2022/4/30

【解明】「昔はよかった」「最近の若者はダメ」論のウソと謎

「スマホ脳」から「AIが職を奪う」論まで、日々のニュースは新しいテクノロジーへの怖れに満ちている。
「最近の若者はけしからん」論も同様だ。
こうしたことから、ともすれば私たちは「昔はよかった。それに引き換え今は……」とボヤきがちだ。あなたも「世も末だ」とため息をついたことがあるはずだ。
「それはまちがいだ」と、いま世界が注目する歴史家ヨハン・ノルベリは指摘する。人類は、文字記録が残っている数千年前から「昔はよかった。それに引き換え今は…」とぼやき続けていたのだ。
それはなぜなのか?
昨日刊行され、ロケットスタートを記録しているノルベリの最新著『OPEN:「開く」ことができる人・組織・国家だけが生き残る』からお届けする。
INDEX
  • 「古き良き時代」とはいつのこと?
  • シュメール人の粘土板に記された「グチ」
  • 人は「10代」を懐かしむ生き物
  • 人は「35歳」以降の文化をバカにする
  • いつの時代も新技術は「迫害」される
  • 「傘」の利用は非難ごうごうだった
  • 「スマホ脳」もいずれ笑い話になる?

「古き良き時代」とはいつのこと?

人気ポッドキャスト番組「ペシミスト・アーカイブ」のあるエピソードで、ホストのジェイソン・ファイファーが、こんな取材を行っている。
ドナルド・トランプが宣言したとおり、アメリカを「再び」偉大にしたいなら、「そもそもアメリカが偉大だったのはいつか」を突き止めねばならないのではないか? 
ファイファーはそう考えたのだ。
最も一般的な答えは「1950年代」のようだ。そこで彼は学者たちに、1950年代が古き良き時代だったと思うかと尋ねてみた。
答えは「ノー」だった。
50年代当時の人々は、アメリカ都市部における人種、階級、暴動、そしていつでも起こりかねない核戦争という真の脅威に気をもんでいた。
人々は急速に変化する家族生活、そしてとりわけ新しい若者文化と、無分別で消費優先の大学生たちを懸念していた。
アメリカの社会学者たちは、「無軌道な個人主義が家族を引き裂いている」と警告した。
(写真:getty images/Hulton Archive)
ちなみに、今日の私たちが安定していたと追憶するこの時代、職の浮き沈みは今よりもずっと急激だった。当時の人の多くは「1920年代こそ古き良き時代だった」と指摘する。
では1920年代当時の人々はそう思っていたのか? これもノーだ。
20年代当時の人々は、急速な技術変化が人々の正気をおびやかすと心配していた。ラジオと録音された音楽が、あまりに速すぎるスピードと多すぎる選択肢を提供していた。
また自動車も同じで、若者たちの品行を損なうと考えられていた。当時のニューヨークタイムズ紙の記事で、科学者たちは「アメリカの生活は速すぎる」と結論づけている。

シュメール人の粘土板に記された「グチ」

ジェイソン・ファイファーと、彼がインタビューした学者たちは、「古き良き時代」の探求を続け、最終的に5000年前の古代メソポタミアに行き着いた。
文明と文字を発明してから、200年もしないうちに、今の生活がいかに苦しく、昔はもっと楽だったはずだという話が出てくる。どうやら最初の社会は、最初のノスタルジック社会でもあったようだ。
古代オリエント学者サミュエル・ノア・クレーマーは、指導者が民衆を虐待し、商人がだまし、そして何よりも家族の生活が様変わりしてしまったという不満を楔(くさび)形文字で記したシュメール人の例を見つけている。ある粘土板には「母親に罵声を浴びせる息子、兄に従わない弟、父親に口ごたえする兄」に関する悩みが記されていた。
要するに、若者が反抗的だというのが何やら現代特有の問題だと思っている人は、考えを改めなさいということだ。
人類史上のあらゆる世代は、その時代の困難を、世界が悪化した証拠だとまちがって解釈してきたのだ。
(写真:RichVintage/GettyImages)
この歴史的ノスタルジアについてのある重要な解釈は、「これらの問題を切り抜けたのはわかっているので、今にして思えば大した問題に思えない」、というものだ。切り抜けられたからこそ、私たちは今ここにいるわけだ。
だが、いま現在直面している問題を解決できるかどうかは、決して定かではない。
それはこれまでのすべての世代が直面した問題であり、だからこそみんな常に、もっと単純だった時代を懐かしむのだ。
私たちはラジオが若者を堕落させなかったのは知ってはいるが、スマートフォンがそうなるかどうかはわからない。
天然痘とポリオを克服したことは知っているが、エボラ出血熱やコロナウイルスについてはわからない。
冷戦で世界が滅びなかったことは知っているが、今後もそれはないと断言できるものか?
そしてこれはまた私たちに、祖先がその当時想像しうる限り最悪の苦境を解決しようとしたときに感じた、恐ろしい苦悩を忘れさせてしまうのだ。

人は「10代」を懐かしむ生き物