレイヤーにおいてはコンテンツ。自分たちでオリジナルなコンテンツをつくらなければ生き残れない。個人的に今回のアライアンスを組んで思ったのが、「魂のこもったコンテンツは強い」。どういうことかというと「ぶれない」ということ。ナタリーなんかが特にそうだが、姿勢がぶれなければ、ユーザーはついてくる。

加えて、ユーザーとの最初のコンタクトを作るためにもブランド力は必須。どういうことかというと、例えば郊外在住の30代主婦が初めてスマホでネットにつなぐときに使うポータルは、おそらくヤフーでしょう。それはヤフーに信頼やブランド力があるから。シンドットに信頼をつけるためにKDDIという名前をだした。「KDDIが責任を持ってオススメするコンテンツです」と銘打てば不信感は抱かれない。

三つ目にコンテンツを武器に相互送客を行うこと。ここが肝要。特に注意しないといけないのが「アクティブな」ユーザーであること。昨今のネットサービスを見ていると、ダウンロード数ばかりを競っているように思える。だが、トラフィックを生んでいなければ意味がない。DAUやMAUという指標こそ大切。

真のグロースハックとは?

また、しばしばグロースハックという言葉をよく使うが、あまりにも“勘違いグロースハック”が多すぎる。グロースハックは単なるテクニカルワードではない。もちろん、達成すべき数字やABテストといったことも大事だが、前提として「達成すべき数字の先にあるものは何だ?」という発想が欠けている。

例えばフェイスブック。ここまでフェイスブックが広まったのはサービス自体の力もあるが、それだけでは1000万ユーザー程度だったと思う。海外留学帰りで外国人の友達もいる賢い人たちにはすぐに届く。そこは達成して当たり前。

当時、僕たちがイメージしたのは、国道一号線沿いのコンビニに深夜、仲間たちとたむろしている若者がフェイスブックを使っている光景。ここに届けるのが本当のグロースハック。だから目先の数字をあげるために登録ボタンの色を変えたり、ボタンの大きさを目立たせたり、ということはもちろん必要だが、グロースハックの本質ではまったくない。もっと日本のネットベンチャーは大きな視点でグロースハックしてもらいたい。

偉そうなことを言ったが、私たちのシンドットも走り始めたばかり。ただのネット発のサービスで終わらせるつもりはありません。伝統的なコンテンツサービスにも注目はしているし、ドライブはまだまだ加速する。

今の産業でネットは間違いなく一番面白い。世界的に見ればサッカーW杯クラスまで盛り上がっている。今のところアメリカが一強かもしれないが、台湾や韓国だって強いし、実はクロアチアだってダークホースとして実力をつけている。世界レベルの戦いに日本勢として参戦していきたいと思っている。

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(撮影:齋藤誠一)