ティールは世界の「陰謀」の中心人物なのか?

2014/11/11
本当のテクノロジストは、ジーンズとTシャツ
ティールは穏やかで思慮深い物腰だが、彼の周辺に話を聞くと、多くの人が「使命(ミッション)」という言葉を口にした。彼は著書『ゼロ・トゥ・ワン』で、最高のハイテクスタートアップは、「カルトの中でもやや過激さに欠けるとみなされるような企業かもしれない」と書いている。
ではピーター・ティールのカルトは存在するのだろうか?
彼はかすかに笑みを浮かべてこう言う。「本格的なカルトはちょっと……」。
ティールのビジネス慣行についての理論は、エキセントリックに近いことがよくある。著書によると、シリコンバレーのクリーンテクノロジーブームが始まろうとしていたころ、ファウンダーズ・ファンドはスタートアップからしばしば支援を求められた。ティールは、スーツを着ているCEOには投資しないという包括的なルールを決めた。「本当のテクノロジストはジーンズとTシャツを着ているものだ」。
ティールがティール・フェローシッププログラムの一環である「20アンダー20サミット」に出席したときのエピソードもある。「秀才のサマーキャンプ」と呼ばれるこのサミットには、毎年、起業家を目指す若者(10歳の子どももいる)が招待され、ハイテクスタートアップで1日指導を受ける。
ティールが講演を終えると、未来のピーター・ティールを目指す若者が彼に名刺を渡そうとした。ティールは誤ったメッセージを送ることになるから名刺は受け取らないと断った。名刺を受け取れば、彼も名刺を渡すことを期待され、1人から名刺を受け取ったら、1日中名刺を受け取り続けなければならない。
それに本当に彼に連絡をとりたければ、その方法は見つかるはずだ、と言うと、別の若者がすかさず1ドル札に自分の連絡先を走り書きして、折り紙のように畳んでティールに贈った。彼はそれを受け取った。「これは君が作ったものだし、1ドルという確立された価値を持つものだ。だからこれは取引で、交換の条件は極めて明確だ」。
シリコンバレーが好きな人ばかりではない。大きな成功を収めた起業家の急増する資産や目に余る浪費は反発を受けることもある。昨年、ティールの友人で元ペイパル幹部のデビッド・サックスが40歳の誕生パーティーを開いたが、費用は140万ドルと伝えられている。サンフランシスコでは、不動産価格の高騰はハイテク部門の膨張した報酬のせいだと言われており、社員を市内からシリコンバレーのハイテクキャンパスに運ぶ会社のバスが投石を受ける事件も起きた。
陰謀論よりも衝撃的なこと
ティールはリバタリアニズムの理想、未来を形作るテクノロジーの力に対する強い信念、豊富な人脈によって、シリコンバレーの預言者とみなされるようになった。
ただしシリコンバレーの外には懐疑的な人もいる。ティールのリサーチをする中である記事を見つけた。ティールのシーステディングおよび人工知能への投資や、中央情報局(CIA)や国家安全保障局(NSA)の情報収集への協力と、ビルダーバーグ会議の運営委員会における彼の役割を結びつけ、ティールは「グローバルな議題を決め」、人間を「エリートの奴隷ロボット」にするためのテクノロジーを推進しようとする「シオニスト」の陰謀の中心人物だとする記事だ。
ティールにその記事を見せると、まるでデジタルスキャナーのように5秒で5ページの記事を速読し、当惑したように頭を振った。「これは間違いなく超いかれた部類に入る」。
ティールは、ビルダーバーグ会議が素晴らしいのは、政治的に正反対の立場にある人たちを結束させるところだと言う。2012年に会議が首都ワシントン近郊のホテルで開かれた時、ホテルの外では、左派の「占拠」運動と右派のティーパーティー運動がそろって抗議デモを繰り広げていた。デモ隊は、「デジタルカメラと中にいる裏切り者を処刑するための模造ギロチン台を持って並んでいた」とティールは振り返る。
「会議の参加者は、デモ隊を歓迎していた。抗議デモが行われるということは、中で重要な会議が開かれていることを象徴しているからだ。ただ私はむしろ、陰謀や、計画や、戦略が存在しないことに強い印象を受けた。世界には陰謀説があふれているが、古風な陰謀などはほとんど存在しない。計画を立て、将来について考えている政治指導者は、プーチン(ロシア大統領)か中国の指導部くらいのものだろう。衝撃的なのは、実際には何の計画もないということだ」。
では米国は漂流しているのか? ティールはこう答える。
「西側世界全体が漂流していると思う。欧州を訪れると、米国は欧州のことをどう思っているのかとよく聞かれる。どんどん気にかけなくなっている、というのが答えだ」。
ティールは自らの政治に対する姿勢は「分裂している」と言う。政治は「理論上は重要」だが、もう一方で、システムの動脈硬化があまりに進んでおり、「ダイヤルを動かすのが難しくなっている。多くの意味で、西側世界の政府と政治は反動的な力になり、進歩を止めてしまっている」。
次回へつづく。
(執筆:Mick Brown記者、翻訳:飯田雅美)
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