2022/6/7

【解説】燃料電池自動車で猛追。中国の「水素戦略」最前線

INDEX
  • いつの間にか「シェア10%」
  • 中国初「水エネ戦略」ついに登場
  • 地域で「水素エコシステム」を形成
  • 各種産業との緊密な連携
  • 急がれる「グリーン水素」への転換

いつの間にか「シェア10%」

中国・広東省の雲浮市は、石造建築や採石場で有名な地方都市だ。
この雲浮市がいま、温室効果ガスの削減に革新をもたらすとされる「水素燃料電池自動車」の供給において、新たな境地を開拓している。
先日、筆者が訪問した広東国鴻水素エネルギー(Guangdong Nation Synergy Hydrogen Power Technology/Sinosynergy。以下広東国では、作業員たちが貯蔵タンクや水素燃料電池スタック(燃料電池で電気を発生させる板状の基本部材=セルを積み重ねたもの)を自動車に取りつけていた。
こうして完成した燃料電池自動車(FCV)は、中国北西部の寧夏回族自治区に運ばれていく。
この自動車には前方と後方にドアがあり、車内には24の座席と立っていられるスペースがある。外見はよくある通勤バスと同じに思えるが、その動力は全て水素の化学反応によって賄われている。
発生するのは水蒸気のみで、二酸化炭素など気候変動を引き起こす温室効果ガスは一切排出しない。
水素燃料自動車を組み立てる広東国鴻の作業員たち(写真:Yujie Xue)
中国で最も貧しい地域のひとつである寧夏回族自治区に送られる車の地味な外見の裏には、水素燃料電池を広めていきたいという広東国鴻の野望が渦巻いている。
6月30日で創立7周年を迎える同社は、中国の燃料電池スタックの70%を生産している。
広東国鴻のビジョンと野望は、雲浮市にある本社のエントランスにあるディスプレイに見て取ることができる。
ミニバス、トラック、路面電車、乗用車、船舶、航空機、ロケットに5G電気通信の基地局──その全てが水素燃料電池で動かせる未来だ。
現在、同社の燃料電池スタックを使用した自動車5000台近くが世界各地の道路を走行している。中国国内の燃料電池自動車では2台に1台に相当し、世界市場のシェアは10%だ
山間にある広東省雲浮市。ここが、中国の水素戦略の一大拠点になろうとしている(ViewStock/Getty Images)